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◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十九話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 均衡というものに悩んでいる。
極端な話、手段を選ばなければフィアッセ達を守るべく過激な方法だって取れる。異世界という要素を取り入れれば決して不可能ではない。
同時に地球という惑星に異世界という要素を取り込んでしまうと、いわゆる均衡が崩れてしまう。他人なんぞ知ったことではないが、影響力が拡大すると身内まで巻き込んでしまう。

その辺の境目が気になったので、俺は日本に滞在している異世界連中とコンタクトを取った。

「先日起きた事件に関する報告は既に受け取っている。危険だと忠告したはずだが深入りしているようだな」
「えっ、何で知っているんだ」
「入国管理局を通じて、聖王教会と連携を取っているんだ。君が干渉すれば自動的にこちらへと伝わる。
緊急だったとはいえ、僕達を飛び越えて直接要望を出すのは控えてくれ。何事かと、こちらに問い合わせが来たんだぞ」
「あ、そうか……入国管理局は現地のお前らが管理しているんだな」

 ジュエルシード事件よりお世話になっている時空管理局、空局に所属しているクロノ執務官より苦情が入った。
俺は聖地へ直接申し出てセインを派遣してもらったが、緊急事態だと告げたせいで"聖王"の危機だと教会がパニックになったらしい。
本来であれば現地で調整を行っているクロノ達から連絡が来るはずなのに、俺が直接要望したせいで現場は何をしているのだと文句を言われたようだ。

教会の混乱は至極当然だったので、ひたすら頭を下げるしかない。

「君から直接確認を取ってもよかったのだが、アリサがすぐ知らせてくれた。あの子は本当に気が利いて助かる」
「それで事態を把握しているのか……あいつ、おれが後回しにしているからと気を回しやがったな」
「まあこうして直接会いに来てくれただけでも進歩というべきか。とりあえず、話を聞こう」

 かつて戦艦を指揮していたクロノ達は現在、最高評議会によって地球へ左遷されている。
ジュエルシード事件を発端とする一連の出来事。時空管理局の暗部にまで切り込んだことによって、彼らは管理外世界へ左遷されてしまった。
本来であれば何もできなくなるところだが、俺が聖地へ乗り込んで聖王教会と強い繋がりが出来た事で、現地と聖地との橋渡しとして重要な立場が確立されたのである。

最高評議会もこればかりは予想外だっただろうし、俺もまさかこういう関係にまでなるとは思わなかった。

「要人を狙った爆破テロに、超能力者を狙った武装テロか。ニ面作戦を展開したのは状況判断による決断と、状況把握による結果だろうな」
「状況判断は分かるけど、状況の把握? 状況を把握していた、というか把握できていると思いこんで行動に出たんだろう」
「確かに見通しは立てていたのだろうが、それでも未知数だったのには違いない。マフィアからすれば作戦の数々が失敗に終わっているのだからな。
思い切った行動に出ることで、こちら側の戦力や状況を把握するのも狙いだったのだろう」
「ニ面作戦まで展開しておいて、失敗も見越していたと?」

「主犯格は作戦の遂行を優先せず撤退したのだろう。君の存在を確認した上で、事件への関与も見られた。
一連の流れから君自身の意志や行動、そして君の背景にある戦力や組織力、そして政治的関与も把握している。

少なくとも僕が敵側の立場になって考えれば、この程度の分析はできる」

 ぐっ、俺が関与したことで事件は未然に防げたが、同時に事件へ関与したことで把握された事実もあるということか。
ディードと戦った剣士は明確に俺をサムライだと認識していたし、マフィア側も俺を捕まえる事こそ出来なくても存在や行動は確認できている。
下手に動かず隔離施設に隠れていれば手を拱いていたかもしれないが、事件を阻止することは出来なかったので難しいところだ。

マフィアはクリステラ親子だけではなく、俺自身もターゲットにしているからな。

「教会からは聖地への帰還を希望されている。天の国が危ういのであれば、聖地で保護する姿勢も見せてくれているぞ」
「マフィアも異世界まで乗り込めないから、これ以上無い安全策なんだろうけどな」

 それこそエルトリアまで逃げれば、絶対追ってこれないだろう。チャイニーズマフィアといえど、宇宙戦艦まで所有していない。
海外の凶悪なマフィアに狙われているという映画も真っ青な状況でありながら、俺が精神的に落ち着いていられるのは逃げ場があるからだ。
いざとなれば打つ手はある、頼みの綱がある。それだけで十分救われるし、落ち着いて対処できる。

問題なのはフィアッセが今落ち着いているのは、俺がその頼みの綱だからなんだよな。

「話した通り、俺の知人とその両親が狙われているからな。放置する訳にはいかないんだ」
「それもこの状況で変化するだろう」
「? どういうことだ」

「どういう事も何も、テロまで起きたのだぞ。民間人であろうとも、マフィアに狙われたのであれば政府は保護するだろう。
ましてお前の話では対象は高名な議員とそのご家族と言うじゃないか。テロまで起きたのであれば、それこそ国家が守る。

少なくとも民間人の君が出る幕ではなくなるだろうな」

 クロノの指摘は的を得ているし、俺自身自覚していることでもあった。
フィアッセは引き続き俺が護衛することを強く望んでいるだろうが、親父さんが認めるかどうかは別問題だ。
そもそも親父さんは海外の警備会社にまで依頼して警護させているし、エリスや警護チームも腕利きに見えた。

一年前まで山で木を拾って振り回していたチャンバラ男なんてお呼びではないだろう。

「今後の展開次第だが、逆のやり方も望める」
「逆……?」
「聖地で君の友人を保護することだ」
「えっ、でも異世界ミッドチルダに管理外世界の人間を連れて行くのはまずいんだろう」
「無論幾つかの手続きや承認、申請が必要だが……君に限っていればそもそも今更だ。
初めて聖地へ乗り込んだ時も、君の友人知人を連れて行ったじゃないか。あれだって本来は相当問題だったんだぞ」
「うっ、言われてみればそうだ」

 俺個人の事情しか頭になかったが、フィアッセを異世界へ逃がすという手段もあり得るのか。
どうしても異世界事情を考えてしまいがちになるので、俺個人としては思いもよらない発想だった。
安全に保護するという点で見れば、異世界ほど安全な場所はない。

絶対追ってこれないし、居場所さえ特定することも不可能だった。

「この一年の付き合いを通じて、君も自重することを覚えてくれたからな。
なのはは信頼していたが、正直最初の破天荒ぶりをみれば、管理局を含めた異世界事情が管理外世界に漏れる危険性も憂慮していた」
「おい、ジュエルシード事件が解決した時は俺を信頼するとか何とか言ってたじゃないか」
「君個人は信頼しているが、それはそれとして迂闊な行動や突拍子もない決断をすることだって多々あっただろう」
「い、いや、それはだな……」

 個人の人間性を信頼していても、個人の行動には目を尖らせるというある種の矛盾は人間であれば成立してしまう。
俺もクロノ達のことは信じているが、管理曲そのものは正義の組織だとは思っていない。
実際最高評議会なんて連中もいるわけだし、どんな人間でも組織でも裏表はあるということだ。

話を終えて、クロノは頷く。

「とにかく話は分かった。管理外世界とはいえ、僕達はこの地で赴任している以上守るべき責任と義務がある。
まして友人が危機に陥っているのであれば、尚の事手を貸さない理由はない。お互い連携して対応していこう」
「お前らが力を貸してくれるのはありがたい。
「今のところ状況は硬直しているようだが、僕達はひとまず犯人達の追跡と調査を行おう。
君は出来る限り動くべきではないが……出来ることはある」
「俺に出来ること?」

「被害者によりそう事だ。君とは接点が深いのだろう、今後どう動くのか伺ってみたほうがいい」

 フィアッセと親父さん、クリステラ親子が今後どう動くのか。
此度の事件を受けてどのような判断を下すのか。

場合によってはお役御免となるが……確認しておかなければいけないだろう。






































<続く>


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