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◆ スーパーリリカルなんぞない大戦 投稿者:シエン  引用する 
八神はやて  静かだ。耳朶に届くは密林に微かに降っている雨音だけ。
先程の爆撃がまるで嘘のように静まり返っている。

「…………」

 固く握っていた操縦桿から力が抜け、離れかけたところでまたギュッと握り締める。
 汗が流れる。嫌な汗だ。空調が効いているとはいえ、またいつ攻撃が来るかわからない緊張を強いられ、止まる気配はない。
 少しでも落ち着こうとため息をつくが、出てくるのは嗚咽のような息ばかり。
 息苦しい。目眩がする。頭痛が止まらない。同じ体勢をもう何時間保っているのだろう。
いや、それはただの体感で、実際には数分も経っていないのかもしれない。もしくはその逆。
 雨音が少しずつ大きくなってきた。遠くの方では雷鳴が聞こえる。もうすぐ、嵐がくるのかもしれない。
もしそうなった場合、敵の爆撃機は飛べず、攻撃の手が一時だが留まるかもしれない。逃げるならばその瞬間か。
 それでも、今この場を動くことはできない。与えられた指令は二つ。
敵前線を襲撃。そして本部隊との合流。この作戦に味方の援助、増援はなし。敵の総数は不明。
 思わず口角が上がってしまう。なぜこの任務を受けたのか。この人数で行こうと思ったのか。
 報酬か。確かに報酬は良かった。だが違う。
 地位か。そんなものに興味はない。だから中尉で留まっているのだから。

「……雨」

 小雨だったものが本降りとなり、土砂降りとなる。敵の手は止まる。こちらも手を出せない。
しかし、動くなら今しかない。例え敵機に発見されることになろうとも。

「ベイル」

 音声通信を起動し、小さな声で問いかけると、奴は待ってましたとばかりに応えた。

「動きますか? 確かに、なにか行動を起こすなら今しかない。でも、それは相手さんも承知のうえですよ」

「ああ、そうだろうな。でも、今を逃したらこのままジリ貧だ。それはゴメンだろう?」

 ベイルの顔は見えない。だが、その声音は笑っているように感じられた。

「あったりまえでしょうが。泥仕合なんかに興味はねぇ。やるなら派手に行きましょうや。ねぇ、隊長?」

「じゃあ、行こうか」

 瞬間、ゲシュペンストMK=Uの背部バーニアが火を噴き、アキトとベイルは同時に動いた。
 攻撃を回避するための迂回などは考えない。ただ一直線に密林を突き進むと、哨戒機が飛行しているのを発見。
 それをベイルはライフルで撃ち落とす。これでこちらが動いているということは相手に伝わった。

「派手に行こうか」

「当たり前だろうがっ。チマチマやるなんざ性に合わねぇ。やるならでっかく散らそうぜッ。行くぜ隊長!」

 連絡が行ったのか敵戦闘機が乱雲の中、隊列をなして迫ってくる。中にはPT――ガーリオン――の姿も数機見える。
空戦特化の機体ばかりだからだろうか、この風雨の中では動きが悪い。
しかしこちらは陸地系に適応したゲシュペンストMK=U、安定感はこちらが上だ。
ブーストを噴かしたまま、ぬかるんだ地面を滑るように移動しながらマニュピレーターに持ったサブマシンガンを上空へ向け、斉射。
風に煽られ弾はバラけてしまうが、ただの牽制だ。本命はベイルが放つライフル。
両手に装備したライフルの弾丸は雨風に負けず一直線に戦闘機に突き刺さり、爆破。
散らばった黒煙の中からはガーリオンが飛来しながらマシンキャノン、そしてバースト・レールガンを連射。
 散弾のように降ってくる弾丸を廃材で作られた即席の盾で防ぎ、レールガンは最小限の動きで回避。
アキトを狙っているガーリオンにベイルのライフルが刺さるが、戦闘機とは装甲の厚さが違う。
 しかし一瞬、一瞬だがベイルに注意を惹かれた。
 アキトはブースターを最大に噴かしジャンプ。
 それに気がついたガーリオンはマシンキャノンで迎撃しようとするが、それは盾に全て塞がれ接近を許してしまう。
 ガチッ。ガーリオンの腹部にマシンガンの銃口を当て、連射。

「エゲツねぇなぁ」

 そう言いながら自身に迫ってくるガーリオンの突撃を交わし、ライフルを腰にマウント。

「先に逝ってろや」

 コールドメタルナイフをコクピットに突き刺し、動きを止める。

「どっちがエゲツナイんだか」

 逃げようとする最後の一機を蹴り落とし、沈黙させる。

「どうにかなりましたねぇ」

「まだ余裕がありそうだが?」

「当たり前でしょうが。こんなんでバテてられるかよ。隊長こそどうなんです」

「ハッ。誰にモノ言ってんだよ」

「さすが隊長。じゃあ、行きましょうや。まだまだ先は長いですよ」

 先に進むに連れ敵機の数は増え、攻撃は激しくなっていく。道中にマシンガンの弾が切れ、ガーリオンからバースト・レールガンを奪取。
攻撃手段は問題ない。問題があるとすれば損傷率だろう。二人ともすでにボロボロの状態だ。特にベイルの状態が芳しくない。

「行けるか?」

「ハッ。誰にモノ言ってんだよ。アンタと一緒に今まで生き残ってきたのはオレだろ」

「フン。なら、奴らはお前がやれ」

「上等ッ! テメェ、帰ったら覚えてやがれよォ!」

 軽口を叩きながら進んでいるが、状態は更に悪くなっていく。このままの状態が続けば二人とも終わりだ。
なんとか打開策を見つけたいが、生憎そんな状態ではなく策もない。二人では限度がある。

 ――あとひとり、隊員がいればな。実戦済みならなおいいんだが……まぁ、ベイルが突っかかって逃げるんだが。

 無事に戻ったらもう少しベイルを教育しようと思うが、いつも思うだけで終わってしまう。
首に縄をつければいいのだろうが、つけられるならばとっくにつけている。それに、縄をつけたベイルなど何の役にも立たない。
縦横無尽に自由に駆けるのがベイルなのだから。
 甘い。そう言われればその通りだ。だが、手綱をいつまでも持っているのは疲れてしまう。
それは掛けられている者もだ。
 だからアキトは敢えて手綱はつけず、力で引っ張っている。圧倒的な力。
ついて来られる者はついてくるし、ついて来られない者は離れていく。
それに、アキトは連邦に属してはいるがDCに属していた時期もある複雑な経歴の持ち主だ。
結果、ついて来たのはベイルだけだったわけだが、後悔はしていない。
 こんな生き方があってもいいだろう。自分の信じた道――祖国を守る――それを歩いているのだから。

 ――でも、それも建前にすぎない、か。

 本当は、ただ暴れたいだけだ。気に入らない。戦うことでしか分かり合えないこの世界が。
そしてその枠に当てはまっている自分自身が。

 ――つくづくだな。

 バカらしい。呆れ果てる。でも、そんなことはわかりきっている。
 自分を変えればいいと思った。しかし変わることは難しい。変わるには強さがいる。
そして同時に、変わらないには変わる強さがいる。
 矛盾していることはわかっている。でも、これが真実だ。そして、アキトにはその強さがない。
ただ流されるだけ。そして、その流れにもうまく乗れず沈んでいる。
 ベイルを矯正しようとしないのは、もしかしたら自分と同じモノを見出しているからなのかもしれない。
ベイルは変わる強さを持っているかはアキトにはわからない。しかし、もし持っていたら、自分はその場に取り残されてしまうのではないか。

 ――寂しいだけ。

 置いて行かれるのが。そばに居てくれないのが。独りぼっちなのが。

 ――だからオレは……。

 ベイルが求めるギリギリの線で手を引き、真に満足させようとしない。
 卑怯。臆病者。自己満足。様々な言葉で表せられる。それは結局――仲間がほしいから。

 ――忘れられる存在、か。

 小さく笑みを作り、ため息をこぼす。本当に、バカらしい。
 自分の望みのためにベイルを引き連れ、いや、引きずり込もうとしている。同じ場で死にたい。独りは寂しいから。

 ――最低だな。まったく。

 だからだろうか。こんな状況――敵に囲まれているというのに落ち着き払っていられるのは。
 耳をつんざく爆音。機体が上げている悲鳴。それらに紛れていたからか、それとも聞きたくなかったからなのか。
ベイルの声は微かにしか聞こえていなかった。
 瞬間、機体を襲う衝撃。コクピットは揺れに揺れ、機体制御を間違えていれば倒れていただろう。
 何が起こったのか。モニターに目をやると、そこにはベイルの機体が膝をついているのが見えた。

「……ベイル?」

 ノイズが混じった映像通信。そこには怒りを滲ませたベイルが写っていた。

「アンタ何やってんだ? さっきからブツブツ言いやがってよォ。死にてぇのか。あ?」

「オレは――」

「アンタはオレに言ったよな。オレと来い、オレを満足させてくれるってよォ。こんなとこで死んで、オレは満足できねぇ。
アンタはどうなんだ。こんなとこで満足か? こんな死様で満足か?」

 歯を食いしばり、絞りだすような声でベイルは続ける。

「ビアン総帥が亡くなって、オレはどうすればいいかわからなかった。他の連中はバン大佐に着いて行った。
でも、オレが着いていたのはビアン総帥なんだ。あの人は凄いよ、でも違うんだ」

「……でも、オレは」

「アンタはオレの夢なんだよ。憧れなんだ。アンタはスゲェ。
あの蒼き獅子<クレイル=ウィンチェスター>とまともにやりあえる奴なんざアンタしかいねぇ。
決着はまだついちゃいねェだろうが。……見せてくれよ。アンタがアイツに勝つとこ、オレに見せてくれよッ」

「ベイル……」

「なぁ、勝ってくれよ。アイツに、蒼き獅子<クレイル=ウィンチェスター>に。
それで言ってくれよ、アンタについていけるのは蒼き獅子<クレイル=ウィンチェスター>じゃねぇ、オレだって!」

 ……結局、似たもの同士だったというわけか。同じ生き方しかできない者同士。
違うのは、方や諦観し、方や羨望している。たったそれだけの違いだ。
 アキトは片手に持っていた盾をベイルに投げ渡し、ベイルが落としたライフルを拾い、そして言った。

「ベイル。見ておけ。これがオレだ。蒼き獅子<クレイル=ウィンチェスター>に打ち勝つ、
命を無視された戦士<ゲシュペンスト・イェーガー>だ」

 ブースターを噴かし、突撃。一見無謀だ。しかし、それに目を食らった敵機体は一瞬だが動きを止めてしまう。
その隙を見逃さずにライフル、バースト・レールガンを斉射。

「二つ」

 左右から迫ってきたガーリオンを最小限の動きでかわし、すれ違い様に撃破。

「四つ」

 前後からマシンキャノンをバラ撒きながら突撃――ソニックブレイカー――をしてくる敵機には飛び上がり、
それを追い上昇してくる際に自分は地面に向いブースターを噴かし急降下。地面スレスレになり反転、両手に構えた銃を発射。

「六つ」

 撃破率はどんどんと上がっているが、キリがない。無傷に見えるが、ところどころに細かいダメージを受けている。
このまま行けば数分と持たずにやられてしまうことは自明の理。
 策などもとよりない。でも、それでも、暴れ続けなければならない。ベイルから敵の目を背けられればそれでいい。
仇などは期待していないが、奴なら何かしらの手段で報復を果たすだろう。それで気が済むのならそれでいい。
命を無視された戦士<ゲシュペンスト・イェーガー>の肩書きは奴にくれてやる。それからどうするかは奴が決めるだろうから。
 だから今は、こんな男に憧れを懐いてくれたバカに少しでも長い夢を見せてやりたい。
自分が着いて行った男はどれだけの奴だったのか。どんなことをしたのか。そいつについていけたのは自分だけだったと、自慢させてやりたい。
 弾は切れ、機体は動けるのが奇跡をいう現状。そして敵は増援が来ている。
こんな状況だというのに、アキトは笑っていた。

 ――なぁ、ベイル。次はお前が夢を見せてやれ。オレみたいなバカ野郎によ。

 狭まる包囲網。万事休す。ゲームオーバー。ベイルがなにか叫んでいるが、もういい。満足だ。

「――オレは満足なんかしていないぞ」

 突如として割り込まれた通信。そして上空からの落下。

「随分勝手な真似してるじゃないか。なに勝手に死のうとしているんだ」

 その機体は蒼い装甲を持ち、操縦者の意思を体現したかのような加熱式実体刃。そして、先ず以て目に入るパイルバンカー。
アルトアイゼン・ナハト。それがこの機体の名。

「蒼き獅子<クレイル=ウィンチェスター>……」

 見間違えるはずがない。誰よりも長く戦い、時に敵対した相手の機体だ。

「なぜ……増援は来ないはずじゃ……」

 アキトの疑問に対して返された回答は嘲笑だった。

「俺が増援や援助なんかするわけがないだろうが」

 じゃあ、なぜ?

「上の方の決定があってな。今お前に死なれると困るとな。それに――」

 クレイルが言い終える前に輸送機からコンテナが投下された。重低音を響かせながらも地に張り付いたように微動だにしない。
二呼吸ほどだろうか、間を置きコンテナが開くとそこには――

「――アークゲイン」

「調整が終わったばかりだ。慣らしには丁度いいだろう。早く乗り換えろ。それまでは俺がコイツらの相手をしてやる」

 そう言うやいなや、クレイルは駆ける。
 アキトは無言で頷き、もはや装甲を意味していないハッチを開き、アークゲインへとひた走る。
 ワイヤー銃を使いコクピットまで上り搭乗すると、すぐに機体に熱が入った。

「アークゲイン……行くぞ」

 降着ポーズから立ち上がり、内部に溜まった余分な熱を排除。少々過敏な反応だが、自分にはこの方があっている。
 動いたのを確認するかのようにアルトアイゼン・ナハトがこちらをチラリと一見する。

 ――見せてみろ、か。いいさ。

 両腕を交差させ、言葉を紡ぐ。

「アークゲイン、リミット解除。コード麒麟――朧ッ!」



「こちらアキト・アイザワ中尉。はい、一帯の敵勢力は無力化しました。お借りしたゲシュペンスト以外は無事です。はい、すみません」

 本部隊に連絡を終えると、アキトは溜まっていたモノを吐き出すように大きなため息をついた。

「どうしたんですか、隊長。浮かない顔ですよ。二人とも無事だったんだからいいじゃねぇか。
まぁ、奴に助けられたってのが癪に障りますがね」

「それもそうだが、そうじゃない。奴が持ってきた辞令書のことだ」

 それを聞き、ベイルはああと呟くと同時にニヤリと笑みを見せた。

「CRBチームでしたっけ? いいじゃねぇですか。実験部隊でも。どうせオレらは出戻りだ。行くとこ行くしかないでしょうが」

 ベイルの上機嫌には訳がある。ベイルの苦手とする男は別の部隊に配属になるということを聞いたからだ。

 ――引き抜く。殺してでも引き抜く。



 あとがき
ユウさんの要望と私の渇望ががっちり握手したので書いてみました。
途中荒くなっているのは力尽きかけていたからです。
2012/06/27(Wed) 22:09:13 [ No.998 ]

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