000000

このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment
小説投稿掲示板




◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十九話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 均衡というものに悩んでいる。
極端な話、手段を選ばなければフィアッセ達を守るべく過激な方法だって取れる。異世界という要素を取り入れれば決して不可能ではない。
同時に地球という惑星に異世界という要素を取り込んでしまうと、いわゆる均衡が崩れてしまう。他人なんぞ知ったことではないが、影響力が拡大すると身内まで巻き込んでしまう。

その辺の境目が気になったので、俺は日本に滞在している異世界連中とコンタクトを取った。

「先日起きた事件に関する報告は既に受け取っている。危険だと忠告したはずだが深入りしているようだな」
「えっ、何で知っているんだ」
「入国管理局を通じて、聖王教会と連携を取っているんだ。君が干渉すれば自動的にこちらへと伝わる。
緊急だったとはいえ、僕達を飛び越えて直接要望を出すのは控えてくれ。何事かと、こちらに問い合わせが来たんだぞ」
「あ、そうか……入国管理局は現地のお前らが管理しているんだな」

 ジュエルシード事件よりお世話になっている時空管理局、空局に所属しているクロノ執務官より苦情が入った。
俺は聖地へ直接申し出てセインを派遣してもらったが、緊急事態だと告げたせいで"聖王"の危機だと教会がパニックになったらしい。
本来であれば現地で調整を行っているクロノ達から連絡が来るはずなのに、俺が直接要望したせいで現場は何をしているのだと文句を言われたようだ。

教会の混乱は至極当然だったので、ひたすら頭を下げるしかない。

「君から直接確認を取ってもよかったのだが、アリサがすぐ知らせてくれた。あの子は本当に気が利いて助かる」
「それで事態を把握しているのか……あいつ、おれが後回しにしているからと気を回しやがったな」
「まあこうして直接会いに来てくれただけでも進歩というべきか。とりあえず、話を聞こう」

 かつて戦艦を指揮していたクロノ達は現在、最高評議会によって地球へ左遷されている。
ジュエルシード事件を発端とする一連の出来事。時空管理局の暗部にまで切り込んだことによって、彼らは管理外世界へ左遷されてしまった。
本来であれば何もできなくなるところだが、俺が聖地へ乗り込んで聖王教会と強い繋がりが出来た事で、現地と聖地との橋渡しとして重要な立場が確立されたのである。

最高評議会もこればかりは予想外だっただろうし、俺もまさかこういう関係にまでなるとは思わなかった。

「要人を狙った爆破テロに、超能力者を狙った武装テロか。ニ面作戦を展開したのは状況判断による決断と、状況把握による結果だろうな」
「状況判断は分かるけど、状況の把握? 状況を把握していた、というか把握できていると思いこんで行動に出たんだろう」
「確かに見通しは立てていたのだろうが、それでも未知数だったのには違いない。マフィアからすれば作戦の数々が失敗に終わっているのだからな。
思い切った行動に出ることで、こちら側の戦力や状況を把握するのも狙いだったのだろう」
「ニ面作戦まで展開しておいて、失敗も見越していたと?」

「主犯格は作戦の遂行を優先せず撤退したのだろう。君の存在を確認した上で、事件への関与も見られた。
一連の流れから君自身の意志や行動、そして君の背景にある戦力や組織力、そして政治的関与も把握している。

少なくとも僕が敵側の立場になって考えれば、この程度の分析はできる」

 ぐっ、俺が関与したことで事件は未然に防げたが、同時に事件へ関与したことで把握された事実もあるということか。
ディードと戦った剣士は明確に俺をサムライだと認識していたし、マフィア側も俺を捕まえる事こそ出来なくても存在や行動は確認できている。
下手に動かず隔離施設に隠れていれば手を拱いていたかもしれないが、事件を阻止することは出来なかったので難しいところだ。

マフィアはクリステラ親子だけではなく、俺自身もターゲットにしているからな。

「教会からは聖地への帰還を希望されている。天の国が危ういのであれば、聖地で保護する姿勢も見せてくれているぞ」
「マフィアも異世界まで乗り込めないから、これ以上無い安全策なんだろうけどな」

 それこそエルトリアまで逃げれば、絶対追ってこれないだろう。チャイニーズマフィアといえど、宇宙戦艦まで所有していない。
海外の凶悪なマフィアに狙われているという映画も真っ青な状況でありながら、俺が精神的に落ち着いていられるのは逃げ場があるからだ。
いざとなれば打つ手はある、頼みの綱がある。それだけで十分救われるし、落ち着いて対処できる。

問題なのはフィアッセが今落ち着いているのは、俺がその頼みの綱だからなんだよな。

「話した通り、俺の知人とその両親が狙われているからな。放置する訳にはいかないんだ」
「それもこの状況で変化するだろう」
「? どういうことだ」

「どういう事も何も、テロまで起きたのだぞ。民間人であろうとも、マフィアに狙われたのであれば政府は保護するだろう。
ましてお前の話では対象は高名な議員とそのご家族と言うじゃないか。テロまで起きたのであれば、それこそ国家が守る。

少なくとも民間人の君が出る幕ではなくなるだろうな」

 クロノの指摘は的を得ているし、俺自身自覚していることでもあった。
フィアッセは引き続き俺が護衛することを強く望んでいるだろうが、親父さんが認めるかどうかは別問題だ。
そもそも親父さんは海外の警備会社にまで依頼して警護させているし、エリスや警護チームも腕利きに見えた。

一年前まで山で木を拾って振り回していたチャンバラ男なんてお呼びではないだろう。

「今後の展開次第だが、逆のやり方も望める」
「逆……?」
「聖地で君の友人を保護することだ」
「えっ、でも異世界ミッドチルダに管理外世界の人間を連れて行くのはまずいんだろう」
「無論幾つかの手続きや承認、申請が必要だが……君に限っていればそもそも今更だ。
初めて聖地へ乗り込んだ時も、君の友人知人を連れて行ったじゃないか。あれだって本来は相当問題だったんだぞ」
「うっ、言われてみればそうだ」

 俺個人の事情しか頭になかったが、フィアッセを異世界へ逃がすという手段もあり得るのか。
どうしても異世界事情を考えてしまいがちになるので、俺個人としては思いもよらない発想だった。
安全に保護するという点で見れば、異世界ほど安全な場所はない。

絶対追ってこれないし、居場所さえ特定することも不可能だった。

「この一年の付き合いを通じて、君も自重することを覚えてくれたからな。
なのはは信頼していたが、正直最初の破天荒ぶりをみれば、管理局を含めた異世界事情が管理外世界に漏れる危険性も憂慮していた」
「おい、ジュエルシード事件が解決した時は俺を信頼するとか何とか言ってたじゃないか」
「君個人は信頼しているが、それはそれとして迂闊な行動や突拍子もない決断をすることだって多々あっただろう」
「い、いや、それはだな……」

 個人の人間性を信頼していても、個人の行動には目を尖らせるというある種の矛盾は人間であれば成立してしまう。
俺もクロノ達のことは信じているが、管理曲そのものは正義の組織だとは思っていない。
実際最高評議会なんて連中もいるわけだし、どんな人間でも組織でも裏表はあるということだ。

話を終えて、クロノは頷く。

「とにかく話は分かった。管理外世界とはいえ、僕達はこの地で赴任している以上守るべき責任と義務がある。
まして友人が危機に陥っているのであれば、尚の事手を貸さない理由はない。お互い連携して対応していこう」
「お前らが力を貸してくれるのはありがたい。
「今のところ状況は硬直しているようだが、僕達はひとまず犯人達の追跡と調査を行おう。
君は出来る限り動くべきではないが……出来ることはある」
「俺に出来ること?」

「被害者によりそう事だ。君とは接点が深いのだろう、今後どう動くのか伺ってみたほうがいい」

 フィアッセと親父さん、クリステラ親子が今後どう動くのか。
此度の事件を受けてどのような判断を下すのか。

場合によってはお役御免となるが……確認しておかなければいけないだろう。






































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/03/23(Sat) 21:19:46 [ No.1072 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十八話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  夜の一族は各国で幅を利かせているが、日本の一族は世界会議後は半ば神聖視されている。
夜の王女こと月村すずかの存在が非常に大きく、新世代の長が決まった後でも彼女の存在は偶像化されていた。
調整役兼連絡役となった綺堂さくらも忙しくしており、綺堂家は月村家と並んで家柄の格も上がっている。年頃であるだけに縁談の話も多いらしい。

そつなくこなすキャリアウーマンの彼女だが、再会するなり疲れた顔を見せる。

「色々言いたいことがあるけれど……
まず後見人として言わせてもらえば、すずかが年に数回しか帰ってこないのはやめてもらえるかしら」
「そ、そうだった……すっかり家族同然で住まわせてしまっていた」

 妹さんが当たり前のように護衛として同居していたので気付かなかったが、月村すずかは他所様の子供である。
始祖のクローンとして製造された妹さんは月村忍の妹として引き取り、世界会議による主権を得て正式に日本の一族預かりとなった。
後見人は綺堂さくらとなっているので、保護責任も生じている。彼女から信頼を得て預かっているとはいえ、保護者を蔑ろにしていい理由にはならない。

平謝りしながら、妹さんの近況を報告する。ちなみに本人は、久しぶりに再開した家族と向き合っている。

「すずか、侍君の女性関係になにか進展とか変化はない?」
「プライバシーの侵害だよ、お姉ちゃん」
「侍君に侵害されるようなプライバシーなんて無いも当然でしょう」
「うーん」

「妹さんが悩んでる!?」

 あるよ!? 俺にだってプライバシーとかあるよ!? 誰も考慮しないけどさ!
フィアッセの護衛という立場であることをさておいても、日頃から誰かと行動しているせいでプライベートな時間なんて無いと言っていい。
子供を持つ親であれば当然かも知れないが、十代の健全な男としては悩ましきところだった。少年時代、誰にだって一人の時間を求める事がある。

俺はもう半ば諦めつつあるが、それでも確固として主張しておきたいところだった。

「日本に帰ってきていたのは知っていたけれど、それでも帰宅どころか義務的な提示連絡のみだから」
「うーん、うちの妹さんはハードボイルドだね……」
「流石に悪かった。きちんとした連絡は俺からもするように心がける」

 ちなみに同居している間に発生する妹さんの生活費等は、うちから出している。請求等は一切していない。
綺堂さくらは勿論として夜の一族から申し出はあったが、あくまで妹さんは護衛として雇っているので賃金で自立できているのだ。
見た目こそ子供ではあるが、妹さんにはこの一年数え切れないほど救われている。この子がいなければ、あらゆる局面で乗り越えられなかっただろう。

本当ならボーナスとかも出したいところだが、妹さん本人に固辞されている。労働条件の交渉はアリサに任せているが、難航しているようだ。

「大変な事件に遭遇していると聞いたよ。ファリンとか呼んだらわたしの出番だとすっ飛んでくるんじゃないの」
「出動要請はしない方向で」
「あの子なら、いつでも出撃できるのに」

 そんな妹さんを補佐する立場なのが、自動人形のオプションことファリン。特撮映画のヒーローに憧れるメイド少女である。属性が多すぎる。
オプションとはいえ自動人形なので戦闘能力は高いが、ヒーロー映画で目覚めた自我は厄介で、正義ゆえの暴走に走りやすい。
だからこうして要請という形で制御しており、日頃は待機させているのである。行動力はなかなかのものだが、デリケートなテロ事件には向いていない。

そんな彼女の姉役である女性メイド、ノエルはその点弁えているが――

「忍は何とか学業を修められそうだから、卒業したらノエルも貴方の元へ行くことになりそうね」
「ぐっ、ノエルは歓迎なのだが……ちなみに留年の危機とかは」
「残念ながら卒業は確定よ」
「残念だとハッキリ言ってるよね、さくら!?」
「良介が忍の雇い主となるので、立場は上になるのよ」
「しまった、そうなるんだ!?」

 綺堂の遠慮なき発言に忍が物申すが、社会的立場と階級を告げられて忍はギョッとした顔をする。 
すったもんだあったが、結局月村忍は就職の道を選んだ。綺堂さくらより大学進学の道も進められたが、学業の必要はないと説得したらしい。
別に庇い立てする気はないが、この一年も休学とか繰り返していたので、学校へ通う意味はなくなっていたのかもしれない。

世間的にあまり喜ばしいことではないかもしれないが、本人が持つ知識と技術力は一応社会に通じるので、路頭に迷うことはない。

「シュテルがいるから大丈夫だと思うけど、二人は元気にしているの?」
「エルトリアの開拓に貢献してくれているよ。
なんかCW社の技術開発部と連携して、本人達のメンテナンスがてら改造とかしているみたいなんだが」
「お、そろそろ実用化の段階か。早く卒業して私も合流しないと」
「うちの会社で何しているんだ、お前ら!?」

 ノエルとファリンはエルトリア組で、今も惑星の発展に尽力してくれている。
悪辣な環境でも労働可能な彼女達は自らのスペックを高めつつ、開拓に励んでくれている。
あくまで本人たちの希望であることを大前提として、エルトリアの環境を利用した改造実験を行っているようだ。

自動人形はロストテクノロジーで製造された代物で高い技術はあるが、それでも古い。ミッドチルダやエルトリアの技術を取り込んで今、彼女達は生まれ変わろうとしている。


「とりあえず侍君達が元気なのは分かって安心したところで、忍ちゃんからお願いがあるの」
「お前は来なくていいからな」
「卒業式まで絶対良介と行動してはダメよ」
「ちょっと、予防線を張らないでくれるかな!?」

 魂胆見え見えである。さくらと互いに頷き合って、きっちり牽制しておいた。
物見遊山で来られても迷惑だし、だからといって真剣に来られてもやってもらうことは限られている。ファリンとノエルという従者もいないしな。
今回の事件で、こいつが持っている技術を活かせる場面は少ない。コンピューター技術は活かせるかもしれないが、現状特には必要としていない。

忍は唇を尖らせつつ、申し出る。

「合流はとりあえず諦めるとして、お願い事はちゃんとあるよ」

 忍はそう言って、ニヤリと笑う。
この時点で嫌な予感がした。






































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls

2024/03/16(Sat) 15:47:00 [ No.1071 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十七話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 協力者で思い浮かぶのは神咲那美と久遠だが、あいにくとあいつらは今回被害者側だったりする。
襲撃こそディアーチェやディード達が阻止したが、さざなみ寮がマフィア達に襲われたという事実そのものは覆せない。
リスティ・槇原が寮の管理人さんを通じて今、寮の住民のカンフルケアに励んでいるらしい。癒やしの力を持つ那美も協力してくれているようだ。

退魔師としては半人前でも、あいつは聖地へ同行して白旗を立ち上げた協力者でもある。戦乱を駆け抜けた経験値は伊達ではない。

「寮の住民にもツテはあるらしく、警備を強化するそうです。関連各所への根回しも進めているとのことですね」
「何者なんだ、あの住民達は……」

 御剣いづみも気を使い、寮の様子を確認してくれたようだ。本人達のコネもあるようであれば、こちらが変に干渉する必要もなさそうだ。
HGS患者が引き続き狙われるのは間違いないが、リスティ本人が強力な超能力者なので護身は行える。その分、今さざなみ寮が一致団結して警護面を強めているのだろう。
ということで那美達は自分達のことで精一杯なので、協力は見込めない。こちらも巻き込むのは気が引けるので、連絡を取って安全確認する程度に留めておくのが良さそうだ。

高町家への説明は済んだので――次の関係者に当たる。


「おかえり良介。いきなり会いたいと連絡してきたからびっくりしたわ」
「ふふ、驚かせてやろうと思ったのだ。家族らしいだろう」
「忍さんに会いたくなかったんやろ」
「ちっ、バレたか」

 以前高町の家を出た時に世話になった、八神はやてを尋ねる。八神家へ直接行けば早かったかもしれないが、今回待ち合わせをした。
以前世話になっていた八神の家は色々あって、住めなくなってしまっていた。当時彼女達は、月村家にお世話になっていたのだ。あいつの家はムダに広いからな。
その縁で月村家と八神家は親しくなり、交流を深めていった。俺もエルトリアに出向いてしばらく留守にしていたから、はやて達がどうなったのか落ち着いて聞けなかった。

そういった事もあり、忍と繋がっているこいつとは家には出向けず、外で待ち合わせするしかなかった。

「……すげえな。一度立ち上がれるようになると、回復も著しいな」
「あはは、わたしとしてはまだまだやけどな。ヴィータやザフィーラに付き添ってもろてようやくや」

 外で待ち合わせしたのは俺の事情もあるが、はやてからの希望でもあった。彼女は車椅子ではなく、自分の足で立っている。
完全に回復したのではなく、はやては杖をついていた。松葉杖と言った大袈裟なものではないが、歩行を補佐する役割を持った立派な杖だ。
本人の話では、デバイスの一種であるらしい。はやては魔導の才能はあるが、熱心ではない。ただ夜天の主として、魔導の道具は使えるようだ。

本人曰くあくまで日常生活を補強するために活用しているようだ。

「おっす、話には聞いてたがシグナムとシャマルは帰って来てねえんだな」
「こちらは何事もなく平穏に過ごしている。主も見ての通り、健やかに営んでいる」

 ヴィータとザフィーラ、少女と小狼の姿をした騎士達は元気そうだった。守護騎士達は現在別行動中である。
聖地の戦争ではヴィータとザフィーラが、エルトリアの開拓ではシグナムとシャマルに力を貸してもらった。
俺はフィアッセの脅迫の件もあって海鳴へ帰ることになったため、エルトリアの事はシグナム達に引き続き頼んでいる。

おかげで今戦力不足ではあるが、さりとてシグナム達を呼び戻すと過剰戦力になる。こういうのは判断が難しい。

「帰ってくるのは全然ええんやけど、急に顔を出したのは事情がありそうやね。まあ昨日の今日やから何となく理由はわかるけど」
「相変わらず妙に敏いやつだな、勘ぐられていたか」
「平和な街で爆弾騒ぎなんて起きれば、良介の関与を疑ってしまうよ」
「何でだよ、俺だって民間人だぞ!?」

 どういう関与を疑っているんだ、こいつ。確かに事件に関わってはいるが、テロと個人を結び付けられるのは多いに心外だった。
八神家の主であるだけではなく、俺が昔やっていた何でも屋の仕事を公認してくれただけあって、こいつは最近社会人じみている。
料理が上手な子供と言うだけではなく、老人介護まで引き受けられる幅を広げていると、社会へも目を向けられるようになったらしい。

夜天の主ともあると、指揮官的な特性もあるのかもしれない。こいつには豚に真珠でしかないだろうけど。

「どこかで腰を下ろして、と思ったけど、せっかくだし歩きながら話すか」
「そやね。事件後に不謹慎かもしれんけど、人通りも少ないから静かに歩けるしね」

 はやては俺の事情に精通しているので、変にごまかさずすべての事情を打ち明けられる。忍とも関係を深めているので、夜の一族の事情も少しは聞き及んでいる。
HGSに関してモフィアッセ達個人の事情を除けば、ある程度はきちんと説明もできる。超能力なんて、魔導のことまで知るこいつらからすれば決して未知なる分野ではない。
とはいえ日常とは程遠いキナ臭さではあるので、心を傷めないように気を使って話す必要はある。

俺は歩きながら、はやて達に説明をした。出会った当初は、はやてと並んで歩くなんて想像もできなかった。

「なるほど、これまた大変なことになってるんやね……わたしらに出来ることがあれば力になるよ」
「助かる。とはいえ今すぐに何かしてほしい訳じゃない」
「ふんふん、何か起きた時のための心積もりやね。声をかけられたら動けるようにしておけばええんか」
「くそっ、何か妙に察しが良くなったな」
「何でちょっと不満そうなんよ。これでも良介の家族やからね、色々考えられるようになっておかんとあかんやろ」

 八神はやては家族を得て、俺との生活を通じて成長していた。高町なのはのような健やかさではなく、少し背伸びをした少女として。
急に指揮官のような振る舞いができるようになったのではない。ただ少なくとも、自分の限界を受け止められている。
だからこそこの一年、海鳴でボランティア活動などを行って、少しでも早く大人になろうと努力したのだろう。

背を伸ばせないのであれば、せめて背伸びをして大きくなろうとしているのだ。

「合流してやりてえが、はやても言った通りアタシらが押しかけても急に何かが出来るわけじゃねえからな。
ただヤバくなったら、遠慮せずすぐにアタシに言え。

お前に手を出すことがどういう結果を招くのか、叩き込んでやるからよ」
「防衛であれば望むところではあるが、お前の支援者や協力者が対策を練っているのであれば、むしろ邪魔となろう。
その分気を張って、この街の見回りに当たるとしよう。お前の身内に手出しできないように守ってみせる」
「お前らなら安心して任せられる。いざとなれば頼んだぞ」

 海鳴に居を構えている以上、この街ははやて達にとってもある種縄張りでもある。
今までは事情も不明で自分達に塁が及ばないのであれば関わらなかったが、話を通しておけば別である。
マフィア達が俺たちへの牽制も兼ねて街を襲おうとすれば、ヴィータ達が防衛してくれる。この点だけでも十分ありがたかった。

力になってくれる存在がいるだけでも心強い。

「爆破テロ事件が起きて、街の人達も不安に思っているからね。パニックにならんように、ご近所さんにもわたしから話しておくわ。
だから街のことは安心して任せてくれればええけど」
「けど?」

「忍さんの事、あんまり除けもんにしてると自分から行動するかもしれんよ。連絡くらいしてあげたほうがええよ」
「えー、面倒くさいな……」

 心底嫌でそう言うと、はやては苦笑いしていた。俺の複雑な感情も、今のこいつなら理解できるらしい。
あの女も空気くらいは読めるので過干渉はしてこないだろうけど、無干渉で居続けると確かに押しかけてくるかもしれない。

厄介な女だった。






































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
- 関連ツリー

2024/03/09(Sat) 14:34:20 [ No.1070 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十六話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 相変わらず他人優先のお人好し一家に説明を終えた跡、俺は恭也と美由希だけ呼んで耳打ちしておく。
犯人達の狙いはクリステラ一家ではあるが、フィアッセの身内である高町家も無縁とは言い切れない。
幸いにも俺が海外で武装テロから救出した要人たちが恩義を感じてくれており、この家も警護してくれるようになった。

桃子達に話すと不安に思うかもしれないので、お前達にのみ話しておく――こんな感じで、夜の一族からの関与を言付けしておいた。

「お前の縁で俺達を警護してくださっているのか、それはありがたいな……」
「直接お礼を言いたいけれど難しいよね。伝言みたいで申し訳ないけど、良介から感謝を伝えておいてくれるかな」
「ああ、分かった。桃子達に不審に思われるような警護はしないだろうけど、お前達も警護がいるという点は頭に入れておいてくれ。
不審人物かどうかの区別は一見付きづらいかもしれないが、気になったら俺に連絡してくれ」

 恭也と美由希なら不審者かどうかの区別くらいつくだろうが、一応念の為連絡先は伝えておいた。
あまり他人と繋がるような連絡手段は持ちたくないのだが、最早この期に及んでそうも言ってられなかった。
一人旅とか出られない身の上になってしまって複雑だが、まあ全ては落ち着いたらそういった機会もあるかもしれないしな。

アリサと二人でのんびり放浪するのもいいかもしれない、妹さんも護衛で来るだろうけど。

「ただ本人から聞いているかもしれないが、多分しばらくはフィアッセと連絡を取るのは難しくなると思う。
代わりと言っては何だが、俺から様子を聞くくらいは出来るから言ってくれ」
「……お前には本当に世話になっているな。この恩は決して忘れないし、俺達に出来ることがあるなら言ってくれ」
「感謝を感じてくれているのなら、ディードを鍛えてやってくれ」
「任せて、良介よりも強くしてあげるからね」
「洒落にならんからやめろ」

 恭也は恐縮してばかりだが、美由希はむしろ俺に冗談まで言えるようになっている。去年和解してから、こいつの距離感も妙に近い。
美由希は昨年起きた家族問題を経て恭也と結ばれたので、恋愛感情なんぞ沸く余地はない。そういう意味では、男女の友情は恋愛を超えて成立したと言える。
恭也と正式に結ばれて、美由希も精神的な余裕と充実を得ている。義兄妹だからこその関係と言えるが、お互いを支え合っているようだ。

こういう状況だからこそ、二人に安定感があるのは頼もしかった。うちの子を預けるのだから、どっしり構えてほしいしな。

「良介さん、俺に出来ることはありませんか。何でもしますよ!」
「なんではしゃいどんのや、この猿。不謹慎やろ」
「う、うるせえな……俺は助手として良介さんの力になりたいのであって」

 城島晶が熱心に俺に訴えかけてくる。高町家の一員だから事情を説明する必要があっただけで、こいつを巻き込むつもりはない。
以前俺の事情でこいつを巻き込んでしまったので仕方なくある程度関わらせたのだが、その後も何だか懐かれてしまっているようだ。
城島晶は男勝りだが、あくまでも少女。空手を学んでいるとはいえ、道場レベルであって実戦経験は積んでいない。

俺もあまり偉そうなことはいえない。実戦経験はあるけれど、マフィア相手では晶とあまり大差はない。

「そうだな、レンと一緒に行動するというのはどうだ」
「やめてや、クロノさんに迷惑かけるやろ」
「クロノと一緒に行動しているんだな、今も」
「あっ」

 俺が何気なく指摘すると、レンは顔を真赤にして俺を睨んだ。別に誘導尋問した訳じゃないぞ。
レンはクロノから事情を聞かされているので、晶を窘めている。マフィア達相手に遊び半分で挑んではいけない。
クロノと一緒に行動しているのだって、別にレンが戦えるからではない。町の事情に精通しており、現地協力者として弁えているからだ。

現地協力者――そうか、こういう考え方もあるな。

「分かった、じゃあ晶にも協力してもらおうか」
「ちょっと良介、晶を事件に関わらせるのは」
「分かってるよ――晶、この道場で世話になるディードには双子の姉妹がいる。
そいつはこの町に詳しくないから、現地案内して手助けしてやってくれ」

 爆破テロ事件が起きた後で今事態は硬直化しており、なのは達に説明もしたがマフィア達は一時的に撤退している。
ディードも剣の修行に励むとあって、オットーも自分にできることを行うべく試行錯誤している。
オットーの能力はレイストームと呼ばれ、広域攻撃や結界能力といった能力全般を行使できる。射撃に秀でているが、結界の側面もある便利な能力だ。

この町における俺の関係者各位の防衛力を高めるべく、町中を探索すると言っていた。その手伝いを行ってもらおう。


「オットーは専門家だから、指示には必ず従うように。ただ年頃の女の子でもあるから親しくしてやってくれ」
「そういう事なら任せてください。一緒に協力して事件解決に貢献します!」

 性格こそぜんぜん違うが、人見知りしない城島晶の活発な一面ならオットーとも上手くやれるかもしれない。
俺の手伝いをしてくれるのはありがたいが、ディードやオットーはまだまだ生まれたばかりの子供だからな。
あまり血なまぐさい事ばかりに付き合わせてばかりなのもどうかと思うので、こうやって少しでも他者とも交流を深めて欲しい。

……肝心の俺がそういう事を進んでやっていないのだが、その点は棚上げしておく。

「このまま犯人が捕まって解決してくれたら一番ええんやけど、高望みなんかな」
「分からんとか言いようがない。ただ俺としてはあまり悲観的には見ていない。
事態は決して悪化している訳じゃないし、皆それぞれ無理せず出来ることをやっているからな。

最悪が起きないように立ち回っていくんだ」
「ふーん……以前とは違うポジティブさやな」
「以前は何だったんだ」
「何の根拠もなかったやん」
「ぐっ……」

 自分が強いということに何の疑問も抱いていなかった。だからこそ現実との乖離に苦しまされ、多くの被害が出てしまった。
レンも過去プレシア二誘拐された経緯もあって関わっていたからこそ、こうして苦言を述べている。責めているわけではないのだとは分かっている。
こいつとの関係も今では腐れ縁的な繋がりとなっているが、軽口が叩けているだけでも少しは進展していると言うべきか。

まだ恋愛とまでは言わないが、クロノとも親しく出来ているようだし、上手くいってほしいとは思っている。


「おにーちゃん、準備できました。行きましょう」
「行きましょうって……お前、一緒に来るのか」
「はい。フィアッセさんの事も気になりますし、なのはも関わってますから」

 桃子がよく許可したものだと思ったが、そういえば無理はしないようにすると先程約束したばかりだ。
案外お目付け役として高町家から抜擢されたのかもしれない。なのはが一緒なら、俺も無茶はしないだろうと。

その考え方は的を得ているので、何だかムカついた。家族というだけあって見透かされている。

「分かった。いざとなったらお前に砲撃魔法でもしてもらうか」
「ええっ、人に向けて撃つのはちょっと……」
「砲撃の意味がねえ!?」

 何のために魔法を学んだんだ、こいつ。
とりあえず高町の家にディードを預けて、俺は次の行動に出る。

協力をお願いできるアテはある。






































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
- 関連ツリー
2024/03/03(Sun) 00:16:31 [ No.1069 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十五話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  いつも悩むのはこの瞬間――他人に事情を説明しなければならない時である。
俺が全ての事情を知っているが、相手側はそうではない。それぞれの環境や立場、考え方や価値観をふまえて考慮する必要がある。
例えば高町家の連中に異世界の事を話しても埒が明かないし、ミッドチルダの連中に地球について説明するのは日が暮れる。他人に理解できるように説明するのは難しい。

今回の場合だとフィアッセ達HGS患者の事、超能力の事、チャイニーズマフィアの事、うちの子達魔導師や戦闘機人の事を、彼らに説明するのは困難だった。

「まず予め言っておくと、個人的な事情や政治的背景があって、お前たちでも話せない事がある。申し訳ないが、そこは分かって欲しい」
「まさかあんたの口から政治とか個人とかの配慮や言葉を聞くことになるとは思わんかったわ」

 お茶やお茶菓子を用意しながらレンは茶化してくるが、批判ではなく肯定の意味合いで場を和ませてくれたのだ。
彼女はジュエルシード事件でプレシアに誘拐された経緯があって、異世界事情はある程度知っている。だから俺の言いたいことは察してくれている。
実際この事件でもシルバーレイの暗躍を、現場で見知って支援してくれた。まだ学生の身分だが、大人の事情を感じてくれてはいるのだ。

晶は再び俺に関われそうだと分かって興奮気味に頷き、恭也達も理解を示してくれた。

「そのうえでおまえ達だからこそ話せることもある。今から話すことは絶対に他言しないでほしい」
「分かったわ、約束する。私達のことを信じてくれてありがとう」

 この中で唯一大人と言い切れる女性の桃子が代表して、嬉しそうに承諾してくれた。俺が心を開いてくれたのだと思っているらしい。
そんなつもりは別にないのだが、考えてみれば高町家相手に家族だからこそ言えるような話はあまりしてこなかった気がする。
別に避けていた訳ではないのだが、殊更になって打ち明けるのも気恥ずかしい気がして言えなかったのだ。

あるいは家族だからこそ、敢えて言えなかったという不思議な気持ちがあったのかもしれない。

「ではまずお前らが一番気がかりなことから話すと、フィアッセは無事だ。父親に保護されていて、事件による精神的なショックもさほどない。
今何が起きているのかについて、俺が海鳴に帰ってきてからの経緯を話そう」

 HGSや超能力についてはフィアッセ個人の事情なので、俺から打ち明けるのは違うので黙っておく。誘拐や爆破テロについては、フィアッセのご両親の事情で説明できる。
その上で何が起きていたのかについては、ある程度正確に話した。この辺は俺の人間関係なので、別に隠し立てするほどではない。どうせバレるだろうし、ある程度は説明しておく。
なにしろディアーチェやディード達は自分から俺の子供だと胸を張ってるし、俺のような民間人が何の背景もなく事件に関わってるのだとすると桃子達も心配するだろう。

だから俺の事情を説明することでフィアッセの素性への関心を逸らし、この先も事件に関わっていくことへの免罪符とした。

「以前からある程度は聞かされてはいたが……その子は本当に、お前の子供なのか」
「俺の遺伝子より製造されたクローンだ。特殊な育ち故に、特殊な力を持っている。
今回の事件でもこの子達の能力を活かし、テロ事件を未然に防ぎ、フィアッセ達への支援を行っている」
「爆弾の解除に、マフィア達の襲撃阻止……またドエライことに巻き込まれてるな」

 恭也達はともかく、レンはクロノからある程度聞かされているはずだが、この場で聞いた事にして感想を口にしている。
桃子は俺の留守中ナカジマ家の子供達の面倒を見てもらっているので、家族方面の事情は分かっている。
ディードがクローンとして創り出されたと聞いても、誰も眉を顰める素振りもない。肝の座った連中だと思う。

まあ、そういう奴らだと分かっているからこそ話しているが。

「では先日起きた爆破テロ事件はやっぱりフィアッセやご家族が狙われていて、それを良介が守ってくれたんだね」
「守ったというか、爆弾の解除に協力しただけだ。警備をしてくれたのはあくまで親父さんが雇った連中だよ」
「エリス・マクガーレンか……彼女がフィアッセを守ってくれているのか」

 感謝の意味を込めて事情を確認する美由希に大袈裟だと俺は手を振る傍らで、恭也はむしろフィアッセの護衛について考える様子を見せる。
少し聞いてみると、共通の幼馴染らしい。どう見ても外国人だった筈だが、フィアッセを通じて関係がある様子だった。
他人の人間関係なんぞ踏み込む気はないのだが、複雑な事情でもあるのか恭也は難しい顔を崩さない。

エリスも美人だったし、こいつ堅物に見えて女関係が広いな……羨ましいとは全く思わないけど。

「フィアッセさんが無事なのは安心ですけど、話を聞いた限りまだ帰ってこれないんですよね」
「犯人達はあくまで追っ払っただけで、捕まった訳じゃないからな。
ニュースでは解決したみたいな口ぶりだけど、諸外国とも協力してテロ撲滅に動き出すところだ」
「おにーちゃん、逃げた犯人さん達はまだこの町にいるんでしょうか……」
「少なくとも現場からは流石に撤退したはずだ。警察連中も鬼のように追跡しているだろうし、身を潜めるか距離を置くはずだぞ」

 マフィア相手に常識を語るのも馬鹿らしいが、作戦自体は失敗の連続なのでこれ以上無理な行動には少なくとも今は出ないだろう。
警察や国の話をしているが、実際は夜の一族の連中も動いてくれている。彼女達にとっても敵組織が敗走している今がチャンスとも言えるからだ。
世界中から追われる身となっているが、チャイニーズマフィアという立場からすれば同情する余地なんぞ無いし、そもそも最初から肯定される存在でもない。

心配そうな晶やなのはに、俺は安心材料を口にした。

「と、ここまで口にしておいて何だが、この子に剣を教えてやって欲しい」
「……一つ聞くが、剣を学びたいのは犯人への報復の為か」
「その気持ちがないと言えば嘘になります。ですが私にとって一番の気持ちは、あくまでもお父様です。
お父様の娘として、私は剣を育てていきたい。

凶賊を逃したことへの責任は、自分の剣を見つめ直す形で取りたいのです」

 そう言ってディードは深々と頭を下げる。長い黒髪を揺らし、声を震わせて嘆願した。
敗北を屈辱に思わないはずがない。初めての挫折に甘んじる真似は絶対にできない。
次こそ勝つという気持ちは犯人への復讐心は確かにあるだろうが、それ以上に自分の襟を今一度正したいのだ。

真っ直ぐな姿勢に恭也は感嘆の声を漏らし、美由希は少しだけ苦味のある微笑みを見せる。

「いやはや、こんな良い子がと思ってたけど……やっぱり良介の子供だね。負けっぱなしでは終われないか」
「どういう意味だ。お前だって似たようなものだろう」
「あはは、まあね。たとえ女だって、剣で負けたくないもん。すごく気持ちが分かる、一緒に頑張ろうね」

 妹弟子が出来て嬉しいのか、なんだか美由希のほうが嬉しそうだった。桃子も笑って、家で面倒を見るとまで言ってくれた。
昔俺が居候していた部屋も、ディードに貸出してくれるらしい。しばらく表立って動けないので、俺と一緒に行動する必要もないしな。

ある程度話が一段落したことで、恭也が最後に確認をした。

「良介、フィアッセ達を狙った爆弾犯について何か知っていることはないか」
「何だ、急に。最初に言ったがまだ確定事項じゃないし、直接顔を見ていないのもあるから断言して話せないぞ」
「そうか……いや、少し気になってな。
お前にもいずれ――いや、お前だからこそ話したいことがある。

母さんとも話し合った上で心を整理して、伝えたい。後日改めて話せないか」
「? ああ、分かった……」

 爆弾犯についてはコードネームとそれに纏わる逸話しか聞いてないので、恭也達には知らせなかった。
犯人の凶悪さなんて伝えても怖がらせるだけし、そんな奴に狙われるフィアッセのことが心配になるだろうしな。

ただ、彼らの暗い顔が少し気になった。






































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/02/24(Sat) 16:57:39 [ No.1068 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十四話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  かつてお世話になっていたからと言って、突然家に帰るような真似はしない。高町なのはには前もって帰宅を告げておいた。
俺が高町の家に帰る事をなのはは大喜びして、桃子達にも嬉々として伝えてくれたようだ。小学生は何事もオーバーで困る。
平日の昼間ではあるが、爆破テロ事件が起きたとあってなのは達も今日は休んだらしい。家族の一人がテロに巻き込まれたのだから、気が気でないのだろう。

御剣いづみは警備目的と、俺に気を使って周辺警戒で場を辞した。俺達だけで玄関のチャイムを鳴らすと、なのはが駆け出してきた。

「おかえりなさい、おにーちゃん!」
「ほら、ドヤ顔してるだろう。絶対こいつ、いの一番に迎えようと一時間くらい前から待ち構えていたんだぞ」
「必死だね、なのはちゃん……」

「帰ってくるなり色々言われてる!? すずかちゃんも視線が冷たいよ!」

 私服姿でニコニコ駆け寄ってきたなのはに対して論評すると、妹さんも静かに頷いている。嬉々としていたなのはは仰天していた。
身内が事件に巻き込まれた影響があるかと少し気にしていたが、思いがけずなのはは元気そうだった。
気にしていない訳はない筈だが、フィアッセが無事なのは伝わっているので、心配ではあるが落ち込んではないのだろう。

むしろなのはは俺の隣りにいるディードを心配そうに見ていた。

「ディードちゃん、大丈夫!? 怪我してる!」
「不覚はとりましたが心配には及びません、なのは叔母様」
「おばさんって言われた!?」

「父より叔母さんはお父様の妹と伺いました」
「うっ、立場的にはそう、なの、かな……」

 高町なのはとディードは面識があるが、俺とディードが親子であることには今も受け入れがたい様子だった。まあ、俺も正直現実味は今もちょっとないけれど。
そもそも俺となのはは兄妹ではないので苦悩する必要はまったくないのに、なのははくだらない事で悩んでいた。
皆良い子だし、アリサが金を稼いでくれているので苦労はないのだが、もし浮浪者時代に子供達を預けられたら、生活や家庭環境で地獄を見ていただろう。

子供が可愛いというだけでは、人間一緒に生きていくのは難しいのだ。


「相変わらず騒がしい男やな」
「お帰りなさい。美味しいご飯たらふく作って待ってましたよ!」

 鳳蓮飛ことレンと、城島晶。青髪の少女と緑髪の少女が顔を揃えて、出迎えてくれた。
この二人は立場的に俺と同じ居候組である。レンは両親の海外出張のため高町家に滞在し、晶は家を空けがちな両親の都合で住んでいる。
最初は全く気にしていなかったが、両親がいつまでも不在なのを以前指摘すると、お互いに放任主義であるらしい。

俺とは違って高町の家に生活費等は振り込まれているので、生活面の苦労はないそうだが。

「レンに聞きましたよ。どうして俺も呼んでくれないんですか! 力になったのに」
「アホか、昨日のニュースを見たやろ。ほんまものの事件が起きてるのに、アンタみたいなのを連れ回せるかいな。
うちかてクロノさんの力になりたいけれど、自重して無事を祈ってるんやで」
「先日はありがとうな、助かった」
「何やっとるねんと言いたいけど、あんたも苦労していることは聞いてるよ。話は聞くけど、まあゆっくりしていきや」

 レンはジュエルシード事件でお世話になったクロノとその後手紙のやり取りなどをして、関係を築いている。クロノ達が海鳴に派遣されてからは、異世界の地に馴染むよう力になっているようだ。
クロノ相手に献身な姿勢を見せている影響か、日々勃発していた晶との喧嘩も最近鳴りを潜めているらしい。晶も晶で、俺の留守中は人助けとかで大いに活動しているようだ。
晶は俺の事情に巻き込んでしまったので、ある程度こちらの事は把握している。だからなのか、少女とは思えないほど冒険心を満たされて、俺を手伝いたいとあれこれ干渉してくる。

二人の意見や考え方は違うが、俺達のことを心配してくれているのはわかった。


「帰ったか、宮本。なのはからも話は聞いた。大変だったな、本当に」
「フィアッセの事、守ってくれて本当にありがとう。
本当は力になりたいけれど……事情もまだきちんと分かってなくて、恭ちゃんとやきもきしてたんだ。

無事なのは分かってるんだけどやっぱり心配で、話を聞かせてね」

 高町恭也と、高町美由希。俺にとっては始まりの剣士であり、今も遠い目標となっている二人。
以前高町の家では問題が起きて家族分裂しかけていたが、その後の経過もあってどうやらきちんと立ち直れたようだ。
不安や心配こそあるが、顔色は悪くない。精神的にも落ち着いていて、先弓が見通せない状況でも把握しようと努めている。

剣士としてはきわめて真っ当な姿勢で、安心できた。

「お前たちに後で頼みたい事がある。この子に剣を指導してやってくれないか」
「初めまして、ディードと申します。御指導よろしくお願いいたします」

「きゅ、急な話だな……」
「……何か圧の強い子だね。良介によく似てる」

 容姿はぜんぜん違うはずなのだが、俺に近しいものを感じたらしい。二人して気後れさせられたようだ。
こうしてみると、不思議な因縁を感じる。俺はかつて自分の力不足を痛感して、御神美沙都に教えを請うた。

師匠は才能がないのであれば、知識と経験で補うよう徹底的に叩き込んでくれた。あの時の教えがなければ俺は生き残れなかっただろう。

そして今俺の娘であるディードは、御神に縁のなる高町兄妹に教えを請うている。
この子は俺とは違って才能にあふれているが、それでも知識と経験は圧倒的に足りない。

成り行きでしかなかったが、高町恭也と美由希に教わる事は必ずプラスになるはずだ。


「ふふ、可愛いお弟子さんが出来たわね」
「……桃子」
「ほらほら、まずは言うべきことがあるでしょう」

 高町桃子――家族分裂の危機で悩んでいた女性は、真っ直ぐに立ち直っていた。
陰りはもはや微塵もなく、家族への愛と母の逞しさに溢れている。
家を守り続けている一家の大黒柱は、家族の明るさに照らされて母の愛を取り戻していた。

そんな彼女を目の当たりにして、俺も不思議と笑うことが出来た。


「ああ、ただいま」





































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/02/17(Sat) 20:10:52 [ No.1067 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十三話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  昨日事件が起きたばかりで動く訳にはいかず、一旦その日は休養がてら様子見。
その間に政治的な交渉や調整が行われて、各方面で事件の後始末が行われたようだった。
結局事件を解決したのは日本側ということになり、自国で起きた国際テロ事件を自分達の手で解決する形で事が収められたようだった。

日本で起きた事件とはいえ、英国議員を狙った爆破テロというだけあって主要各国も足並みを合わせている。

「貴方が解決した功績を譲渡することを条件に、私の雇い主が日本政府や英国その他各国と交渉を進めています」
「政府側には真相が伝わっていると?」
「真実ではなく、あくまで真相ですね。超能力と言った説明できない部分を、雇い主による干渉で補足している状況です。
ファンタジーは説明できませんが、創り上げることは出来ます。資金と人材、そして権力を行使して脚本を描くのです」

 今回の一件で夜の一族は日本政府に貸しを作り、各国に情報提供することで影響力を更に高めたようだ。
夜の一族の長であるカーミラは反対勢力を黙らせることに成功し、ロシアン・マフィアのディアーナ達はチャイニーズマフィア達への攻勢を強める。
アメリカで起きた誘拐事件を解決したカレンは政治経済への影響を強め、夜の一族の勢力図を劇的に拡大させていっている。

海鳴への干渉に更に強めることが出来るようだった。

「今回の功績が認められ、我々への資金援助と人材補充を申し出られました。特に貴方への判断に評価を頂けた」
「俺への判断ってなんだ」
「護衛対象だからと物怖じせず貴方の安全を第一として、事件への関与を最小限に事態を収めた事です。
事件当時の貴方の言動や行動を報告したところ、皆さん頭を抱えておられたご様子でしたよ」
「くそっ、あいつら……俺の判断を全く信用していないな」

夜の一族は俺がテロ事件に関与するのを望んでいない。フィアッセ・クリステラも見放すべきだと主張されている。
まあテロなんぞに関わるなというのは至極当然の忠告なのかもしれないが、関係者が狙われているとなると他人事では済まない。
だからこそ今回事件現場に乗り込もうとした俺の判断を静止し、干渉する範囲を慎重に見極めて進言した御剣いづみ率いる警護チームが評価されたようだ。

御剣いづみの裁量と権限は拡大し、人材と資金援助は約束された。

「状況次第となりますが、今後個人向け警護によるチーム構成ではなく、会社設立されるかもしれません」
「事業として成り立たせるということか!?」
「勿論私はあくまでライセンスを持った警護の人間ですので、事業を起こすのであれば雇い主が手続き致します。
ただ国内での要人警護のみではなく、訪問に同行しての警護等、貴方に関連する著名人等の警護も含むことも視野に入れるそうです。

実際今回の事件を通じて、私は貴方の行動による結果で、議員を始めとした関連各所の調整を行いました。

当初の予定では貴方の身辺警護のみでしたが、貴方のニーズに合致したパーフェクトな警護を行うのであれば個人では足りません。
チームとして今も動いてはいますが、今後を見据えて今事業化の動きがあるのだと覚えておいてください」

 げっ、俺が今回やった行動の結果がここまで影響を及ぼしてしまったのか……
高級ホテルの爆破テロ事件を阻止して、さざなみ寮のテロ襲撃を防いだ。干渉は抑えたつもりだが、事件そのものがデカくなりすぎた。
さざなみ寮の一件はディアーチェの結界で近隣を巻き込んでこそいないが、それでも寮の住民にはバレたし、リスティ本人も今動いてしまっている。

爆破テロなんて言うに及ばずだ、日本も世界も大騒ぎしている。その事件の解決に一役買ったとなると、関係ないでは済まされない。

「あんたに重荷を背負わせたようで済まなかったな」
「……今から言うことは、独り言として聞き流してください」

 コホンと、咳払いする。

「この町は、私にとっては故郷だ。テロリスト達に土足で踏み荒らされるなんて我慢ならない。
良き青春の思い出に悲劇で彩られたくはない。

この町を救ってくれて、ありがとう」

 ――御剣いづみはそう言って、目を閉じた。
断じて、言ってはならないことだった。彼女の雇い主は、事件への関与を認めていないのだから。
俺がテロ事件に関わることを、嫌っている。事件への関与を賛同してはいけないし――

事件を解決したことに感謝してはいけない。



「頼まれていた外出許可は明日より出ます。ただし行先は必ず私に告げて、単独行動は控えてください。
車を回しますので、徒歩で動き回るのもやめてください」
「分かった、行動予定を妹さんと話し合って伝えておく」
「承知いたしました、よろしくお願いします。

 だからこそ、彼女は独り言を言った。
俺も何も言わず、聞き流した。


 海鳴は一年前まで田舎だったが、夜の一族の手によって国際都市として急速に発展している。
政治面もここ一年で顔ぶれが変わり、経済についても企業面から融資や援助を受けて広がりを見せている。
急激な人口増加は流石にないが、人口密度は確実に高まっていると言える。夜の一族の関係者も続々と加わって、誘致政策も行われているらしい。

そんな海鳴も今日は昔のように平穏で、静かだった。

「事件は解決と日本政府が宣言していますが、この地で起きた爆破テロは確実に人々を震撼させました。
表立った制限こそされていませんが、住民は自発的に自粛しているようです」

 爆破テロ事件は解決しました、もう大丈夫です――と言われても、街中のホテルで爆破が起きたらやはり怖くもなる。
特に海鳴は平和な田舎町だったので、テロ事件による余波は大きいだろう。自分の足元が崩れるとまではいかないにしても、不穏な空気は感じてしまう。
リスティによる積極的な働きかけで、警察も治安維持に動き出している。海鳴を守る使命で活動しているだろうが、警察官が多いとそれはそれで不安も感じてしまうというものだ。

御剣いづみが運転する車で、街の様子を聞かされる。

「学校とかも閉鎖されているのだろうか」
「政府は解決を喧伝している為、学校側の判断に委ねられています」
「確かに全校閉鎖とかだと、余計に不安を煽ってしまうもんな」

「月村忍さんと神咲那美さんは欠席されているようです」

「……何故その名前を?」
「事業を拡大する動きがあると申し上げたはずです。貴方の関係者について、安全を確認しております」

 那美はともかくとして、愛人気取りの女なんぞ知ったことではない。それが顔に出ていたのか、運転席の御剣の頬が緩んでいる。くそっ、何だその見透かした目は。
那美はさざなみ寮が襲われたばかりだ、流石に学校へは行けないだろう。学業への影響はおそらくリスティがカバーしているはずだ。
忍はどうせこれ幸いと休んだんだろう。出席日数が足りず補修で頑張っていた分、休めそうな口実があればサボる。今ごろ家でゲームとかして遊んでいるに違いない、ふざけんな。

あのバカ女の妹は今日も護衛として同行。そしてもう一人、包帯が痛々しい少女も車に乗っている。

「私があの時成敗していれば人々の平穏を守れたというのに、不甲斐ないです」
「拡大解釈しすぎだ。あの実力からして主犯の一人だろうが、爆破事件の犯人じゃないんだ」

 ディードは心こそ折れていないが、敗北の経験を味わっている。精神的に弱っているからこその弱音なのだろう。
精神的な在り方としてはいたく健全で、戦闘機人として製造されたとはいえ俺よりも余程立派に育っている。
犯人を逃したのは痛かったかもしれないが、ディードには良い経験になっただろう。実力は身に付ければいいのだ。

とはいえいきなりそんな事を言っても分かってもらえないとは思うので、親っぽいことは言ってみよう。

「俺もそうだが、俺の警護をしてくれている御剣さんだって敗北の経験はある」
「えっ、そんな……お父様ほどの剣士が!」
「誰だって最初から強かった訳ではない。敗北して反省し、学び直していくんだよ」

 自分で言っていて何だが、この一年はひたすらその繰り返しだったと思う。
戦っては負けて、どうにかして生き残って、また次の困難にぶつかって悩み、立ち向かって進んでいく。
栄光とは程遠く、泥だらけで戦ってきた一年だった。仲間や家族が居なければ死んでいただろうし、ずっと一人きりだっただろう。

御剣いづみが負けたことのない人なら前提が覆るのだが、本人は頷いてくれてちょっとホッとした。

「今日これから会う剣士達も強いが、敗北した経験を乗り越えている。つまりお前と一緒だ、学ぶべき点はたくさんある」
「ありがとうございます、お父様。ご期待には必ず応えてみせます」

 どういう解釈をしたのか分からないが、頬を紅潮させてやる気を奮い立たせている。うーむ、このすぐ真に受ける感性は俺譲りかも。
今向かっているのは、高町の家。先程話に出ていたが学校は自粛こそしていないが、欠席は特別に認められているらしい。
高町なのはを通じて伺ってみたところ、快諾してくれた。フィアッセのことがやはり気になっているのか、話を聞きたいらしい。

仕事も学業も休んで、家族が集っている。

「あの家に帰るのも久しぶりだな……」

 赤の他人の家なので帰るという表現も本当は間違っているのだが、肝心の住民は歓迎してくれている。
妙な座りの悪さを感じているのは、俺自身も自分の家に久しぶりに帰る感覚に襲われているからだろう。

大人になっても、久しぶりの家に帰るという感覚はむず痒いものだ。




































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/02/10(Sat) 18:54:36 [ No.1066 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十二話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  海鳴の高級ホテルで起きた爆破テロ事件。表沙汰にこそなっていないが、さざなみ寮で起きたマフィア襲撃事件。
龍というチャイニーズマフィアが展開した二面作戦は失敗にこそ終わったが、影響力は計り知れなかった。
俺達は出来ることをして撤収したが、関係者各位は何も終わっていない。事件こそ解決しても無事とはいい切れず、警察を始めとした政府関係者は大変な騒ぎとなった。

そもそも爆破事件を解決したのはシルバーレイ達、マフィア襲撃を防いだのはディアーチェ達。どっちも表沙汰に出来ない存在である。

『私は各方面の調整を行いますので、くれぐれもこれ以上動かないようにお願い致します』
『わ、分かった……ディードの治療も終わったし、俺達は休むよ』

 御剣いづみは護衛専門かと思いきや、俺関連のあらゆる出来事を解決するエキスパートであるらしい。
俺達の存在を表沙汰に出来ないのであれば、各方面で起きた事件をどのように解決したのか、辻褄を合わせないといけなくなる。
そうなると、事件解決の功績は奪い合いになる。俺は手柄なんてどうでもいいので任せると、御剣いづみは俺に注意した上で調整に出向いてくれた。

今回は英国議員まで脅迫されているので、日本だけの問題には留まらない。海外諸国にまで波及してその夜、海鳴で起きたテロ事件は世界中に広がっていった。

『あんたが緊急事態だとセインまで動かしちゃったから、管理局や聖王教会から滅茶苦茶問い合わせが来ているのよ』
『えっ、なんで管理局まで?』
『海鳴には今クロノさんやクイントさん達がいるでしょう。
あの人達、最高評議会の中では左遷扱いだけど、聖王教会の中ではあんたの調整役になっているの。
あんたは聖地の乱終結後に人々の時代だと言って神輿から降りたけど、教会があんたに誰もつけずに野放しにするはずないでしょう。

取引相手のレジアス中将にいたってはあんたが改革の生命線なんだから、こっちとも連絡を取っているのよ。こっちはあたしがなんとか収めるから、あんたは動かないでね』

 ホテル爆破を防ぐべく緊急要請をした結果、事件は解決したが異世界ミッドチルダにまで波紋が広がったようだ。アリサが対応してくれている。
他に手立てがなかったので仕方なかったが、緊急コールがそこまで波及するとは思わなかった。
てっきり"聖王"の世界――地球は対岸の火事くらいにしか思われていないと思ったは、緊急という言葉を真に受けて騒ぎになっているらしい。

ということで事件が解決したと思っている俺の周辺は夜通し、大変な騒ぎとなった。




―――次の日。


「……結局政府と警察が解決したことになったようだな、父よ」
「妥当な落としどころじゃないか。俺達はあくまで事件解決の協力だからな」

 隔離施設の食事処で俺達は全員集まって、朝ご飯を食べている。
海鳴の夜はどこもかしこも大騒ぎだったが、俺達は全て大人達に任せて休眠を取った。神経質な人間なんておらず、全員図太く熟睡した。
大怪我したディードも戦闘機人だけあって、翌朝には立てるほどに回復。包帯とガーゼが痛々しいが、オットーの解除でパンを食べていて安心した。

食事処のニュースを見ながら、ディアーチェが世間への感想を述べている。

「お前も折角活躍してくれたのに、世間には出せずで悪いな」
「なに、さざなみ寮の住民が守れたのだからよい。それに他でもない父が我の活躍を知ってくれている。それだけで十分だ」
「おこちゃまはいいですねー、アタシなんて丁稚奉公させられただけですし」

 ディアーチェが満足そうに胸を張るが、同席していたシルバーレイは不満そうにサラダをつついている。
一協力のつもりだったが、爆破事件の解決にまで協力させられて大層不満であるらしい。
ディアーチェほど高潔な精神を持ち合わせていない彼女は、タダ働きさせられて文句が多い。

まあそれでも悪態をついたりしない辺り、根はオリジナルのフィリスに似て人が良いようだ。

「大丈夫、お前のことは俺も評価しているぞ」
「撫でポ反対派なんで、褒められたり撫でられたりしても、絆されませんよアタシ」
「撫でポってなんだ!?」

 キャベツをパリパリ食べながら可愛くないことを言うクローン女。褒め甲斐のない奴である。
ちなみにフィリスからもシルバーレイの活躍は絶賛されたが、本人はハイハイと手を振るだけだった。なんてやつだ。

パン派のオットーはクロワッサンをモグモグしながら、声を上げる。

「結局主犯は取り逃がしたようだね。僕としてはディードを怪我させたあいつを追いたいけれど」
「まだ公表はされていないが、御剣を通じて主犯格は政府側にも伝えている。
日本でここまで好き勝手された以上、関連各所とも協力して追跡するだろうよ」
「うーん、少し納得行かないけれど……そもそも今まで居所も掴めなかったんでしょう。捕まえられるのかな」
「何ともいい難いが、少なくとも簡単に国外へは出さないだろうよ」

 結果を出せていないのだから無能というほど、いい加減俺だって世間知らずではない。警察や諸外国の治安組織は長年国を守ってきた実績がある。
犯罪者を称賛する気はないが、各司法の手を逃れられる程主犯格が優秀だということだろう。日本にも潜伏先を用意しているに違いない。
爆破犯はともかく、襲撃犯はディードが手傷を負わせている。すぐには動けないはずだ。その間に捕まってくれれば御の字だろう。

このまま待っていればこちらの勝ちかもしれないが、言い換えると勝つまでは待たされることになる。

「お時間ありましたら私に剣を教えて頂けませんか、お父様」
「駄目、怪我が治るまで休んでいなさい」
「ですが……!」
「休めと言って大人しく休むような奴じゃないな、俺の娘なら。分かった、俺にいい考えがある」
「考え……?」

 今回の件を通じて学んだことがある。
護衛という立場に甘んじて専守防衛に努めていたが、埒が明かない。
とはいえ勝手な行動に出れば、各所に迷惑をかけてしまう。そのジレンマが続いてしまっていた。

ならば自分が動くのではなく――動ける人間を増やそう。


「剣に詳しい兄妹がいる。お前はその人から剣の基本から学ぶんだ」


 ここ海鳴は地元ではないが、今となっては俺のフォームでもある。
クセのあるやつは多いが、それでも頼りにはなる。

まず各方面から協力を求めていこう。




































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/02/03(Sat) 12:49:54 [ No.1065 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十一話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは スライサーと称される凄腕の剣士が立ち去ったのを確認して、御剣いづみが大きく息を吐いた。
夜の一族が直々に雇い入れた護衛チームの長がそれほどまでに警戒するほど、スライサーが強敵かつ凶悪であったという事だ。
国際指名手配犯であれば警察にでも通報すればいいのだが、ディアーチェが近隣住民に配慮してくれた結界の事まで追求されるかもしれないので出来なかった。

一旦場が落ち着いたのを見計らって、俺はオットーの元へ駆け寄った。

「ディードの怪我の具合はどうだ」
「大丈夫、応急処置は終わった。命には別状ないし、致命的な怪我はないよ。
ただ出血が酷いし、身体に負担もかけているから、しばらく安静にしておかないといけないね」
「隔離施設にフィリスがいるし、医療設備も揃っているから休ませよう。
必要であればジェイルを呼び出すか、聖地に搬送させるから言ってくれ」
「父さんが傍にいて声をかけてくれるのが、一番の薬だよ」

 ディードが負傷してオットーも動揺していたが、処置を終えてこの子も落ち着いたようだ。華族を傷つけられたら動揺もするし、子供なら不安にもなる。
ディードは戦闘機人なので、クローン培養とはいえ肉体の構成が常人とは異なる。兵器として生み出された肉体は頑丈で、自然治癒能力も高い。
だからこそ子供ながらに国際指名手配犯相手に戦えたのだが、実戦経験や蓄積データが少ないだけあって、戦闘のプロ相手には苦戦を強いられてしまった。

まあ親の目線で語っているが、俺が戦っても余裕で苦戦するだろうし、あまり威張れたものではない。


と、そこへ。


「ハァ、ハァ……え、良介?」
「リスティか」

 スライサーが撤退した理由の一つであり、さざなみ寮襲撃の目的の一つだった人物。リスティ・槙原が殺気を振りまいてやって来た。
余程全力で飛ばしてきたのか、息が上がっている。多分超能力を酷使したのだろう、恐ろしい勢いで現場に飛び込んできた。
どれほどの美人であっても、鬼の形相でやって来られたら男だって縮み上がる。切羽詰まっているのが顔に出ており、睨み殺す勢いだった。


――が、俺の顔を見た瞬間甘く溶けてしまった。


「そうか……良介、君が来てくれていたのか。どうりで周辺一帯が不自然なほど落ち着いていると思ったよ」
「お前こそ大丈夫だったのか、そんなに血相を変えて」
「連中が性懲りもなく攻めてきたんだ、気くらい張るさ。君に助けられたとはいえ、フィリスやシェリーだって誘拐されたんだしね。
相手が子供であろうとも、平気で巻き込む連中だし――えっ、ちょっと。その子、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。スライサーとかいう頭のおかしい剣士に襲われたが、撃退した」

 取り乱すリスティを何とか宥めて、俺から事情を説明した。
魔法や戦闘機人のことを話すと時間がいくらあっても足りないが、幸いにもリスティは俺の事情について神咲那美からある程度は聞かされている。
ディアーチェがさざなみ寮の防衛を務め、近隣住民を守った事。ディードやオットーがマフィアの襲撃を撃退した事を説明する。

被害が出なかった背景を知って、リスティは安堵したように微笑んだ。


「フィリスやシェリーだけではなく、ボクの事も助けてくれて本当にありがとう。
今回の件で良介には返しても返しきれない恩が出来てしまったね……」
「いいさ、国家権力に貸しを作れたからな」
「生憎だがこっちは民間協力だ、そんなに大したことは出来ないぞ。万引きの引き取りくらいはしてやる」
「一生の恩の割にはしょぼいぞ!?」

 クレームを入れてやると、リスティは笑ってポケットからタバコを取り出す仕草を見せる。実際に出たのは子供達に気を使ったのか、シガーレットチョコだったけど。
話を聞くとさざなみ寮の屋根の上から、俺の娘を名乗るディアーチェが堂々と指示を出していたらしい。
最初は面食らっていたが、的確な指示と冷静な判断、そして何よりも――実に俺によく似た遠慮のない態度から、信頼に値すると判断したそうだ。

連携を取ってさざなみ寮の防衛には成功したが、襲撃はまだ続いていると分かって、リスティは堪忍袋の緒が切れたらしい。

「寮を襲うことでさえ万死に値するが、ご近所さんまで巻き込まれたんじゃたまったものじゃない。
ディアーチェという子に寮を任せて打って出たら、戦っていたのは良介達だったという事さ。

安心して力が抜けたよ」
「昔とは違って、事件に首を突っ込むなとは言わないんだな」
「あまり褒められたことではないかもしれないけど……今の君のことは頼りにさせてもらってる。
信頼しているし、フィリスやシェリーも助けてくれた。フィアッセだって守ってくれている。

ここだけの話だけど……組織の連中が本格的に行動に出たと知って正直不安だったし、守りきれるのか心配で仕方なかった。

でも君が町に帰ってきて僕の大切な人達を守ってくれている。それだけでも本当に救われてる」

 珍しく照れたように、赤くなった鼻の頭を掻いてる。俺を見つめるその視線は感謝以上の熱量があった。
水を差すようで申し訳ないが、俺自身あまり大したことはしていない。謙遜ではなく、実際に独力で出来たことは少ない。
フィリス達を救出できたのはシルバーレイの協力があってこそだし、フィアッセを守っているのはディアーチェ達。

大切だという海鳴を防衛してくれているのは、夜の一族だ。スポンサーがなければ、この世の中ではヒーローごっこは出来ない。

「ここはもう大丈夫。後始末は引き受けるよ。正式な礼は後日必ずさせてもらう」
「そんなのはいいと言いたいが、性格的に引かないだろうな。うちの子達にラーメンでも食わせてやってくれ」
「ははは、分かった。後日顔を出すよ」

 苦笑しつつも若干心苦しい顔をして、別れを切り出す。恩人をこのまま返すのは心苦しいのだろう。
一方でさざなみ寮へ寄っていってくれといえないのは、リスティ以外のHGS患者の存在があるからに違いない。
俺のことは信頼しつつも、その存在については出来る限り表沙汰にしたくないようだ。多分その人間も平穏を望んでいるのだろう。

俺も博愛主義者ではないので、HSG患者だからといって誰も彼も守りつもりはない。敢えて探り出さなくても、リスティが守るしな。

「ディードも怪我をしているし、俺達も撤収しよう」
「分かりました。貴方の帰還を確認次第、雇い主に今晩の事を報告致します」
「げっ、カレン達になにか言われそうだな……」

 こうしてマフィア達の暗躍を阻止したが、肝心の実行犯は逃してしまった。
戦力を削れているのは事実だし、企みも阻止出来てはいるが、急所は抑えられているとは言い難い。

攻勢に出れないのがなんとも悩ましかった。




































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/01/28(Sun) 01:19:15 [ No.1064 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 才能がない分知識が補えと、御神美沙都師匠はドイツの地で俺を徹底的に教育してくれた。
師弟なんて俺の柄ではないが、あの人は違う。命ではなく、人生そのものの恩人だった。あの人が居なければ異国で果てていただろう。
そんな彼女が教えてくれた、剣に関する知識。その中で大剣に関する知識は意外と少なかった。

映画などではよく見かける大剣は実のところ、史実では明確な定義というものがないらしい。

両手持ちの大剣そのものは博物館でも展示されているが、史実上でも何に使われたのかすら定かではないような大剣が多いらしい。
存在や技術そのものが否定されているのではなく、大剣もしくはグレートソードを定義するのが難しいのだろう。
見た者が大きな剣と思ったらそれは全て大剣となり、定義はきわめて主観的となる。西洋と東洋でも扱いは異なるし、捉え方は難しいと言える。

御神美沙都よりそう教わって、俺の大剣への幻想は失われた。

『大剣という武器は、ある意味で技術が足りない者への苦肉の策といえる』
『元も子もないですね……じゃあ大剣は結局フィクションだと?』
『いや、大剣が活躍した時代は確かに存在した。
長さと重さで壁を叩き斬り、兵隊が突撃出来る空間を作り出す。こうした勝利を引き寄せる一手であった。
質量と体積によりまともに扱えた者はかなり限られたというだけだ』
『なるほど現代でわざわざ使用する人間はいないので、知識として取り扱う程でもないという事ですね』

 フェイトやシグナムといった両手剣を使う人間が頭に浮かぶが、少なくとも異世界の人間ばかりだった。
異世界の概念を知らない御神美沙都の結論は、こうだった。


『今の時代に大剣を持つ人間を見たら、相手にするな』


「なかなか速いじゃないか。その体躯でよく捌けるものだ」
「くっ……!」

 ディードの持つ先天固有技能はツインブレイズ、戦闘機人達の中では近接空戦に属する技能である。
瞬間加速により敵の死角を奪取し、死角から急襲をかけ叩き落すという一撃必殺スタイルが基本となる。
瞬間的な加速に加えて、資格からの奇襲。相手はディードを視認することも出来ず斬られる――

筈だった。

「ただの子供ではないな。御神に連なる者――でもなさそうだが、お前もクローンか」
「私はお父様の子供です」

 ただの子供ではないのだと断じられて、ディードはむしろ胸を張って名乗りあげる。
クローンであることさえも否定せず、それが絶対的な価値であるかの如く俺の子供であることを告げる。
俺の子だからこそ強いのだと、あの子は自負している。その思いが切っ先に力を宿し、駆ける足に力強い踏み込みを生んでいる。

双剣が相手を叩き落し、大剣が相手を叩き上げる。

「なかなか面白い。が、曲芸の粋を出ていないな」

 双剣の刃部分は自身のエネルギーを使用して実体化して固定している。そうしたエネルギーの刃を、あろうことかあの男は刃で叩きのめしている。
物理的に不可能に見えるが、ディードの刃を男は正確に視認して圧倒している。戦闘機人のエネルギーを、人間の力が勝っているのだ。
斬れば弾かれ、振り下ろせば飛ばされ、切り払えば振るい上げられる。双剣をもってしても、大剣を突破することは叶わなかった。

男は大剣を掲げた。

「身の丈を超える剣で、敵を斬り伏せるんだ!」
「IS発――っ!」

 ディードは能力でエネルギーを高めようとしたが、男は機先を制した。
あの子は稀なる剣士ではあるが、それでも子供だった。子供が機転を利かせようとしても、大抵大人に見破られる。
男の宣言は先読みであり、ディードへの敗因を告げた。妙に飾った大剣は無慈悲に振るわれ、高まりつつあった双剣は宙に舞う。

ディードは深く切り裂かれて、地面へと落ちる――


勝敗は、決した。



「――はつ、どう。ツイン、ブレイズ!」
「グハッ!」

 剣術においては、ディードの敗北だった。しかし、あの子は俺の遺伝子を受け継いだ子供である。
勝負は敗北であろうとも、戦い続ける。勝利にはならずとも、戦うことを諦めたりはしない。どれほど惨めであろうとも、抗い続ける。
ディードのツインブレイズは、刃の弾性を自在に変化させることが出来る。敢えて言うなら、戦闘機人であることが強みだった。

宙に舞う剣は刀身を伸展させて――男の肩を貫いた。


「何なんだこの剣は……SFじゃあるまいし、ビームサーベルだとでも言うのか」
「……」
「ふふ、なるほど。子供の遊びに付き合うのもなかなか楽しいものだ。
このまま殺してもいいが、この小娘はまだまだ強くなる。

どうしたものか」

 ツインブレイズは地面に転がり、ディードは血溜まりに沈んでいる。戦闘不能だった。
オットーが激高して前に出ようとするのを制止。ディードを指差すと、オットーはハッとした顔をして自分の家族に駆け寄った。
男はオットーの救助を舌なめずりするように見つめている。殺すのもよし、殺さぬもよし。男の気分一つであった。

俺は一歩前に出る。

「次はお前か、サムライ。父と呼ばれていたが、小娘の仇を取るつもりか。
いいぞ、復讐という動機も斬り合いには映える。思う存分戦おうじゃないか」

「やだね」
「何……?」

「何度も言わせるな。俺の娘がこの程度で倒れるはずがない」

 男は一瞥する。倒れ伏したディード――ではなく、地面に転がっている刃を。
ツインブレイズは今も光り輝いている。主が倒れても、剣は決して死んでいない。
先程油断して怪我をさせられたばかりだ。俺が何を言いたいのか、男はよく分かっている。

だからこそ俺も敢えて説明を省いた。昔の自分が何を考えるか、手に取るように分かった。

「なるほどな、楽しめると言ったのは他でもない自分だ。
満足出来ていないからと言って、手当たり次第というのも品がない。

作戦もどうやら失敗したようだしね、今日のところは可愛い子供との遊びで引き上げよう」
「――お前の目的は、剣士か」
「そうとも、日本はサムライの国だろう。是非とも来たいと思っていた。
そんな折にお誘いを受けてね、こうしてはるばる島国へ遊びに来たというわけだ」

 男が作戦の失敗を告げたその時、遠くから強烈な殺気が急速にこちらへ向かってくる。
昔敵対した際に浴びたのと同じで、よく覚えている。リスティ・矢沢、強力な超能力者の殺気。
殺意に照らされたかのように、男の全貌が浮かび上がる。儀礼的な大剣を手にした男、スライサーと呼ばれる剣士。

妙に着こなした白い服に、ディードの血がこびりついている。

「日本へ来てよかった。君たちとは楽しく遊べそうだよ」

 標的であるはずのリスティの到着を待たず、男は立ち去っていった。
本来であれば追いかけたいところではあるが、御剣いずみから止められている。妹さんも緊張を解かなかった。
肩を怪我しているはずだが、それでも護衛達は油断していない。それほどの剣士であるということだろう。

俺としては待ち望んだ強敵。命をかけて斬り合える相手であるはずなのだが――

「きわめて真っ当で、正しい感情です。あのような男を追う必要はありません。
子供達に慕われる剣士であってください」
「そんなもんかね……」
 
 あの男が正しいとは全く思わない。
だからといって我が子の意志を尊重して戦わせるというのも、真っ当とは言い難い。

剣士にとっての正しさとは何なのか、分からなかった。



































<続く>


小説のご意見や感想、ご支援などありましたら、
お気軽に送っていただければと思います(ぺこり)

■WEB拍手メッセージ:http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=ryou123 
■HP「生まれたての風」: http://ryou01.sakura.ne.jp/umaretate/main.html
■欲しい物リスト:https://www.amazon.co.jp/hz/wishlist/ls
2024/01/21(Sun) 01:35:53 [ No.1063 ]

Page: | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |

投稿者 No. 削除キー

- YY-BOARD - icon:MakiMaki
- Antispam Version -