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◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十九話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは ディアーチェの封時結界は非常に優れており、通常空間とは完全に隔離されていて人っ子一人いない。
特定の空間を切り取る結界魔法との事だが外界を遮断しているだけで、海鳴の町並みは切り取られていて再現されている。
チャイニーズマフィア達は不審に思っても、結界の中とまでは分からないはずだ。超能力という概念を知っていても、この状況は説明できない。

さざなみ寮はディアーチェが守ってくれているので、俺達は迎撃に出た。

「我々が先行しますので、決して貴方から手出ししないように」
「私が索敵します、剣士さん」
「あ、ああ、分かった」

 事前にディアーチェに説明したおかげで、結界内はマフィア達を除けば俺と警護チームのみである。
ディアーチェから敵情報を聞き出した俺はまず御剣と妹さんに情報共有、さざなみ寮が襲われている事を知った御剣は警護チームメンバーを招集。
海鳴の民間人が襲われていると聞いて、御剣いずみの顔色は明らかに悪くなっていた。

いつも冷静な女忍者にしては珍しいと思っていると――

「……私情を交えるつもりはありませんが、この街には縁ありまして」
「俺も私情優先で無理させているので気にしないでくれ」

 スポンサーである夜の一族はフィアッセから手を引けとか、そもそも俺が危険なことをするなと釘を差されている。それを無理して戦場へ突入しているのだ。
昔から他人から何を言われようと知ったことではなかった――いや、今も大概なんだけど、それでも家族なんぞ出来ちまうと男なんて駄目になってしまう。
御剣だって私情だと言っているが、民間人が襲われることに憤りを感じることを攻めるつもりはない。職務は全うしてくれているので大いに助かっている。

まず妹さんが索敵をして、警護チームが迎撃。捕縛できるようであれば拘束、不可能であれば制圧する。

正直俺がわざわざ出張らなくても、次々とマフィア達が姿さえ見せずに倒されていった。超能力者はディアーチェが制圧してくれていて、こちらはマフィアの手先が大半だった。
御剣によると日本で現地調達したチンピラ達も混じっているようで、数を揃えた襲撃らしい。警護チームは夜の一族が直々に選抜したメンバーだけあって、チンピラ風情に勝てる道理はなかった。

こうして次々と制圧していき――戦場の中心へ、躍り出た。


「くっくっく、どうした小娘。威勢が良かった割に、もう腰砕けか」
「くっ……IS発動、ツインブレイズ」

 黒色のストレートヘアが、駆ける。優れた近接戦闘技術が遺憾なく発揮され――撃退される。
男が、剣を振る。たった一挙動で衝撃波が発生し、ディードは遥か後方まで吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
可憐だが華奢な肢体は壁に血の華を咲かせた。ディードはそのまま崩れ落ち、男は剣を振り払って怏々と立っている。

自身の半身以上はある大剣――男はこちらを振り返った。

「――へえ。ダメ元だったんだがのこのこ顔を出したか、"サムライ"」
「! まさか、”スライサー”!?」

 異様な風貌の男を目の当たりにした瞬間、御剣いずみは俺の前に構えを取った。極度の緊張から、男が難敵であることが伺える。
スライサーと呼ばれた男は、壮絶だった。顔に刻まれているのは皺や傷などではなく、戦歴。戦いによって作られた顔が浮き彫りになっている。
剣なんて非常識極まりない。今どき映画でも見ない大剣は、冗談のように太い。それこそ映画のセットだといいきれば、日本に持ち込めそうであった。

愛用のジャケットを着たオットーが、倒れたディードに駆け寄っている。

「父さん、気をつけて。その男、父さんを狙ってる!」

 えっ、俺? さざなみ寮を襲ったのに何でリスティやHGS患者ではなく、俺を狙ってるんだこいつ。いや、マフィアの手先なら俺を目の敵にしても不思議ではないのだが。
男はふてぶてしい眼差しで俺を見やり、何だか拍子抜けした顔をした。気持ちの移り変わりが気持ち悪いが、この男の察するところはなんとなく理解できる。
あいつは俺をサムライと言った。サムライは海外でも名を馳せた正義の味方で、龍を始めとした裏社会の悪党共を成敗して回っている。だからこ恐れられ、それでいて畏れられている。

そんなサムライの実物がこんな一般人だと分かれば、そりゃ拍子抜けもするだろうよ。そもそも実際のサムライは俺じゃなくて、御神美沙都師匠だし。

「こんなガキがサムライだと……
到底信じられんが、龍が血眼になって追ってるのは確かにお前だ。剣の腕が立つらしいな」
「下がってください。私が相手をします」

 ニヤリと黄ばんだ歯を見せて男が近付いてくると、御剣いずみが短刀を出して構えた。緊張は消えないが、取り乱した様子はもうなかった。
目眩がする。男の態度や言い草はとにかく痛々しい。とにかく不愉快に感じられるのは、男の挙動が一年前の俺とそっくりだったからだ。
剣の腕を気にする素振りからして、剣での立ち会いを望んでいるのだろう。立ち合いに喜びを感じ、命のやり取りに生き甲斐を感じる。

平和なこの国でそんな真似をしたって、痛々しいだけだ。道場破りを意気揚々としていた自分と重なって恥ずかしい。

「こんな奴、相手にすることはないよ」
「この男の狙いは貴方です。このままおめおめと引き下がったりは――」

「俺の娘がこの程度で倒れるはずがないだろう」

 俺の言葉に、男が目を見開いて振り返る。
オットーに差し出された手を敢えて固辞し、ディードが剣を握って立ち上がる。
痛々しい有様だが、俺を目にしてこの子には珍しく不敵に微笑んでいる。その笑顔はどこまでも可憐で――

俺にそっくりだった。

「ほう、まだ楽しませてくれそうだな」
「お父様、見ていてください。必ず勝ってみせます」

 一年前と、一年後。
どちらも俺によく似ているが、道は既に異なっている。
どちらの歩みが正しかったのか、それは我が子が証明してくれるだろう。

あの子は俺に似て、負けず嫌いだからな。


































<続く>


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2024/01/13(Sat) 22:58:08 [ No.1062 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十八話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ――ミッドチルダの魔法には、結界と呼ばれる異世界の技術がある。
サークルタイプとエリアタイプに分類され、結界魔導師と呼ばれる専門家はサークルタイプを駆使して戦うようだ。俺は全く素人なので、聞き齧った話ではあるが。
一方でエリアタイプはサークルタイプよりも上位の魔法で、訓練用の結界を作成することが多い。範囲が非常に広く、魔法戦や訓練が周囲に被害を与えたり目撃されたりしないように使われる。

さざなみ寮へ車を走らせると――俺はいつの間にか、車を降りていた。

「――えっ」
『何故こちらへ来たのだ、父よ。判断に悩んでしまったぞ』

 道路の真ん中に放り出されてキョトンとしていると、ディアーチェの強烈な念話が頭の中に響いた。
街中は喧騒で満たされていた。騒乱があちこちから聞こえており、混乱が周囲から湧き上がっている。
敢えて喧騒と表現したのは、戦場とは呼べなかったからだ。悲鳴は何一つ聞こえず、悲壮は見受ける素振りすら見せなかった。

戦いの気配はあるが、虐殺の類は一切起きていない。

『封時結界を展開している。
専門ではないが、父と平穏を過ごすにあたり体得しておいた。

聖王教会は歴史ある宗教組織であるだけに、魔導に関する書物も多い。聖地を統治する傍ら、学んでおいたのだ』
「……いつの間に、そんな勉強まで」

 封時結界とは、通常空間から特定の空間を切り取る結界魔法であるらしい。
この結界を展開すると、結界内に進入する魔法を持つ魔導師以外は結界内で発生していることは認識できず、進入することもできないとの事だった。
ジュエルシード事件でも味方のユーノや、敵側だったフェイト達が多用していた術式。魔法も知らなかった当時は、人の気配が一切なくて混乱させられたのを覚えている。

今となっては懐かしい思い出となっているのも、不思議だった。

「俺は車に乗っていたはずだが」
『こちらは戦闘が続いている。状況が把握できなかったので父のみ許可した』

 結界の目的は海鳴の住民に被害を与えない配慮であり、第三者に目撃されたりしないように気を配った結果である。
俺が乗る車が接近していることに気づいたディアーチェは状況が掴めず、一旦俺だけ結界内への進入を許可したらしい。
同乗していたのは妹さんと御剣いずみなのでディアーチェにとっては既知の存在だが、そこまで気は回らなかったようだ。実際、ディアーチェにさざなみ寮を任せていたからな。

万が一ホテルへ出向いた俺がマフィアに捕まって、車で運ばれている可能性を考慮してくれたのだろう。俺は取り急ぎ状況を説明した。

『爆弾の解除に成功し、卑劣な輩の脅迫を跳ね除けたのか。流石我が父、国際的大事件を見事に解決されている』
「他人の手を借りまくった結果だけどな……とりあえず妹さんが強硬手段に出る前に結界内へ入れてくれ」
『うむ、結界の起点を素早く割り出して破壊しようとしている。あれほど容易く見抜かれると、感心よりも戦慄してしまう』

 ――どうやら妹さんは俺の不在と結界の展開を状況から察知して、合流するべく強硬手段に出ようとしているようだ。
即時即決すぎて恐ろしさを感じさせるが、護衛と警護の立場からすれば当然だろう。結界を破壊されると元も子もないので、ディアーチェが許可を出す。
その瞬間道路に車が登場するという、マジックもびっくりな光景が目の前で起きて思わず仰天してしまう。本当にこの空間は隔離されているようだ。

車から降りると妹さんがすぐ駆けつけ、御剣いずみが目を白黒させて周囲を確認している。

「剣士さん、ご無事で何よりです。ディアーチェさんの結界ですね」
「……分かっていて破壊しようとしたのか」
「剣士さんの安否確認が第一です。御剣さんにはやむを得ず話しました」
「とりあえず納得するのはもう諦め、理解に留めました……」

 超能力に魔法と、今晩だけでファンタジー万歳な状況が続いているのだ。気苦労が絶えないのだろう、ジュエルシード事件での自分と比較して非常に共感できた。
ちなみにシルバーレイの奴は本当に隔離施設へ帰りやがった。これ以上厄介事に関わるのはごめんと、本当にさざなみ寮は放置しやがった。くそっ、俺だって本当は関わりたくないのに。
いずれにしても、さざなみ寮へディアーチェを派遣したのは英断だった。ホテルは爆破テロを未然に防げたので結界の必要はなかったが、こっちは既に騒ぎが起きてしまっている。

こちらに俺が先に来ていれば戦場と化すのを防げなかったし、ディーチェがホテルに行っても爆弾は解除できなかっただろう。ディアーチェに判断を委ねたのは正解だったな、我が子ながら見事な戦術である。

『こちらの状況を説明しよう。敵集団はワンボックスカーを指揮車として、さざなみ寮へ攻め込んでいる。
組織の手先で数を揃えて寮を包囲、能力者と実力者で叩く戦術だ』

 なるほど、ディアーチェが展開している結界の役目を組織の兵隊がこなそうとしていたのか。
周囲の被害を考慮したのではなく、被害の拡大によって警察などが介入してくるのを少しでも遅くしようとした。
ホテルの爆破騒ぎも脅迫だけではなく、さざなみ寮への注意をそらす陽動の意味もあったのだろう。

そうして逃げられないようにして、さざなみ寮を制圧するつもりだった。

『我は現在さざなみ寮の屋根の上にいる。寮の者達はリスティ殿を覗いて空間から隔離している』
「えっ、もしかして寮を空間から切り取っているのか」
『効果的であろう。封時結界で何が起ころうと被害が拡大することはない。
リスティ殿と那美の口添えもあって、寮の者達も大人しく従ってくれている』
「那美も協力してくれたのか……」

 神咲那美は聖地の動乱時、俺と一緒に聖地へ来てくれて退魔師の治癒能力を発揮して助けてくれた。
当時ディアーチェ達も合流して白旗として活動していたので、那美とディアーチェは知己の間柄である。
那美の優しい一面は母親知らずのディアーチェ達には心地よかったのか、随分と親しくなっていたのを覚えている。

那美は魔法の事も俺と同じくらい知っているので、寮の人達にもうまく説明してくれたのだろう。退魔師の事は寮の面々も知っているようだからな。

「能力者というのは、もしかしてシルバーレイと同じく?」
『――クローン兵士だ。あまり気分のいいものではないが、力を持っている。
敢えて兵士と表現したのは父が懐柔したあの女とは違って、こいつらは感情面の起伏が薄く組織の命令のみで動いている。

その分というのも変だが、力自体も弱い。戦闘面に特化というよりも、戦闘を行う事そのものを目的とした兵隊だな』
「……シルバーレイが言っていた失敗作とやらか、厄介だな」

 俺を捕まえたマフィア達はシルバーレイを兵士と言っていたが、現場での権限をある程度与えられていた所を見ると成功作ではあったのだろう。
俺が名前を与えたら思いっきり個性を出しまくっていやがるが、裏切らせる前は一応組織には従っていた。超能力も強く、応用の効く力を発揮していた。
あいつのようなクローンが何人もいるとは思えない。成功しているのであれば、もっと幅を利かせているはずだ。人間のクローンそのものだって難しいのだから。

多分クローンによる製造に失敗した場合、こうした流用を行っているのだろう。要するに、使い捨ての道具なのだ。

「そいつらにはどう対応したんだ」
『説得は不可能と判断した。有無を言わさず、バインドで捕縛している。官憲に突き出せばいいだろう。
我は能力者達の相手と寮の安全、周囲の警戒を徹底している。

被害を出さないように尽くしているので、父は攻勢に出てほしい』
「分かった、こちらは任せろ」

 ディアーチェがいればこのままでも解決しそうだが、戦いはまだ続いている。フィアッセ達も不安だろうし、解決に望むのがいいだろう。
司令塔であるワンボックスカーの制圧と、恐らくディード達が相手している実力者をどうにかしなければいけない。

ならば――

「一応言っておきますが、二手に分かれるのは認められませんよ」
「ぐっ、見破られた」

 妹さんにワンボックスカーの特定をお願いして、警備チームに制圧を頼もうと思った矢先に止められる。
安易な判断だと、先立って釘を差されてしまった。何が何でも俺に単独行動させないつもりらしい。

ものすごく正しいだけに、今まで自分がどれだけ迂闊に行動したのか思い知らされる。


































<続く>


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2023/12/30(Sat) 21:08:39 [ No.1061 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十七話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ホテルの件は想像以上に大事となったが、御剣いずみを始めとした仲間達のお陰で支援に徹する事はできた。
事件解決に俺自信が乗り出していたら、状況は悪化していたかもしれない。夜の一族の連中が静止してくれたからこそ、事なきを得た。
そう考えるとカレン達の判断は正しかったのだが、無鉄砲な真似をする男だと思われている事自体はいずれ正さなければならない。許さん、あいつら。

ホテルで起きた爆破事件の収束を示しているのか、程なくして連絡があった。

『リョウスケ、助けに来てくれてありがとう。シルバーレイっていう子から全部話を聞いたよ!』
「そっちは無事なのか。外からでは状況がよく分からん」
『うん。犯人はパパが対応してくれたし、エリスが警備を強化してくれて静かになったよ』

 通信も回復している。爆破犯からの脅迫に抗って、国際指名手配犯の呪縛から逃れられたのだろう。
警察や野次馬は今も騒がしいが、ホテル内部はエリスの警備会社が協力して事態の収束に動き出しているようだ。
高級ホテルを狙った爆破事件とあって日本どころか諸外国にまで騒ぎが広がっているが、英国議員さんが日本政府とも連携して対処しているとの事だった。

日本の治安組織は近年不祥事などで評判がよろしくないとの話だったが、こうした非常時には頼りになる。やはり噂を当てにするようでは一人前の大人とはいえないな。

『それは良かったな。じゃあ俺たち、引き上げるから』
『えっ、ちょ、ちょっと待って。どうして帰るの!?』
「事件解決しただろう」
『そ、そうだけど、ホテルの近くまで来ているんでしょう。お礼もしたいから部屋に来てほしいの』
「俺はお前の護衛なんだから護るのが当然だ。お礼は必要ない」
『わっ、今のかっこいい。もう一回言って!』
「何なんだ、お前は!?」

 何がこいつの琴線に触れるのか、さっぱり分からない。高町恭也が好きだったのだって、実は優しかったので絆されたとか単純な理由だったのではないだろうか。
まあそこまでは勘ぐり過ぎだし、恭也がカッコいい好青年なのは事実だ。フィアッセが初恋するのも変なことではない。
とはいえ将来的にこいつが歌姫として芸能デビューとかしたら、ハンサムなプレイボーイとかに簡単に騙されそうではある。

男慣れしていない美人なんて、格好の的だからな。

『パパだってリョウスケにお礼をしたいと言っているよ。今各方面に電話しているところだけど、事情とかも聞きたいって』
「事件に協力するのはやぶさかではないが、爆破犯がまだ捕まっていない。
今もホテルの周辺を張っていて状況を伺っているかもしれないから、のこのこ顔を出す訳にはいかない」

 電話でやり取りするくらいに状況は落ち着いているが、だからといって油断はできない。
何しろ爆破の解除をあまりにもスムーズにやりすぎてしまったので、味方である警察やフィアッセ達にも説明するのが難しいのだ。
他の爆弾は御剣いずみ達の協力で解除できたが、最後の一個はセインと妹さんが能力で解除したのだ。

詳細なんて説明出来るはずがない。まあ爆弾の位置はあくまで妹さんと犯人しか知らないので、俺たちが解除した分まで公開する必要はないが。

「そもそもホテルの出入りも制限されている。今は場を改めるよ。
お前だって事件を下手に大袈裟に騒がれて、桃子達を心配させたくないだろう」
『う、うん、それはそうだね……フィリスやシェリーも助け出されたばかりだし……
ゴメンね、わがままばかり言って』
「今に始まったことじゃない」
『何が起きてもリョウスケが全部解決してくれるから、いつもすごく安心できているの。
だからかもしれないけど、変にふわふわしてしまっているのかも』

 何を言っているのかよく分からなかったが、御剣いずみが横で聞いていて説明してくれた。
彼女は諸外国でも活動しているエージェントで、護衛任務を達成した実績もある。夜の一族に買われたのも結果を出しているからだ。

そんな彼女だからこそ言えることとして、今のフィアッセの心情は――被害者側として変な言い方だが、ありがちな考え方らしい。

物騒な事件は起きているが、同時に解決もしている。不安と安心が交互に起こり得ると、心は易きに流される。
自分が起きていることを現実と受け止めつつも、同時に守ってくれる人がいる。だからこそ事件という規模では見れず、物語という括りで見てしまうようだ

どんな事が起きても最後は必ずハッピーエンドが待っている。実際はその保証はないのだが、そう思いたい心理が働くのだという。

『何を言っているのかよく分からないよね。私が言いたいのはえーと、リョウスケがすごく頼りになるカッコいい人だってこと。
お父さんもすごく褒めていたし、エリスも――あっ』
「? どうした」
『ごめん。長話になってしまったのと、エリスの名前を出したから睨まれちゃった。要件を伝えたら切るように言われたの』
「だから俺は帰ると言っているだろう、早く切れ。落ち着いたら連絡する」

 流石は警備のプロ、ホテルの中にいても状況は正確に把握している。俺が今ホテルへ来ないほうがいいと、エリスが判断してくれたようだ。
議員さんから今直接連絡が来なかったのも、同じ判断に基づいてだろう。後で根掘り葉掘り聞かれるだろうが、少なくとも今ではない。
事件が解決したのであれば、状況をまず落ち着かせてから改めて整理すればいいのだ。今は爆破犯に踊らされないように、立て直す必要がある。

電話を切って俺は汗を拭った。

「――不幸中の幸いか、さざなみ寮の事は明るみになっていないようですね」
「親父さん達は把握しているかもしれないが、フィアッセには伝えていないんだろう」

 フィアッセとこの状況であえて話したのは、爆破の件以外に今起きている襲撃について把握しておきたかったからだ。
結果から見れば少なくともフィアッセには伝わっていないことはわかった。あいつが取り乱して精神に負荷がかかるとまずいからな。

ディアーチェ達が奮戦してくれている証拠だろう。ホテルが解決したのであれば駆けつけてやりたい。

「一応言っておきますけど、アタシは絶対行きませんからね。
これ以上面倒なのに関わりたくないですし、あっちは間違いなくマフィアの連中が暴れてるんです。

顔を合わせたらやばいんですから!」
「分かった、分かった。ここまで協力してくれてありがとよ」
「ふん、高い貸しになったんですから生きて返してくださいよ。というか良介さんが行くのだって、本当はまずいんですから」
「それは大いに同意ですね。私から絶対離れないように」

 シルバーレイと御剣いずみに、めっちゃ睨まれる。ぐっ、危険な場であることは分かるが現場には出たいのに。
ディードはまだ小さいが、それでも戦闘機人。それなのに今苦戦中と聞かされている。
チンピラレベルから何人いようと殲滅できる少女剣士が苦戦を強いられている。

少なくとも優れた実力の武闘派がいる――気がかりだった。
































<続く>


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2023/12/23(Sat) 20:17:07 [ No.1060 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十六話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ――結論から言うと、爆弾の解除は成功した。
位置は特定できているので、御剣いづみの指揮による現場統制。忍者である彼女ばかりに注目しているが、警護チームメンバー全員も専門のプロであるらしい。資金と人材運用に相当な力が働いていると聞かされてビビった。
日本の治安組織には爆弾の位置を二箇所伝えて合同作業。残る一箇所は戦闘機人と夜の一族の王女が解除。セインの初任務が護衛を除けば爆弾解除となってしまい、得難い経験だと後にジェイル・スカリエッティが笑っていた。

爆弾解除に成功した一番の秘訣は、俺が車内待機していたからだと総論されて、釈然としなかった。俺の存在意義とは何なのか。

「戦闘機人なんぞという特殊能力は流石に分からないでしょうけど、日本の爆弾処理班が解除した物はスナッチ・アーティストにバレると思いますよ」
「過激な行動に出る前に手を打ったほうがいいな、フィアッセに連絡を」

 かつてチャイニーズマフィアに所属していたシルバーレイは、スナッチ・アーティストなる爆弾犯について知っている。会った機会は少ないようだが、特徴的な人物ではあったらしい。
事件は解決していないが、少なくとも脅威となる爆弾は取り除かれた。後はシルバーレイよりテレパシーでフィアッセに状況を伝え、英国議員の親父さんに対処してもらうしかない。
うーん、責任を取る仕事なのは理解しているが、自分が動いてどうにか出来ないのはもどかしい。サラリーマンは社長を目指すようだが、こういう立場になっても辛いのではないだろうか。

くれぐれも動くなと念を押されているので、判断としては正しいのだろうか静観もなかなか辛い。

「状況が動きました、良介さん」
「どうなった」
「ホテルに警察が踏み込みました。脅迫には屈しないと、明確なメッセージを出したようですね」

 脅迫材料がなくなった以上、爆弾犯の命令に従う義理なんぞ従う必要はない。議員は早速外部へ働きかけて、救援要請を出したようだ。
シルバーレイのテレパシー1つでよく動いてくれたものだ。そもそもシルバーレイだって元はマフィアの兵士だったのだ、罠である可能性を考慮しなかったのだろうか。

不思議に思っていると顔に出ていたのか、シルバーレイがニヤニヤしながら突っついてくる。

「良介さんの名前を出したらフィアッセという女、すぐ父親に嬉々として伝えたようですよ」
「そこがそもそもおかしいんじゃないか。俺という一般人が爆弾を解除したという連絡の何処に信憑性があるんだ」
「何を言っているんですか、その点が面白いんじゃないですか。よくそこまで信頼されていますね。
テレパシーしている限りではあの女、恋愛脳がエグすぎますが、それはそれとして議員も良介さんがやってくれたと判断したのでしょう。
良介さんがどうこうよりも、自分の見る目と判断を信じて動けるのが凄い所なんじゃないですか」

 なるほど、俺への信用性はともかくとして、決断できる精神力と判断の賜物ということか。
俺も聖地では判断を迫られる時は多々あったが、自分よりも仲間達の優秀さを確信して事に当たっていた。
判断を間違えれば自分一人ではなく、多くの他人にも迷惑をかける。そういった中で信じて決断できる肝っ玉が優秀である証なのだろう。

逆の立場なら娘の友人だろうと、俺は信じられないかもしれない。その点が命運を分けるのだ。

「報告です。爆弾は解除しましたが、スナッチ・アーティストの行方は分かりませんでした。
現場の近くにいたのは間違いないですが、痕跡を追うのは現場の混乱から見て難しいでしょう」
「フィアッセ達の安全を確保しつつ追跡するのは難しい相手か」
「まあ、国際指名されながらもこれまで捕まっていませんからね。二次被害が出なかっただけでも御の字じゃないですか」

 フィアッセを狙っている以上放置するのは危険な相手だが、被害を無視しない限り追跡するのは難しいか。
他人よりも自分という過去の考え方であればあるいは捕まえられたかもしれないが、ジュエルシード事件の時のように身内に被害を出していたのは間違いない。
今度は逆の結果となった。仲間は無事だったが、敵を逃してしまった。どっちが正しかったのか、それこそ判断するのは難しい。

今はこれで良くても、未来で被害が出ればこの時逃がすべきではなかったのだから。

「我々としては望ましい結果です。貴方に何事もなかったのですから」
「結局、何もしていないんだが」
「責任を負うのも重要ですよ。おかげで我々が動けました」

 御剣いづみが静かに微笑む。そういうものか、と割り切れないのが素人と玄人の差なのだろう。
考えていても仕方がないので、セインと妹さんを呼び戻す。妹さんのサポートもあって、セインは無事だった。
状況を聞くと妹さんの魔法で凍結させてから、固有能力で爆弾をバラして地中深くに廃棄したらしい。

冷や汗ものだったと、セインは幼い容貌に果てしない徒労感を出していた。

「もう帰っていい、陛下。というかお風呂入りたい、手汗がすごい」
「爆弾犯を逃してしまったからな、これからも爆弾処理員としての活躍に期待する」
「絶対イヤでーす! そもそも緊急事態と言って呼び出されたんですから、早く帰って伝えないと増員くるよ陛下」
「しまった、聖地を荒らしたままになってたか」
「副たいちょーさん、怒ってたよ。事態が収まったら陛下を連れてきてくれって、言われてる。キレイな人って怒ると怖いよね」
「……すぐに帰ってお前が宥めてくれ、頼む」

 迂闊に聖地へ連絡を取ろうものなら、呼び出された挙げ句後始末に追われるだろう。事務仕事が山積みで動けなくなる。
緊急事態宣言の影響力を思い知る。迂闊に緊急なんて出したら、そこまでパニックになるとは思わなかった。
事件はまだ解決していないのだから、聖地へ戻る暇はない。無事に解決したのだと、セインに宣伝してもらうしかない。

セインの能力は貴重だが、結局今の戦力で今後どうにかするしかないか。

「まあでも、陛下の力になれたのは良かったかな」
「……そうか、お前がきてくれて助かったよ。ヴィヴィオのこと頼むぞ」
「ししし、任せて。それがアタシの仕事だからさ」

 入国管理局には後で送るので今すぐお別れではないにしろ、実質的にこれがセインへの別れの挨拶となった。
海鳴の高級ホテルで起きた、爆破事件。警察どころか日本政府が事態を重んじて、英国との国際的連携を視野に入れた行動に出ると表明された。
人々の不安を国家の威信が払拭するべく、各方面に働きかける。フィアッセの親父さんがこの件で良くも悪くも名を高め、騒がれるようになる。

そうした未来の動向はともかくとして、事態が落ち着いた頃にシルバーレイが声をかけてきた。

「フィアッセ、というか彼女の親が呼んでますよ。是非ともお礼がしたいので、ホテルに来てほしいそうです。
アタシはもう帰りたいんですけど、良介さんはどうするつもりです?」
「俺も帰りたいけど、このまま無視する訳にはいかないだろう」
「そうじゃなくて」
「なんだよ」

「さざなみ寮、任せっぱなしでいいんですって話」
「あっ」

 ディ、ディアーチェが頑張ってくれてるし……という訳にもいかないか。
































<続く>


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2023/12/17(Sun) 00:06:41 [ No.1059 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十五話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  正直言って駄目元だったけど、緊急事態ということで一応申請してみた。
”聖王”の名前を出して海鳴にある入国管理局に申請し、聖地の聖王教会に打診。時間がかかるようなら諦めて別の手を模索する、苦肉の手段。
友好関係を結べている聖女カリムに伝わればあるいは、と思っていたが――

何故かさほど時間もかからず、ぐるぐる巻きにされた戦闘機人が運ばれてきた。

「ここは何処!? アタシは誰!?」
「すげえな……110番かけるのと同じくらいの早さで急行してくれるとは」
「ちょっ、説明してほしいんですけど!」

 戦闘機人の一人、セイン。チンク達と同じ過程で製造された女の子である。
水色の髪をした、愛嬌のある幼気な風貌の少女。同年代、と言っていいか分からんが、うちの子ヴィヴィオの護衛を務めている。
ジェイル・スカリエッティ曰く純粋培養ではあるが突然変異体であるらしく、特化した能力を持っている戦闘機人だ。

明るくポジティブな性格で、言動も容姿同様子供っぽい少女。急に連れてこられて、目を白黒させている。

「落ち着け。説明すると、お前に爆弾処理をしてほしい」
「緊急事態ということしか分からない!?」
「どうせお前は暇だろう、頼んだぞ」
「暇で爆弾処理とは命じられたらたまったものじゃない!?」

 連れ込まれた車の中で横暴だのなんだのと、ギャースカ騒いでいる。うるさい奴だった。
どういう経緯で連れてこられたか分からんが、多分抵抗か何かしたんだろう。見事に縛り上げられている。
このままパニックになられても時間の無駄なので、御剣に頼んで拘束を解いてやった。さすがプロ、拘束術も心得ている。

開放されて少しは落ち着いたのか、キョロキョロしながら話しかける。

「なんか陛下より緊急事態要請との事で、咄嗟に逃げようとしたらシスターのお姉さんに怖い顔されて縛り上げれたんですよ」
「シスターシャッハかな、よくやった。お前も何で逃げようとしたんだ」
「大人の人達に怖い顔で緊急だって取り囲まれたんですよ!? 逃げません、普通!?」
「うーむ、どうしてだろうな」

「どうしても何も、陛下が”聖王”の名で緊急だなんて言ったら大騒ぎですよ!
大人の人達は失敗したら神罰だとか言って脅してくるし、ご息女のヴィヴィオ様はおとーさんの力になってあげてねとか笑顔で圧かけてくるし」

 ……セインの話では今、聖地では混乱の極みになっているらしい。聖王教会は応援要請があり次第騎士団を派遣するとまで言っているそうだ。
人員を大量に送る話も出ていたそうだが、俺の部隊機動六課の副隊長が宥めてくれたようだ。緊急の意味を課題解釈しないように、といってくれたらしい。ナイス。
ちなみにその美人副隊長さんから後で、まず私を通してくれと死ぬほど怒られた。正座で大説教かましてくれやがった。

貴方の名前で緊急事態を宣言するのは、世界の危機に捉えられるらしい。大袈裟だな、と笑ったら始末書の束で引っ叩かれた。あの女は、上司への尊敬が足りない。

「カリム様も何故か同行するとか言って破廉恥な格好に着替え始めて、余計に騒ぎになりましたし」
「嘘つくな、あの聖母のような女性がエッチな格好なんぞするわけないだろう」
「はいはい、それで何がどうなってるんです?」

 とりあえず妹さんからセインに事情説明している間、シルバーレイや御剣達に爆弾処理についての対応を説明する。
戦闘機人であることは伏せた上で、セインにはシルバーレイと同じく超能力めいたスキルがある事を伝える。
セインの能力は突然変異体ゆえに発現した、無機物に潜行する「ディープダイバー」。無機物に潜行し、自在に通り抜けることが可能な能力。

無機物内部を泳ぐように移動することで、地下や建造物の内部も自由に移動できるのだと話すと、彼女達は驚いた顔をする。

「いわゆる壁抜けが出来る能力ということですか、手品じみてますね……何でそんなファンタジーな能力に目覚めてるんですか。
というか、そんな能力者を平然と呼べる貴方が何者なのか、ますます分からなくなったんですけど」
「俺から見れば、お前も立派にその一員だからな」

「自分に自信が無くなってきましたよ……とりあえず話はわかりましたけど」
「そうです。能力の説明を聞く限りですと、犯人に気付かれずに爆弾へ接近することは出来ますが、解除までは出来ないのではないですか」

 シルバーレイと御剣いづみが同じ見解を述べる。彼女達は険しい表情を浮かべている。
セインは見た目、というか製造されて間もない無垢な少女。爆弾処理なんて危険な真似はさせられないという倫理観が働いているのだろう。
彼女達の考え方は正しいとは思う。危険な事をさせるのは間違いないし、子供に危険なことはさせられないのは至極正しい。

だが他に手段がない上に、今もフィアッセ達が脅かされているのであれば、誰かの責任でやらせなければならない。そして、その責任が今の俺に出来る仕事なのだ。

「ちょちょちょ、今この子から爆弾処理しろとか言われたんですけど!」
「頼んだぞ」
「いや、そんな爽やかな笑顔で言われても嫌だから! 第一アタシのディープダイバーでどうしろと!?」
「お前の能力って、たしか物体に接触していれば同様に潜らせることが可能なんだろう。
お前の能力で爆弾バラして地中深くに捨ててくれ」

 このセインの馬鹿は昔、俺を地中に引きずり込もうとした事がある。後でめちゃくちゃ叱ったけど、そういった経緯で能力は把握済みだ。
俺が今回注目しているのは、無機物の潜行にある。能力を表面上で見ると単純に潜るだけに見えるが、この能力の本質は透過にあると睨んでいる。
地下や建造物の内部も自由に移動でき、物体も接触していれば同様に潜らせることが可能。人間サイズも引きずり込めるのならば、爆弾だって潜り込ませられる。

加えて透過も可能なら、無機物の中身を透過することも可能な筈だ。爆弾は形になってこそ爆発するものであって、部品を一つ一つ透過して捨ててしまえば成り立たない。

「いやいやいや、ちょっと待って!? 接触しようとしたタイミングで、犯人が爆弾を爆発させたらどうなるんです!?」
「そんなの可能性は低いだろう」
「低いかもしれないけど、可能性がある時点で嫌だと言ってるの!」
「文句の多い奴だな……妹さん、こいつのサポートしてやってくれ」

「お任せください、剣士さん。
爆弾の起爆は事前に察知出来ますし、念のため魔法で凍結しますので安全に処理できます」
「う、うう……どうしてもやらないと駄目ですか」
「嫌なら次の作戦として、シルバーレイに念動力で爆弾を地中に埋める作戦で――」
「ちょっとそこのガキンチョ、アタシも手伝いますからやってください。この人、マジでアタシに無理強いさせるんですよ!?」

 アクビしながら話を聞いていたシルバーレイが突如目の色を変えて、セインと口喧嘩している。セイント二人して、俺を恐ろしい目で見上げていた。失敬なやつらだ。
こうして段取りは出来たので、御剣いずみに作戦の指揮を任せる。責任は俺が取るので、プロである彼女に現場を全て任せる。
そうまで言い切れば彼女も覚悟して、各所に連絡を取ってくれて行動に出る。これで爆弾は何とか出来るはずだ。

後は、現場のフィアッセたちだな。

「シルバーレイ、爆弾の処理が完了したらフィアッセ達に伝えてくれ」
「はいはい、分かりました」

 ホテルで起きた爆破事件、警察どころか国家も動く事になるであろうテロ事件。
フィアッセへの脅迫より始まった事件が、いよいよ表面化してきた。

これから先はあらゆるものを巻き込んでいくのだろう――コンサートが開催されるのであれば。
































<続く>


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2023/12/09(Sat) 23:03:21 [ No.1058 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十四話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 早速妹さんに頼んで”声”を聞いてもらった結果、爆弾が設置されているのはあろうことか三箇所もあった。何個仕掛けてるんだよ、この犯人。
その内の二箇所はホテル内、一階と屋上。もう一箇所はあろうことかホテル前、公共道路脇に設置されていた。人目に触れずどうやって仕掛けたんだ、この犯人。
親父さん達を脅かしつつ、フィアッセに直接危害を加えない場所。デモンストレーションには最適な場所に、爆弾を設置しているということだ。

プロとしての仕事と、テロリストとしての美意識が為せる仕事であると、同じプロの御剣いづみが解釈を述べる。

「……何で爆弾の位置がこれほど正確に分かるんですか、この子」
「”声”を聞きました」
「声ってなんです!? あっち系のヤバい子、いやでも爆弾の位置は本当にあってるっぽいし……超能力? 異能とかそういう類?」
「お前に分かるように言うと、爆弾のテレパシーだな」
「余計に分からなくなったんですけど!?」

「私にとってはあなた達二人共超常的なのですが……忍者の私って実は一般的な部類のでしょうか」
「存在意義を見失わないでくれ、護衛チーム長……」

 ホテル周辺の地図を広げながら、月村すずかこと妹さんが爆弾の位置を説明。的確に示す妹さんをシルバーレイが驚愕の眼差しで見つめ、御剣が改めて疑問視している。
いつの間にか自然と受け入れていたが、妹さんの能力も世間的に見れば超能力の部類なんだよな。海外に異世界、惑星と随分広大に冒険してきたが、どの世界から見ても妹さんの能力は際立っていた。
まだ子供で護衛として力不足を感じているようだが、この子が去年の6月から護衛として守ってくれなければ、俺はもう生きていなかっただろう。数多くの難事を乗り越えられたのは、間違いなく妹さんのおかげだった。

だからこそ何かあったら妹さん頼みになっていたが、人から指摘されて自分の感覚の変化に気付かされる。常識のように考えていては確かにいけないな。

「とりあえず能力の探り合いはやめておくとして、爆弾の位置が把握できるのであれば解除しなければなりません」
「爆弾を全て解除できればフィアッセ達が脅迫に脅かされることもないし、議員さんが動いてこの混乱を収められるだろう」
「しかし我々が動くのはオススメできません。特に貴方が動くのであれば反対いたします。
ちなみにこれは護衛としての意見というだけではなく、雇い主の意向でありますので貴方に恨まれようと我々は制止にかかります」
「雇い主の意向というのは何だ、一体」

「貴方に対するあらゆる不利益が生じる場合、貴方の意志に関わらず制止するように厳命を受けています」

 ……夜の一族の女共、下僕だの愛人だの婚約者だのと言っておきながら、全然俺のことを信じていないじゃねえか。
目を離すと俺が考えなしの無茶な行動に出るとでも思っているらしい。何で失礼な奴らなのだろうか、信頼関係を築くつもりはないのか。
ガッデムと憤りたいところだが、実際映画の主人公よろしく爆弾の解除を考えていたのだから、あまりアイツラを非難できない気もする。

ちっ、分かりましたよ。アクションスターを演じなければいいんだろう。

「爆弾処理班でも呼びたいところだが、警察が動くと犯人にバレるよな」
「この騒ぎです、当然犯人も目を光らせているでしょう。とはいえ、この町の治安において我々が独自に動くばかりではいけません。
警察に連絡するのではなく、警察に介入してもらいましょう」
「? 同じではないのか」
「違います。警察に連絡するのは市民の義務ですが、警察に介入させるのは上の仕事です。
よって我々は警察に直接通報するのではなく、動いてもらいましょう。そうすれば現場に動きを悟られることはありません」

 俺達は車の中で話し合っていたのだが、話し終えると御剣は運転席を出て何処かへ連絡を取り始めた。俺もそうだが、シルバーレイも話を聞いていて呆然としている。
警察を動かすとアッサリ言ったのだが、警察より上の立場ってどこらへんなのだろうか。そんなおえらいさんと、なぜ平然と連絡が取れるのだろうか。
夜の一族の連中は今諸事情あって動けないはずなので、既に根回し済みということだ。地域密着という言葉では生温い、夜の一族の浸透ぶりに恐怖さえ覚える。

そんな中で、説明を引き継いだ妹さんが続ける。

「ホテル内部はいいのですが、外にある爆弾の解除が困難です。地下駐車場の爆破で人の目もある」
「……爆弾の位置と状況から考えて、犯人は野次馬も人質に入れているのか」
「可能性は高いでしょうね。スナッチ・アーティストの考えそうなことです」

 地下駐車場での爆発は爆破の被害を考慮したのではなく、フィアッセ達を脅かすのと警察や野次馬を呼ぶのが目的だったというわけだ。
ホテルに集まる人が多ければ多いほど、外にある爆弾の影響力が大きくなる。人の目があれば、解除するのも困難だ。
自分の足元に爆弾が設置されていると分かればまず間違いなく大パニックになるし、大混乱による死傷者が出ることも考えられる。

全く十重二十重に張り巡らせた罠である。変な言い方だが、流石は国際指名手配犯だった。

「どうするんです。迂闊に動けば大パニックになりますし、犯人にもバレますよ」
「この世の中には超能力という奇跡の力があって――」
「ちょっと、いい加減怒りますよ!?」
「お前、救急車とか空に飛ばしてたじゃねえか!」
「爆弾みたいな精密機器を超能力で動かしたら私が危ないじゃないですか!」

 くそ、どうする。他の爆弾を解除しても、肝心なのが残っていたら脅迫材料になり得る。
一般的な力では無理なら、一般的ではないのに頼るしかない。何か出来ることはないだろうか。

ディアーチェとディード、オットーは戦闘中、妹さんは探知のみ、アリサは頭脳労働。
魔導師連中ならどうだろう。なのはは爆弾処理とか聞いたら泣くだろうし、はやては車椅子。シャマルの旅の鏡なら何とかなりそうだが、あいつとシグナム、フェイトはエルトリアで開拓中。
恭也達は剣士だし、忍は技術者だけど流石に爆弾は無理。那美は退魔師だし、久遠は小狐。
クロノ達、時空管理局はどうだろう――うーん、技能的にクロノ達は不明なので保留。イリスならどうにかなりそうだけど、ユーリ達含めて全員エルトリアにいる。あああああ、なぜ俺は主戦力を置いてきてしまったのか。

ぐぬぬ、後は戦闘機人の連中とか――工作担当のチンクもエルトリアだし……あっ、そうだ。

「妹さん、聖地から人を派遣することは出来るか」
「? はい、剣士さんの権限であれば可能かと」

「セインを至急呼んでくれ、ヴィヴィオの護衛で暇しているはずだ」






























<続く>


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2023/12/03(Sun) 00:50:08 [ No.1057 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十三話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  嫌がる女を車に連れ込む――俺はこういう事が平気で出来る男である。
隔離施設へ帰ろうとするシルバーレイを問答無用で掴まえて、人目につかないように御剣いずみが運転する車に押し込んだ。
本人はあーだこーだ言っていたが、国際的事件に発展しそうなこの状況下で帰す訳にはいかない。こいつはキーマンなのだ。

いや、キーウーマンか。まあ、どっちでもいいけど。

「ちょっと良介さん、婦女暴行で訴えますよ!」
「ふふふ、クローン人間に日本の法律なんぞ適用されないのだよ」
「協力を求める相手に、よくそこまで平然と差別的発言を言えますね!?」

 車に連れ込まれたシルバーレイは怒るよりむしろ呆れた顔で指摘する。馬鹿め、俺は女であろうとも言葉を選ばないのだ。
戦闘機人や夜の一族との交流で分かったのだが、変に人間かどうか意識して話すと相手に伝わって不快な思いをさせてしまう。
人であるか否か、こだわるのはむしろ人間の方である。そういった人としての側面を彼女達が望まない。

シルバーレイもその部類に見える。こいつはHSG患者としての力を、恥じることなく堂々と使っているのだから。

「お前が同行してくれたのは、フィアッセと連絡が取れないこの状況に心当たりがあったからだろう」
「ちょっと良介さんに恩を売りたかっただけなのに、ハァ……まあ、そうですね。
急に連絡が取れなくなるのって通信に問題があるか、本人に何かあったかのどっちかでしょう」
「そりゃそうだ」

「アタシは組織にいたのでフィアッセ・クリステラの情報はある程度掴んでました。
彼女に危害が加えられていたらもっと大事になってる筈なので、連絡が取れない状況下にあるのだと予想しただけです。

となればマフィアの取る手段から推察すれば大体分かるでしょう。後はテレパシー使って状況を伺えば分かると思ったんです」

 ……そういえばこいつ、平然と裏切ってたから実感あんまりなかったけど、元マフィアの一員だったんだよな。
アジトに捕まっていた時のマフィア達の会話を伺った限りだと軽んじられていたように見えたが、フィアッセ達の情報はこいつにも共有されていたようだ。
裏切り者は何度でも裏切るという話はよく聞くし、夜の一族や警備側はシルバーレイを警戒しているようだが、俺は何故かこいつを信用して話せている。

俺も昔は根無し草だったので、ある程度気持ちを理解できるのかもしれない。

「そもそもテレパシーが使えるなんて初めて知ったんだが」
「なんで自分の力をいちいち全て話さないといけないんですか。良介さんだって隠し事の1つや2つあるでしょう」
「そうか、すまんな。テレパシーは相手が居ないと独りよがりだもんな」

「ぼっちが理由だからじゃないですよ!?」

 何故か熱弁してくるクローン女。悲しき女よ……哀れんでやると、肘鉄された。いってー!
美人なのに独りぼっちなんて悲しすぎるが、プンスカ怒っているのでこれ以上言うのはやめておく。

せっかく明らかとなったのだから、この女を丸裸にしてくれるわ。

「もうバレたんだから詳しく教えろ」
「内緒にしておいてくださいよ、もう……アタシのテレパシーは、こういう隔離された状況下で脳活動を同期発生できるんです。
いわゆる精神感応なんですね。電話などを使わなくても相手に自分のメッセージを送ったり、逆に相手の心の中にある考えや感情を読み取ることができる能力です」
「それでホテル内のフィアッセにメッセージを送って、反応を伺ったのか」
「そうです。彼女はHGS患者なので、テレパシーを知っていたのですね。最初こそ戸惑ってましたけど、アタシが良介さんの関係者だと知ってすぐ応じてくれました。
すごいですね、あの人。アタシがHSGだかという以前に、良介さんの名前を出したら一発でしたから」
「俺は水戸黄門の印籠か……」

 フィアッセのやつ、俺の名を騙る敵だと思わなかったのだろうか。相手がHGSのテレパシー能力者だから信じたのか分からないが。
シルバーレイの補足によると、精神感応は明瞭に行えるが距離に限界があるらしく、現地に行かないとやり取りできないらしい。
そう考えると妹さんの万物の”声”を聞く能力が改めて桁外れなのを思い知る。夜の一族の王女は今まで一切聞き逃しがなかったのだから。

携帯電話もアンテナのない場所はかかりづらいと言うし、距離に限界があるから欠陥とはならないが。

「能力はある程度分かった、これ以上詮索するのはやめておく。ホテル内部の状況を聞かせてくれ」
「先程言った通り、フィアッセ・クリステラとその家族は脅迫されています。
良介さん――は知るはずなさそうなので、運転席のお姉さんに聞きますね。

”スナッチ・アーティスト”という異名はご存じです?」
「! まさか、駐車場の爆破は”クレイジー・ボマー”が起こしたのですか!?」

「名前が変わってるんだけど!?」

 俺が思わずツッコむが、本人達は真剣そのものだった。ぐっ、どっちも全く知らない。
案の定、シルバーレイは仕方がないと言わんばかりの態度で教えてくれた。

こいつ、マウントを取る時は偉そうだな。

「”スナッチ・アーティスト”は組織に雇われた人物で、裏社会のプロフェッショナルです。
あいにくと本名まではしりませんが、爆発物の取り扱いについては超がつくほどの一流です。

非常に残忍な性格で、目的の為ならば人命など取るに足らない奴ですね」
「そんな奴が今、ホテルを襲っているのか!?」
「過去に数々の爆破テロを起こしている国際指名手配犯なので、直接の接触はしてないです。
爆破のパフォーマンスを見せつけて本人達をビビらせ、遠隔操作しているのでしょう。

爆弾さえ仕掛けていれば、別に本人が直接対峙する必要もないですしね」
「くそっ、捕まえればいいってものじゃないのか」

 いざ尋常に、という時代劇のやり方で悪事は裁けないようだ。現代社会で戦うのは難しい。
まずホテルの地下駐車場で爆弾を爆発させる。そうすれば警察が動いてホテルに邪魔者は入らないし、フィアッセ達への強烈なメッセージとなる。
この時点で何処かから電話なりで脅迫すれば、親父さんやエリス達も迂闊に動けなくなる。爆弾が他にもあると分かれば、外部からの介入も困難となるだろう。

籠城する必要もなく、このまま持久戦になれば議員達は追い込まれて――屈するしかない。

「スナッチ・アーティストと会ったことはありますが、フィアッセ・クリステラに執着している素振りがありましたね」
「フィアッセに? まさか脅迫状を本人に送ったのもそいつなのか」
「ハッキリしたことは分かりませんが、この仕事を引き受けた理由の1つにフィアッセ本人があるのは確かですね」
「確かに美人だが……あんな恋愛脳のどこがいいんだ」

 スタイル抜群の美人、気立てが良くて男に尽くしてくれる。一見すれば良さそうだけど、爆破のプロフェッショナルが小娘一人に執着なんぞするなよ。
しかし、厄介ではある。この状況を打開するには爆弾をどうにかするしかないが、当てずっぽうで探す事はできない。
下手にホテルをウロウロするわけにもいかないし、警察に見咎められたら目も当てられないしな。エリス達プロでも動けない状況なのだから。

一応、聞いてみる。

「シルバーレイさん、折り入ってお願いが」
「超能力で爆弾なんて探せない――正確に言えばないことはないですが力技になるし、被害0は無理です」
「うーむ、妹さんならどうにか出来ないかな」
「出来ます」
「そうだよな、流石に無理……えっ!?」

「チンクさんよりこういった自体に備えて工作訓練を受けています。爆弾の”声”を聞く練習も行っています」

 戦闘機人であるチンクの能力は爆破等を含めた工作。
かつてマリアージュのような人間爆破能力を持った敵と戦った経験を生かした訓練。

夜の一族の王女は、日々成長を遂げていた。






























<続く>


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2023/11/24(Fri) 00:59:37 [ No.1056 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十二話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  信頼を預けたディアーチェは意気揚々と飛び去っていった。魔導師が空を飛ぶのは珍しくないが、未確認飛行物体とかで騒がれたりしないだろうか。
ディアーチェに判断を預けた。自分の娘はとても喜んでいたが、俺が逆の立場であればどんな風に感じただろうか。
答えはすぐに出て、笑いがにじみ出る。たとえ他人であろうとも、判断を任されたら悪い気はしない。血は繋がっていないが、ディアーチェはそういう面でも俺に似ている。

妹さんが連絡を取ると、警護チーム長の御剣いずみが車を回してくれた。

「止められると思ったのですが」
「私は命令を受ける立場です。ご挨拶の時に貴方と話し、戦ってみて人となりは分かりました。
短慮だとは思いますが、軽率な行動には出ないでしょう」
「助かります」
「雇い主からの配慮でもありますので、礼は不要です」
「配慮……?」

「貴方に関する動向を事前にお聞きしています。こういった事態が起きた場合貴方がどういった行動に出るか、事前に説明を受けています。
この行動も想定内ですので、お気になさらずに」

 ――ロシアンマフィアの女と、アメリカ大富豪の娘の笑顔が脳裏に浮かぶ。貴方のことは全てお見通しです、と悪魔のように笑っていた。怖い。
ホテルとさざなみ寮が同時に襲われてることまで想定していた、という現敵的な見込みではなく、彼女達であればあらゆるパターンを想定して今後の未来を組み立てていたのだろう。
その枠組みの中で俺がどういった行動を取るのか、どういう考えに基づいて実行に移すのか、見透かしている。あえて良く言えば、理解してくれている。

なんだか自分が将棋の駒にでもなったような気分だが、強制されている訳ではないので考えるのはやめておこう。ハゲる。

「良介さん、テレビを見たんですね」
「シルバーレイか。留守は任せたぞ」
「一応協力すると言ったんですし、私を戦力に入れなくてもいいんですか」

「だってお前、人助けとか嫌だろう」
「当然じゃないですか、面倒くさい」

 試すように聞いてくるシルバーレイに当然のように返答すると、少し嬉しそうにフフンと笑う。憎たらしい奴である。
見透かしたように言ってやったのに、何故かシルバーレイは機嫌が良さそうだった。自分のことを理解してもらえたのがそんなに嬉しいのだろうか。
まあ一応組織を裏切らせた手前、少しくらい配慮はしてやっている。ホテルに間違いなくマフィアの手先がいる以上、シルバーレイを同行させるのはまずい。

シルバーレイの裏切りはほぼ確定事項であるが、組織側からすればあくまで疑惑である。襲撃が起きるまで一応シルバーレイは体裁は守っていたのだ、場合によっては言い逃れが出来なくはない。

「ここはバレていないとは思うが、フィリスとシェリーを守ってやってくれ。お前がいるだけでも安心してくれるだろうしな」
「あの二人からすれば、良介さんも危ない真似はしないほうがいいと思うんですけど」
「ひとまずホテルの様子を見に行くだけだ。俺だってわざわざ好き好んで危険な真似はしないさ」

「この前の囮作戦って、私がいないと超危険だったんですけどね」
「うっ……」

 ニヤニヤしながら指摘してくる、むかつく。こいつに助けられたことは一生恩に着せられそうだ、でかい貸しを作ってしまった。
フィリス似の綺麗な銀髪を短く切ってからというもの、オリジナルの雰囲気は木っ端微塵に消えてしまっている。
すっかりシルバーレイとしての個性な女の出来上がりだった。自動人形のローゼといい、名前を与えたくらいで覚醒しないでほしい。

自動人形のオプションであるファリンもライダー映画を見せたら正義に目覚めたし、女という生き物は自我が強いのだろうか。

「そもそもなんでわざわざ行くんですか、警察とかわんさか来ているっぽいですよ」
「フィアッセと電話していたんだが、トラブルがあったようだ。様子を見に行ってくる」
「その様子を見に行くという行動の範囲がすごく気になるんですけどね」

 チクチク言ってくるが、言葉の端々に俺の安否を気遣う口調は見える。こいつなりに心配してくれてはいるのだろう。
同時にこいつの言葉は、フィリスやシェリーからの俺への心配や不安でもある。本人達が出ないのは、自分も迷惑をかけたという負い目があるからだろう。
個性的ではあるが、何だかんだ海鳴にいる女達はどいつもこいつも根は優しくていい女ではある。

だからこそ俺も、こうして危険を承知で駆けつけてやりたくもなるのだ。

「ま、アタシは良介さん以外はどうでもいいんで気をつけて。というか、電話かけ直せばいいんじゃないですか」
「掛け直しても繋がらないんだよ。だから心配になってる」
「ふーん……」

 適当に手をひらひらさせて見送ろうとしていたシルバーレイだが、俺の話を聞いて何故か考え込む。
その間車を出してきた警護の御剣いずみは口出しせず、待ってくれている。
彼女からすれば俺がホテルへ行くのは望ましくないので、時間がかかっても問題はないのだ。

少し考えていたシルバーレイがその警護の女性を見やりつつ、口出ししてくる。

「気が変わりました、一緒に行ってあげます」
「は……? 人助けに興味ないんだろ」
「ありませんよ、そんなの。組織を裏切ったのだって良介さんとアタシの保身が理由ですし」
「俺も理由かよ。それで、なんで急に心変わりしたんだ」
「それは移動しながら話します。深入りする気はないんで、ちょっと留守にするくらいならいいですよね。
その間、ここを守ってくれる人を配置してもらえませんか」
「何なんだ、こいつ……どうしたものかな」

 シルバーレイの急な心変わりに戸惑いつつ御剣を見やると、彼女は静かに首肯してくれた。人員の再配置は問題ないらしい。
この隔離施設は俺を安全に護るための拠点であり、元々警備は万全に敷かれているとのことだった。
物理的な防衛だけではなく、電子的なセキュリティ体制も徹底しているようだ。

国防レベルとか言っていたが、流石に嘘だとは思いたい。いや、本当に。

「お前がマフィアに見つかったら見捨てるからな」
「その時は良介さんを余裕で売りますので仲良く地獄行きですよ、うふふ」
「くそっ、急所握ってやがるこの超能力女」

 銀髪美人の憎たらしい笑顔を向けられつつ、ホテルへ向かった。


 昼間とは打って変わって、ホテル周辺は騒然としていた。
地下駐車場で起きたとはいえ、爆破騒ぎとあれば人の目も引いてしまい、ニュースにもなって現場は騒がしくなっている。
御剣いずみ達警護チームがすぐ情報収集してくれたところ、警察関連は現場一帯を封鎖して、爆発が起きた経緯などを調べているらしい。

当たり前だが、一般人の俺が立ち入らせてくれるはずもなかった。流石に正面から頼みに行ったりはしなかったが。

「雇い主の権限であれば現場立会いも可能かもしれませんよ」
「国家権力がネジ曲がりそうなので、そういうのはちょっと」

 カレンやディアーナ達でも日本という島国の中でそこまで出来ない――とは思うのだが、頼んだらどういう結果になるのか怖い。
シルバーレイが起こした救急車の暴走だって大いに人の目を呼んだのに、クロノやレンが現場で仕切った瞬間撤収してしまったからな。
そこまで考えてクロノという時空管理局執務官の存在が浮かんだが、あいつも夜の一族とは違った権力を持っているので扱いが難しい。

さて、どうしたものか。

「良介さん、今も電話繋がらないですよね」
「ああ、一応掛けてみたが駄目だった」
「やっぱりそうですよね。ちょっと待ってくださいね――」

 同行してきたシルバーレイは俺と同じくマフィアの目があるので、周囲に悟られない位置取りでホテル周辺に潜んでいる。
呑気に堂々と野次馬する必要もないので、あくまで現場に来ているだけだ。この点は素人頼みではなく、警護のプロに徹底してもらっている。
判断も全て御剣いずみに頼んでおり、周辺の警戒も妹さんに任せている。迂闊な真似は自分一人ではなく、周囲を巻き込んでしまう。

俺が身の危険に立たされれば、匿っているフィリスやシェリーも危うくなる。素人の自己判断は絶対にしてはいけない。

「――やっぱり」
「やっぱり?」

「えーとですね、フィアッセ・クリステラとその御家族は今、脅迫を受けています。
ホテルの何処かに爆弾が設置されていて、脅迫に応じなければ爆破すると脅されているようですね。

連絡が取れないのも、そのせいかと」

「なんでそんなのが分かるんだ!?」
「広範囲じゃないですけど、テレパシー使えるんで聞き出しました。そんな事じゃないかと思いましたよ。
それじゃ、良介さんに恩を売って満足したんで帰りますね」
「待て待て待て!?」

 それだけ言って本当に帰ろうとしている女を、ヘッドロックしてとめる。
人間アンテナを黙って返す訳にはいかない。何としても受信してもらわなければ困る。

というかこいつの能力、便利すぎる。もしかしてマジで、裏切らせたのは大当たりだったのではないだろうか。





























<続く>


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2023/11/19(Sun) 01:21:29 [ No.1055 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十一話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ホテルで爆破騒ぎがあり、さざなみ寮でマフィアの襲撃が起きている。
自分自身落ち着かせるべくテレビの電源をつけるが、報道されているのはホテルの騒ぎのみ。さざなみ寮は襲撃されているが、まだ表面化はしていない。
状況1つで考えるのならホテルは人目を引く陽動で、さざなみ寮が本命と考えられる。最近日本のアジトを1つ潰されたマフィアは余力がなく、こちらの戦力を分断するべく行動に出た。

ただこれはあくまで素人の俺が考えた戦術的推測に過ぎない。フィアッセの電話が突然切れたことも気になる。

「剣士さん、警護チームの御剣さんより迂闊な行動は控えるように連絡が来ています」
「ぐっ、やはり夜の一族は俺の防衛第一か」

 先程フィアッセに言った俺の言葉そのまんまである。素人が首を突っ込むなということだ。
警護チームが対象者に苦言を述べてくる点からして、カレン達は今も別件で動いている最中なのだろう。事件への関与はしないらしい。
彼女たちの立場からすれば無理もない。フィアッセは見捨てるべきだと言われているし、さざなみ寮なんて彼女達からすれば完全に赤の他人だ。どうなろうと知ったことではない。

むしろマフィアが明らかに動いているこの事件に、俺が飛び込む方がまずい。だから何か起きたときのために、警護チームに俺の制止を厳命しているのだ。

「動くなと言われてもな……どうするか」

 何のために日本には警察という組織があるのかという話である。民間人が動かないとか解決しないなんて論外だ。
その道理は分かるのだが、さりとてもじっとしているというのも性に合わない。狙われているのは俺も同じで、明日は我が身なのである。
ふと笑いが込み上げてくる。今から約一年前、俺がこの海鳴に来て通り魔事件に巻き込まれた。あの時は何も考えず事件に関与して大怪我した。

あの頃は今より自由だったと思うし、俺らしく行動できていた。ただ一方で、赤の他人が俺のせいで巻き込まれてしまった――今と昔、どちらが正しいのか。

「素人が悩んでいても仕方がない。専門家に任せよう」
「むっ、偉大なる父が赤の他人に大事な判断を委ねるというのか」
「何を言っているんだ、他人じゃないだろう」
「えっ、いやしかし、今専門家に任せると――」

「だからお前が判断してくれ、ディアーチェ」
「! 我に……」
「お前になら任せられる、頼んだぞ」

 ディアーチェは立場上俺の子供ではあるが、本来は闇の書の中で眠っていた魔導師である。
素性は正直きちんと把握できていないし、聞いたこともないが、ディアーチェの才覚と器は稀有なものだ。
ヴィータ達守護騎士システムと同じく造られた存在であろうとも、蓄積された知識と知恵は本物だ。

そして何よりロード・ディアーチェという女の子を、俺は信じている。それだけで十分だった。

「そこまで我に期待してくれていたとは……すまぬ、父よ。少しでも貴方を疑った我を許してくれ!」
「緊急事態だ、右往左往してしまうのも仕方がない。意見を聞かせてくれ」
「うむ、この状況における最も有効な策は父が静観し、我々のみで動くべきであろう。
確かに人手は限られているが、我らは皆強者揃い。マフィアなどという悪漢に負けはしない」

 きわめて常識的判断であり、正しい見解である。
そもそも夜の一族、世界有数の実力者が揃う女傑達が動くなと言っているのだ。
論じる余地はないし、指摘できる点もない。正しいということはそれだけで鉄壁であり、関与する必要もない。

俺でも分かることを、ディアーチェが分からないことなんてない。

「どの口ぶりからすると、他にも意見はありそうだな」
「結局のところ、父が納得できるかどうかにある。父は情に流されないが、情には応える。
フィアッセ・クリステラという女性の護衛と、父の友人達の安否を前に大人しくも出来ないであろう。

ならば次策として父はホテルの方へ行くべきだ」
「どうしてホテルの方なんだ」

「護衛対象が救援を求めているということ、現時点でホテルは爆破騒ぎが起きた後だということだ。
官憲がひしめいており、状況は沈静化に向かっている。
父も考えている通りあのホテルはマフィアの目があり、父が向かうことで彼らの網に掛かる可能性もあるが――

そもそもの話、父は一度既にあのホテルへ来たという事実があるのだ。マフィアたちにすれば目新しい情報ではない」
「あっ――」

 俺はホテルへの誘い出しを懸念していたが、そもそも既にホテルから一度尾行されている。
そのホテルで騒ぎを起こせば誘い出しに遭う可能性を俺が考える――という点を、マフィア側が思いつかない筈がない。
爆破騒ぎまで起こして、あからさまな罠を仕掛ける価値は薄い。引っかかれば儲けものと考えてかもしれないが、それにしては爆破はやりすぎだ。

つまりこの騒ぎは陽動である可能性もあるが――本命はやはり、クリステラ親子か。

「幸いにも父は議員やボディガードとコンタクトは取れている。
軽率な行動だと咎められるかもしれないが、愛娘の救援と知れば無碍にも出来ないだろう。

警護チームのバックアップを受ければ、マフィア達にもおいそれと気取られまい。
父は月村すずかとホテルへ行き、現場の状況をまず確認すればよいのではないか」
「ディアーチェはどうするんだ」
「我はさざなみ寮ヘ向かい、父に代わって現場を仕切る。戦闘にまでなっているが、ディード達も善戦している。
寮の人間には父からの救援であることを告げ、問題とならないように対処するので任せておけ」
「なるほど、さすがはディアーチェだな。頼りになる」

「ふふん、シュテル達を代表して父の力となるべく地球へ直参したのだ。このくらいのこと造作もない」

 口ではそう言っているが、ディアーチェの頬は紅潮している。緊急事態だが気概に満ちていて頼もしい。
確かに俺は事件解決のことばかり頭にいっていたが、まずホテルへ行き状況を確認して行動するのは悪くない。
警護チームがサポートしてくれればマフィア達から迂闊に仕掛けられることもないだろうし、妹さんがいれば奇襲も防げる。

万が一不測の事態が起きれば、その時に行動すればいい。フィアッセから連絡を受けたとあれば、邪魔立てさえしなければ議員やエリスも話くらいはしてくれるだろう。

「よし、ディアーチェの判断に従って行動に出るぞ」
「うむ!」

 こうして俺達は、新たな戦場へと向かった。




























<続く>


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2023/11/11(Sat) 21:18:54 [ No.1054 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 夜の一族の中で今連絡が取れるのは、フランスの貴公子カミーユ一人。カミーユは主導するタイプではないので、マフィア殲滅は支援のみに留めている。
言い方は悪いがこいつと話していても仕方がないので、情報交換だけして通信を終える。とりあえず現状は報告しておいたので、カレン達にも伝わるだろう。
ちなみにイギリスの妖精、ヴァイオラも留守だった。以前話していた通り、あいつは今クリステラソングスクールに通っていて、コンサートに向けて練習に励んでいる。

そういう意味ではフィアッセの事件に関わっていると言えるが、立ち位置としては微妙だった。少なくとも、マフィア殲滅の話には加わらないだろう。

「結局どうするのだ、父よ」
「しばらく静観だな。情報収集は頼む」
「ならばオットーが適任だな。我は街のパトロールをしながら、マンションも見張っておこう」

 聖地の王様であるディアーチェは自信ありげに自分の胸を叩いて、行動に出る。うちの子は行動派が多いな。
俺も考えるより足を動かすタイプなのだが、あいにくと俺も余裕で狙われている身の上である。囮作戦を実行した後で、呑気に出歩けるほど油断していない。
議員さんのホテルから出た直後に、尾行までされている。万が一にでもこの隔離施設がバレれば大事になってしまう。余計な真似はしない方がいい。

皆忙しそうなので、俺も――

「飯食って寝るか」

 ――働かざる者食うべからずという言葉もあるが、俺は潜入作戦という壮大な任務を終えたのだ。
少しくらい休んでもバチは当たらないのではないだろうか。いやむしろ、俺という人間こそ今は休むべきではないか。
この場にいない脳内のアリサが睨んでいるが、メイドに恐れる俺ではない。護衛任務に従事する妹さんと一緒に食事を取って、私室のベットで横になる。

この事件が始まって俺自身あまり戦っていないが、なんだか疲れている。

「護衛ってのはあんまり慣れないな……」

 剣士だからというわけではないが、基本的に俺は攻めるタイプなので専守防衛は向いていない。焦らされている感覚がもどかしい。
リーダーであればむしろそういう資質も重要なのだが、聖地での戦争やイリスの事件、エルトリアでの開拓でも自ら率先して動いていたので我慢勝負は苦手だった。
マフィアに怯えて震えているのではない、むしろ追い詰められているのは奴らだ。ただ主導しているのは夜の一族なので、俺はあくまで被害者に近い関係者に過ぎない。

上手く行っているのは事実なので下手に動かないほうがいいのだが――それでも疲労を感じている時点で、やはり俺は素人なのだろう。

「……エリス・マクガーレンか」

 考えていると眠くなってきたので、目を閉じる。
若くしてマクガーレンセキュリティ会社を継いだ、護衛のプロ。警護チームを率いる若き才女は、専守防衛こそ望むべきことなのだろう。
護衛対象を護ることが肝心なのであって、敵を倒すことを目的としていない。剣士とはまるで違う考え方を持って、人生を送っている。

剣士――御神美沙都師匠、あの人ならどうなんだろうか。


 ――耳が、鳴った。

目を開ける。どうやら思っていたより熟睡していたのか、私室の窓から外を見ると日が暮れていた。
起き上がって頭を振る。気のせいか、揺れた気がした。周りを見るが静かなものだった、別に隔離施設に何かあったわけではない。

地震か何かあったのか、俺が立ち上がると妹さんが飛び込んできた。

「剣士さん、大変です」
「どうした、妹さん」
「こちらをどうぞ、フィアッセさんから至急のお電話です」
「フィアッセから……?」

 あいつは今、親父さんと一緒にホテルで安全に滞在しているはずである。嫌な予感がしたが、同時にどっちの予感なのか判断に迷った。
何か起きて電話してきたのか、俺と話したくて電話したのか。本来であれば当然前者だが、あいつは今能天気なのでどっちなのかわからん。
後者ならばシカトしたいが、前者だと早く応答しなければならない。仕方なので、渋々電話に出ることにした。

いちいち迷うことでもないんだが、あいつは色んな意味で曲者だからな。

「どうした、フィアッセ。くだらん用事なら切るぞ」
『大変なの、リョウスケ!? ホテルが、ホテルが!』
「ホテルがなんだって?」

『ホテルの地下駐車場で爆破騒ぎがあったの』

 即座に電話を持ち直して、妹さんに目配せする――ディアーチェ達を全員連れてきてくれ、妹さんは頷いて部屋から飛び出した。
マジかよ、あいつら。考えとかないのか。狙いが見え透いていて、逆に戸惑うわ。この状況で動くとか頭がおかしいだろう。
フィリスとシェリーを奪還されて、アジトを潰されたんだから、せめて日本から撤退しろよ。勝てる見込みがあると、真剣に思っているのだろうか。

マフィア達が全くめげていなくてゲンナリする。本当にクリステラを狙っていやがるんだな。

「とりあえず落ち着け。お前達は無事なんだな」
『う、うん、パパと私はホテルの部屋にいたから大丈夫。ただ――』
「ただ?」

『パパの車――あ、いや、パパが日本で乗っていた車が爆破されたみたいなの』

 ――アジトを潰されて、脅迫をエスカレートさせたのか?
本人に危害を加えるのなら、乗車している時に爆破していたはずだ。わざわざ駐車している車を爆破させても器物損壊になるだけだ。
いや、マクガーレンセキュリティ会社が優秀だからこそ乗車時は狙えなかったのかもしれない。車だって、親父さんが乗る際は当然チェックするはずだからな。

いずれにしてもホテルの駐車場で爆破なんてどうかしている。

「まだテレビとか見てないんだが、けが人とかは出ているのか」
『ううん、駐車場にはその時誰もいなかったみたいだよ。今は警察とかで大騒ぎに鳴っているけど』
「分かった、とりあえず護衛のエリスの指示に従え。不安なのは分かるが、迂闊に動くなよ」
『分かった。リョウスケは何時頃来れそう?』
「は……?」

『ごめんね、こんな夜遅くに。でもリョウスケが来てくれるなら安心だね』

 何いってんだ、このアマ。犯人は事件現場に戻るという鉄の掟を知らんのか、こいつ。
不安になる気持ちは大いに分かるが、マフィアの目が光っているかもしれないのに、第一ターゲットの俺が飛び込んだから網に引っかかってしまう。

あ、むしろそれが狙いなのか。騒ぎを起こして俺を呼び寄せる罠だったりするのか。フィアッセの家族ではなく俺をターゲットにした作戦の可能性がある。

「民間人の俺がホテルに行ったとして、この状況で議員の親父さんがいる部屋に行けるはずがないだろう」
『大丈夫だよ、私が話を通すから!』
「お前のところの護衛がシャットアウトするぞ、きっと」
『うっ……』

 子供が友達の家に遊びに行く感覚ではない。平時でも気軽に会えないのに、今は有事なのだ。ノコノコ顔を出したら門前払いされるに決まっている。
エリスの判断は冷たく見えるが、実際は温情である。爆破騒ぎが起きているのだ、民間人を巻き込んではいけないという正義感がある。
俺だってそのくらい分かるから、フィアッセが不安であることを考慮してもそう言うしかない。さぞ心配だろうが、俺が出向いて事件が解決するわけではないのだ。

それこそプロに任せるべきだろう。

「心配なのはよく分かる。ホテルの状況が一旦落ち着いたら連絡を――というか今、話していて大丈夫なのか」
『う、うん、今エリスが現場に行って警察に協力を――きゃっ!』
「どうした、フィアッセ!?

『――』

 電話が切れた。おい、意味深に電話が切れるなよ、不安になるだろうが!
電話を置いて考える、ホテルに行くべきか。いや、こうして場を荒らして俺を誘き出すことが狙いかもしれない。
現場は警察がいて、エリス達セキュリティサービスも協力している。民間人が出向いても、現場への立会いも許されないだろう。

だったらディアーチェ達に偵察を――


「父よ、緊急事態だ!」
「うおっ、何だいきなり」

「父の懸念通りとなったぞ。悪党共の狙いとしていたさざなみ寮、父の知人がいる場所が襲われている。
ディードとオットーが先行して現場へ急行しており、戦闘を行っている」
「なんだと!?」

 二面作戦!? そんな余力がまだあるのか!
いきなり目まぐるしい展開となり、目覚めたばかりの頭が大パニックだった。

俺という人間は一人なんだぞ、どっちに向かえばいいんだ!?
































<続く>


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2023/11/03(Fri) 18:19:29 [ No.1053 ]

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