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◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十三話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  嫌がる女を車に連れ込む――俺はこういう事が平気で出来る男である。
隔離施設へ帰ろうとするシルバーレイを問答無用で掴まえて、人目につかないように御剣いずみが運転する車に押し込んだ。
本人はあーだこーだ言っていたが、国際的事件に発展しそうなこの状況下で帰す訳にはいかない。こいつはキーマンなのだ。

いや、キーウーマンか。まあ、どっちでもいいけど。

「ちょっと良介さん、婦女暴行で訴えますよ!」
「ふふふ、クローン人間に日本の法律なんぞ適用されないのだよ」
「協力を求める相手に、よくそこまで平然と差別的発言を言えますね!?」

 車に連れ込まれたシルバーレイは怒るよりむしろ呆れた顔で指摘する。馬鹿め、俺は女であろうとも言葉を選ばないのだ。
戦闘機人や夜の一族との交流で分かったのだが、変に人間かどうか意識して話すと相手に伝わって不快な思いをさせてしまう。
人であるか否か、こだわるのはむしろ人間の方である。そういった人としての側面を彼女達が望まない。

シルバーレイもその部類に見える。こいつはHSG患者としての力を、恥じることなく堂々と使っているのだから。

「お前が同行してくれたのは、フィアッセと連絡が取れないこの状況に心当たりがあったからだろう」
「ちょっと良介さんに恩を売りたかっただけなのに、ハァ……まあ、そうですね。
急に連絡が取れなくなるのって通信に問題があるか、本人に何かあったかのどっちかでしょう」
「そりゃそうだ」

「アタシは組織にいたのでフィアッセ・クリステラの情報はある程度掴んでました。
彼女に危害が加えられていたらもっと大事になってる筈なので、連絡が取れない状況下にあるのだと予想しただけです。

となればマフィアの取る手段から推察すれば大体分かるでしょう。後はテレパシー使って状況を伺えば分かると思ったんです」

 ……そういえばこいつ、平然と裏切ってたから実感あんまりなかったけど、元マフィアの一員だったんだよな。
アジトに捕まっていた時のマフィア達の会話を伺った限りだと軽んじられていたように見えたが、フィアッセ達の情報はこいつにも共有されていたようだ。
裏切り者は何度でも裏切るという話はよく聞くし、夜の一族や警備側はシルバーレイを警戒しているようだが、俺は何故かこいつを信用して話せている。

俺も昔は根無し草だったので、ある程度気持ちを理解できるのかもしれない。

「そもそもテレパシーが使えるなんて初めて知ったんだが」
「なんで自分の力をいちいち全て話さないといけないんですか。良介さんだって隠し事の1つや2つあるでしょう」
「そうか、すまんな。テレパシーは相手が居ないと独りよがりだもんな」

「ぼっちが理由だからじゃないですよ!?」

 何故か熱弁してくるクローン女。悲しき女よ……哀れんでやると、肘鉄された。いってー!
美人なのに独りぼっちなんて悲しすぎるが、プンスカ怒っているのでこれ以上言うのはやめておく。

せっかく明らかとなったのだから、この女を丸裸にしてくれるわ。

「もうバレたんだから詳しく教えろ」
「内緒にしておいてくださいよ、もう……アタシのテレパシーは、こういう隔離された状況下で脳活動を同期発生できるんです。
いわゆる精神感応なんですね。電話などを使わなくても相手に自分のメッセージを送ったり、逆に相手の心の中にある考えや感情を読み取ることができる能力です」
「それでホテル内のフィアッセにメッセージを送って、反応を伺ったのか」
「そうです。彼女はHGS患者なので、テレパシーを知っていたのですね。最初こそ戸惑ってましたけど、アタシが良介さんの関係者だと知ってすぐ応じてくれました。
すごいですね、あの人。アタシがHSGだかという以前に、良介さんの名前を出したら一発でしたから」
「俺は水戸黄門の印籠か……」

 フィアッセのやつ、俺の名を騙る敵だと思わなかったのだろうか。相手がHGSのテレパシー能力者だから信じたのか分からないが。
シルバーレイの補足によると、精神感応は明瞭に行えるが距離に限界があるらしく、現地に行かないとやり取りできないらしい。
そう考えると妹さんの万物の”声”を聞く能力が改めて桁外れなのを思い知る。夜の一族の王女は今まで一切聞き逃しがなかったのだから。

携帯電話もアンテナのない場所はかかりづらいと言うし、距離に限界があるから欠陥とはならないが。

「能力はある程度分かった、これ以上詮索するのはやめておく。ホテル内部の状況を聞かせてくれ」
「先程言った通り、フィアッセ・クリステラとその家族は脅迫されています。
良介さん――は知るはずなさそうなので、運転席のお姉さんに聞きますね。

”スナッチ・アーティスト”という異名はご存じです?」
「! まさか、駐車場の爆破は”クレイジー・ボマー”が起こしたのですか!?」

「名前が変わってるんだけど!?」

 俺が思わずツッコむが、本人達は真剣そのものだった。ぐっ、どっちも全く知らない。
案の定、シルバーレイは仕方がないと言わんばかりの態度で教えてくれた。

こいつ、マウントを取る時は偉そうだな。

「”スナッチ・アーティスト”は組織に雇われた人物で、裏社会のプロフェッショナルです。
あいにくと本名まではしりませんが、爆発物の取り扱いについては超がつくほどの一流です。

非常に残忍な性格で、目的の為ならば人命など取るに足らない奴ですね」
「そんな奴が今、ホテルを襲っているのか!?」
「過去に数々の爆破テロを起こしている国際指名手配犯なので、直接の接触はしてないです。
爆破のパフォーマンスを見せつけて本人達をビビらせ、遠隔操作しているのでしょう。

爆弾さえ仕掛けていれば、別に本人が直接対峙する必要もないですしね」
「くそっ、捕まえればいいってものじゃないのか」

 いざ尋常に、という時代劇のやり方で悪事は裁けないようだ。現代社会で戦うのは難しい。
まずホテルの地下駐車場で爆弾を爆発させる。そうすれば警察が動いてホテルに邪魔者は入らないし、フィアッセ達への強烈なメッセージとなる。
この時点で何処かから電話なりで脅迫すれば、親父さんやエリス達も迂闊に動けなくなる。爆弾が他にもあると分かれば、外部からの介入も困難となるだろう。

籠城する必要もなく、このまま持久戦になれば議員達は追い込まれて――屈するしかない。

「スナッチ・アーティストと会ったことはありますが、フィアッセ・クリステラに執着している素振りがありましたね」
「フィアッセに? まさか脅迫状を本人に送ったのもそいつなのか」
「ハッキリしたことは分かりませんが、この仕事を引き受けた理由の1つにフィアッセ本人があるのは確かですね」
「確かに美人だが……あんな恋愛脳のどこがいいんだ」

 スタイル抜群の美人、気立てが良くて男に尽くしてくれる。一見すれば良さそうだけど、爆破のプロフェッショナルが小娘一人に執着なんぞするなよ。
しかし、厄介ではある。この状況を打開するには爆弾をどうにかするしかないが、当てずっぽうで探す事はできない。
下手にホテルをウロウロするわけにもいかないし、警察に見咎められたら目も当てられないしな。エリス達プロでも動けない状況なのだから。

一応、聞いてみる。

「シルバーレイさん、折り入ってお願いが」
「超能力で爆弾なんて探せない――正確に言えばないことはないですが力技になるし、被害0は無理です」
「うーむ、妹さんならどうにか出来ないかな」
「出来ます」
「そうだよな、流石に無理……えっ!?」

「チンクさんよりこういった自体に備えて工作訓練を受けています。爆弾の”声”を聞く練習も行っています」

 戦闘機人であるチンクの能力は爆破等を含めた工作。
かつてマリアージュのような人間爆破能力を持った敵と戦った経験を生かした訓練。

夜の一族の王女は、日々成長を遂げていた。






























<続く>


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2023/11/24(Fri) 00:59:37 [ No.1056 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十二話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  信頼を預けたディアーチェは意気揚々と飛び去っていった。魔導師が空を飛ぶのは珍しくないが、未確認飛行物体とかで騒がれたりしないだろうか。
ディアーチェに判断を預けた。自分の娘はとても喜んでいたが、俺が逆の立場であればどんな風に感じただろうか。
答えはすぐに出て、笑いがにじみ出る。たとえ他人であろうとも、判断を任されたら悪い気はしない。血は繋がっていないが、ディアーチェはそういう面でも俺に似ている。

妹さんが連絡を取ると、警護チーム長の御剣いずみが車を回してくれた。

「止められると思ったのですが」
「私は命令を受ける立場です。ご挨拶の時に貴方と話し、戦ってみて人となりは分かりました。
短慮だとは思いますが、軽率な行動には出ないでしょう」
「助かります」
「雇い主からの配慮でもありますので、礼は不要です」
「配慮……?」

「貴方に関する動向を事前にお聞きしています。こういった事態が起きた場合貴方がどういった行動に出るか、事前に説明を受けています。
この行動も想定内ですので、お気になさらずに」

 ――ロシアンマフィアの女と、アメリカ大富豪の娘の笑顔が脳裏に浮かぶ。貴方のことは全てお見通しです、と悪魔のように笑っていた。怖い。
ホテルとさざなみ寮が同時に襲われてることまで想定していた、という現敵的な見込みではなく、彼女達であればあらゆるパターンを想定して今後の未来を組み立てていたのだろう。
その枠組みの中で俺がどういった行動を取るのか、どういう考えに基づいて実行に移すのか、見透かしている。あえて良く言えば、理解してくれている。

なんだか自分が将棋の駒にでもなったような気分だが、強制されている訳ではないので考えるのはやめておこう。ハゲる。

「良介さん、テレビを見たんですね」
「シルバーレイか。留守は任せたぞ」
「一応協力すると言ったんですし、私を戦力に入れなくてもいいんですか」

「だってお前、人助けとか嫌だろう」
「当然じゃないですか、面倒くさい」

 試すように聞いてくるシルバーレイに当然のように返答すると、少し嬉しそうにフフンと笑う。憎たらしい奴である。
見透かしたように言ってやったのに、何故かシルバーレイは機嫌が良さそうだった。自分のことを理解してもらえたのがそんなに嬉しいのだろうか。
まあ一応組織を裏切らせた手前、少しくらい配慮はしてやっている。ホテルに間違いなくマフィアの手先がいる以上、シルバーレイを同行させるのはまずい。

シルバーレイの裏切りはほぼ確定事項であるが、組織側からすればあくまで疑惑である。襲撃が起きるまで一応シルバーレイは体裁は守っていたのだ、場合によっては言い逃れが出来なくはない。

「ここはバレていないとは思うが、フィリスとシェリーを守ってやってくれ。お前がいるだけでも安心してくれるだろうしな」
「あの二人からすれば、良介さんも危ない真似はしないほうがいいと思うんですけど」
「ひとまずホテルの様子を見に行くだけだ。俺だってわざわざ好き好んで危険な真似はしないさ」

「この前の囮作戦って、私がいないと超危険だったんですけどね」
「うっ……」

 ニヤニヤしながら指摘してくる、むかつく。こいつに助けられたことは一生恩に着せられそうだ、でかい貸しを作ってしまった。
フィリス似の綺麗な銀髪を短く切ってからというもの、オリジナルの雰囲気は木っ端微塵に消えてしまっている。
すっかりシルバーレイとしての個性な女の出来上がりだった。自動人形のローゼといい、名前を与えたくらいで覚醒しないでほしい。

自動人形のオプションであるファリンもライダー映画を見せたら正義に目覚めたし、女という生き物は自我が強いのだろうか。

「そもそもなんでわざわざ行くんですか、警察とかわんさか来ているっぽいですよ」
「フィアッセと電話していたんだが、トラブルがあったようだ。様子を見に行ってくる」
「その様子を見に行くという行動の範囲がすごく気になるんですけどね」

 チクチク言ってくるが、言葉の端々に俺の安否を気遣う口調は見える。こいつなりに心配してくれてはいるのだろう。
同時にこいつの言葉は、フィリスやシェリーからの俺への心配や不安でもある。本人達が出ないのは、自分も迷惑をかけたという負い目があるからだろう。
個性的ではあるが、何だかんだ海鳴にいる女達はどいつもこいつも根は優しくていい女ではある。

だからこそ俺も、こうして危険を承知で駆けつけてやりたくもなるのだ。

「ま、アタシは良介さん以外はどうでもいいんで気をつけて。というか、電話かけ直せばいいんじゃないですか」
「掛け直しても繋がらないんだよ。だから心配になってる」
「ふーん……」

 適当に手をひらひらさせて見送ろうとしていたシルバーレイだが、俺の話を聞いて何故か考え込む。
その間車を出してきた警護の御剣いずみは口出しせず、待ってくれている。
彼女からすれば俺がホテルへ行くのは望ましくないので、時間がかかっても問題はないのだ。

少し考えていたシルバーレイがその警護の女性を見やりつつ、口出ししてくる。

「気が変わりました、一緒に行ってあげます」
「は……? 人助けに興味ないんだろ」
「ありませんよ、そんなの。組織を裏切ったのだって良介さんとアタシの保身が理由ですし」
「俺も理由かよ。それで、なんで急に心変わりしたんだ」
「それは移動しながら話します。深入りする気はないんで、ちょっと留守にするくらいならいいですよね。
その間、ここを守ってくれる人を配置してもらえませんか」
「何なんだ、こいつ……どうしたものかな」

 シルバーレイの急な心変わりに戸惑いつつ御剣を見やると、彼女は静かに首肯してくれた。人員の再配置は問題ないらしい。
この隔離施設は俺を安全に護るための拠点であり、元々警備は万全に敷かれているとのことだった。
物理的な防衛だけではなく、電子的なセキュリティ体制も徹底しているようだ。

国防レベルとか言っていたが、流石に嘘だとは思いたい。いや、本当に。

「お前がマフィアに見つかったら見捨てるからな」
「その時は良介さんを余裕で売りますので仲良く地獄行きですよ、うふふ」
「くそっ、急所握ってやがるこの超能力女」

 銀髪美人の憎たらしい笑顔を向けられつつ、ホテルへ向かった。


 昼間とは打って変わって、ホテル周辺は騒然としていた。
地下駐車場で起きたとはいえ、爆破騒ぎとあれば人の目も引いてしまい、ニュースにもなって現場は騒がしくなっている。
御剣いずみ達警護チームがすぐ情報収集してくれたところ、警察関連は現場一帯を封鎖して、爆発が起きた経緯などを調べているらしい。

当たり前だが、一般人の俺が立ち入らせてくれるはずもなかった。流石に正面から頼みに行ったりはしなかったが。

「雇い主の権限であれば現場立会いも可能かもしれませんよ」
「国家権力がネジ曲がりそうなので、そういうのはちょっと」

 カレンやディアーナ達でも日本という島国の中でそこまで出来ない――とは思うのだが、頼んだらどういう結果になるのか怖い。
シルバーレイが起こした救急車の暴走だって大いに人の目を呼んだのに、クロノやレンが現場で仕切った瞬間撤収してしまったからな。
そこまで考えてクロノという時空管理局執務官の存在が浮かんだが、あいつも夜の一族とは違った権力を持っているので扱いが難しい。

さて、どうしたものか。

「良介さん、今も電話繋がらないですよね」
「ああ、一応掛けてみたが駄目だった」
「やっぱりそうですよね。ちょっと待ってくださいね――」

 同行してきたシルバーレイは俺と同じくマフィアの目があるので、周囲に悟られない位置取りでホテル周辺に潜んでいる。
呑気に堂々と野次馬する必要もないので、あくまで現場に来ているだけだ。この点は素人頼みではなく、警護のプロに徹底してもらっている。
判断も全て御剣いずみに頼んでおり、周辺の警戒も妹さんに任せている。迂闊な真似は自分一人ではなく、周囲を巻き込んでしまう。

俺が身の危険に立たされれば、匿っているフィリスやシェリーも危うくなる。素人の自己判断は絶対にしてはいけない。

「――やっぱり」
「やっぱり?」

「えーとですね、フィアッセ・クリステラとその御家族は今、脅迫を受けています。
ホテルの何処かに爆弾が設置されていて、脅迫に応じなければ爆破すると脅されているようですね。

連絡が取れないのも、そのせいかと」

「なんでそんなのが分かるんだ!?」
「広範囲じゃないですけど、テレパシー使えるんで聞き出しました。そんな事じゃないかと思いましたよ。
それじゃ、良介さんに恩を売って満足したんで帰りますね」
「待て待て待て!?」

 それだけ言って本当に帰ろうとしている女を、ヘッドロックしてとめる。
人間アンテナを黙って返す訳にはいかない。何としても受信してもらわなければ困る。

というかこいつの能力、便利すぎる。もしかしてマジで、裏切らせたのは大当たりだったのではないだろうか。





























<続く>


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2023/11/19(Sun) 01:21:29 [ No.1055 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十一話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ホテルで爆破騒ぎがあり、さざなみ寮でマフィアの襲撃が起きている。
自分自身落ち着かせるべくテレビの電源をつけるが、報道されているのはホテルの騒ぎのみ。さざなみ寮は襲撃されているが、まだ表面化はしていない。
状況1つで考えるのならホテルは人目を引く陽動で、さざなみ寮が本命と考えられる。最近日本のアジトを1つ潰されたマフィアは余力がなく、こちらの戦力を分断するべく行動に出た。

ただこれはあくまで素人の俺が考えた戦術的推測に過ぎない。フィアッセの電話が突然切れたことも気になる。

「剣士さん、警護チームの御剣さんより迂闊な行動は控えるように連絡が来ています」
「ぐっ、やはり夜の一族は俺の防衛第一か」

 先程フィアッセに言った俺の言葉そのまんまである。素人が首を突っ込むなということだ。
警護チームが対象者に苦言を述べてくる点からして、カレン達は今も別件で動いている最中なのだろう。事件への関与はしないらしい。
彼女たちの立場からすれば無理もない。フィアッセは見捨てるべきだと言われているし、さざなみ寮なんて彼女達からすれば完全に赤の他人だ。どうなろうと知ったことではない。

むしろマフィアが明らかに動いているこの事件に、俺が飛び込む方がまずい。だから何か起きたときのために、警護チームに俺の制止を厳命しているのだ。

「動くなと言われてもな……どうするか」

 何のために日本には警察という組織があるのかという話である。民間人が動かないとか解決しないなんて論外だ。
その道理は分かるのだが、さりとてもじっとしているというのも性に合わない。狙われているのは俺も同じで、明日は我が身なのである。
ふと笑いが込み上げてくる。今から約一年前、俺がこの海鳴に来て通り魔事件に巻き込まれた。あの時は何も考えず事件に関与して大怪我した。

あの頃は今より自由だったと思うし、俺らしく行動できていた。ただ一方で、赤の他人が俺のせいで巻き込まれてしまった――今と昔、どちらが正しいのか。

「素人が悩んでいても仕方がない。専門家に任せよう」
「むっ、偉大なる父が赤の他人に大事な判断を委ねるというのか」
「何を言っているんだ、他人じゃないだろう」
「えっ、いやしかし、今専門家に任せると――」

「だからお前が判断してくれ、ディアーチェ」
「! 我に……」
「お前になら任せられる、頼んだぞ」

 ディアーチェは立場上俺の子供ではあるが、本来は闇の書の中で眠っていた魔導師である。
素性は正直きちんと把握できていないし、聞いたこともないが、ディアーチェの才覚と器は稀有なものだ。
ヴィータ達守護騎士システムと同じく造られた存在であろうとも、蓄積された知識と知恵は本物だ。

そして何よりロード・ディアーチェという女の子を、俺は信じている。それだけで十分だった。

「そこまで我に期待してくれていたとは……すまぬ、父よ。少しでも貴方を疑った我を許してくれ!」
「緊急事態だ、右往左往してしまうのも仕方がない。意見を聞かせてくれ」
「うむ、この状況における最も有効な策は父が静観し、我々のみで動くべきであろう。
確かに人手は限られているが、我らは皆強者揃い。マフィアなどという悪漢に負けはしない」

 きわめて常識的判断であり、正しい見解である。
そもそも夜の一族、世界有数の実力者が揃う女傑達が動くなと言っているのだ。
論じる余地はないし、指摘できる点もない。正しいということはそれだけで鉄壁であり、関与する必要もない。

俺でも分かることを、ディアーチェが分からないことなんてない。

「どの口ぶりからすると、他にも意見はありそうだな」
「結局のところ、父が納得できるかどうかにある。父は情に流されないが、情には応える。
フィアッセ・クリステラという女性の護衛と、父の友人達の安否を前に大人しくも出来ないであろう。

ならば次策として父はホテルの方へ行くべきだ」
「どうしてホテルの方なんだ」

「護衛対象が救援を求めているということ、現時点でホテルは爆破騒ぎが起きた後だということだ。
官憲がひしめいており、状況は沈静化に向かっている。
父も考えている通りあのホテルはマフィアの目があり、父が向かうことで彼らの網に掛かる可能性もあるが――

そもそもの話、父は一度既にあのホテルへ来たという事実があるのだ。マフィアたちにすれば目新しい情報ではない」
「あっ――」

 俺はホテルへの誘い出しを懸念していたが、そもそも既にホテルから一度尾行されている。
そのホテルで騒ぎを起こせば誘い出しに遭う可能性を俺が考える――という点を、マフィア側が思いつかない筈がない。
爆破騒ぎまで起こして、あからさまな罠を仕掛ける価値は薄い。引っかかれば儲けものと考えてかもしれないが、それにしては爆破はやりすぎだ。

つまりこの騒ぎは陽動である可能性もあるが――本命はやはり、クリステラ親子か。

「幸いにも父は議員やボディガードとコンタクトは取れている。
軽率な行動だと咎められるかもしれないが、愛娘の救援と知れば無碍にも出来ないだろう。

警護チームのバックアップを受ければ、マフィア達にもおいそれと気取られまい。
父は月村すずかとホテルへ行き、現場の状況をまず確認すればよいのではないか」
「ディアーチェはどうするんだ」
「我はさざなみ寮ヘ向かい、父に代わって現場を仕切る。戦闘にまでなっているが、ディード達も善戦している。
寮の人間には父からの救援であることを告げ、問題とならないように対処するので任せておけ」
「なるほど、さすがはディアーチェだな。頼りになる」

「ふふん、シュテル達を代表して父の力となるべく地球へ直参したのだ。このくらいのこと造作もない」

 口ではそう言っているが、ディアーチェの頬は紅潮している。緊急事態だが気概に満ちていて頼もしい。
確かに俺は事件解決のことばかり頭にいっていたが、まずホテルへ行き状況を確認して行動するのは悪くない。
警護チームがサポートしてくれればマフィア達から迂闊に仕掛けられることもないだろうし、妹さんがいれば奇襲も防げる。

万が一不測の事態が起きれば、その時に行動すればいい。フィアッセから連絡を受けたとあれば、邪魔立てさえしなければ議員やエリスも話くらいはしてくれるだろう。

「よし、ディアーチェの判断に従って行動に出るぞ」
「うむ!」

 こうして俺達は、新たな戦場へと向かった。




























<続く>


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2023/11/11(Sat) 21:18:54 [ No.1054 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第五十話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 夜の一族の中で今連絡が取れるのは、フランスの貴公子カミーユ一人。カミーユは主導するタイプではないので、マフィア殲滅は支援のみに留めている。
言い方は悪いがこいつと話していても仕方がないので、情報交換だけして通信を終える。とりあえず現状は報告しておいたので、カレン達にも伝わるだろう。
ちなみにイギリスの妖精、ヴァイオラも留守だった。以前話していた通り、あいつは今クリステラソングスクールに通っていて、コンサートに向けて練習に励んでいる。

そういう意味ではフィアッセの事件に関わっていると言えるが、立ち位置としては微妙だった。少なくとも、マフィア殲滅の話には加わらないだろう。

「結局どうするのだ、父よ」
「しばらく静観だな。情報収集は頼む」
「ならばオットーが適任だな。我は街のパトロールをしながら、マンションも見張っておこう」

 聖地の王様であるディアーチェは自信ありげに自分の胸を叩いて、行動に出る。うちの子は行動派が多いな。
俺も考えるより足を動かすタイプなのだが、あいにくと俺も余裕で狙われている身の上である。囮作戦を実行した後で、呑気に出歩けるほど油断していない。
議員さんのホテルから出た直後に、尾行までされている。万が一にでもこの隔離施設がバレれば大事になってしまう。余計な真似はしない方がいい。

皆忙しそうなので、俺も――

「飯食って寝るか」

 ――働かざる者食うべからずという言葉もあるが、俺は潜入作戦という壮大な任務を終えたのだ。
少しくらい休んでもバチは当たらないのではないだろうか。いやむしろ、俺という人間こそ今は休むべきではないか。
この場にいない脳内のアリサが睨んでいるが、メイドに恐れる俺ではない。護衛任務に従事する妹さんと一緒に食事を取って、私室のベットで横になる。

この事件が始まって俺自身あまり戦っていないが、なんだか疲れている。

「護衛ってのはあんまり慣れないな……」

 剣士だからというわけではないが、基本的に俺は攻めるタイプなので専守防衛は向いていない。焦らされている感覚がもどかしい。
リーダーであればむしろそういう資質も重要なのだが、聖地での戦争やイリスの事件、エルトリアでの開拓でも自ら率先して動いていたので我慢勝負は苦手だった。
マフィアに怯えて震えているのではない、むしろ追い詰められているのは奴らだ。ただ主導しているのは夜の一族なので、俺はあくまで被害者に近い関係者に過ぎない。

上手く行っているのは事実なので下手に動かないほうがいいのだが――それでも疲労を感じている時点で、やはり俺は素人なのだろう。

「……エリス・マクガーレンか」

 考えていると眠くなってきたので、目を閉じる。
若くしてマクガーレンセキュリティ会社を継いだ、護衛のプロ。警護チームを率いる若き才女は、専守防衛こそ望むべきことなのだろう。
護衛対象を護ることが肝心なのであって、敵を倒すことを目的としていない。剣士とはまるで違う考え方を持って、人生を送っている。

剣士――御神美沙都師匠、あの人ならどうなんだろうか。


 ――耳が、鳴った。

目を開ける。どうやら思っていたより熟睡していたのか、私室の窓から外を見ると日が暮れていた。
起き上がって頭を振る。気のせいか、揺れた気がした。周りを見るが静かなものだった、別に隔離施設に何かあったわけではない。

地震か何かあったのか、俺が立ち上がると妹さんが飛び込んできた。

「剣士さん、大変です」
「どうした、妹さん」
「こちらをどうぞ、フィアッセさんから至急のお電話です」
「フィアッセから……?」

 あいつは今、親父さんと一緒にホテルで安全に滞在しているはずである。嫌な予感がしたが、同時にどっちの予感なのか判断に迷った。
何か起きて電話してきたのか、俺と話したくて電話したのか。本来であれば当然前者だが、あいつは今能天気なのでどっちなのかわからん。
後者ならばシカトしたいが、前者だと早く応答しなければならない。仕方なので、渋々電話に出ることにした。

いちいち迷うことでもないんだが、あいつは色んな意味で曲者だからな。

「どうした、フィアッセ。くだらん用事なら切るぞ」
『大変なの、リョウスケ!? ホテルが、ホテルが!』
「ホテルがなんだって?」

『ホテルの地下駐車場で爆破騒ぎがあったの』

 即座に電話を持ち直して、妹さんに目配せする――ディアーチェ達を全員連れてきてくれ、妹さんは頷いて部屋から飛び出した。
マジかよ、あいつら。考えとかないのか。狙いが見え透いていて、逆に戸惑うわ。この状況で動くとか頭がおかしいだろう。
フィリスとシェリーを奪還されて、アジトを潰されたんだから、せめて日本から撤退しろよ。勝てる見込みがあると、真剣に思っているのだろうか。

マフィア達が全くめげていなくてゲンナリする。本当にクリステラを狙っていやがるんだな。

「とりあえず落ち着け。お前達は無事なんだな」
『う、うん、パパと私はホテルの部屋にいたから大丈夫。ただ――』
「ただ?」

『パパの車――あ、いや、パパが日本で乗っていた車が爆破されたみたいなの』

 ――アジトを潰されて、脅迫をエスカレートさせたのか?
本人に危害を加えるのなら、乗車している時に爆破していたはずだ。わざわざ駐車している車を爆破させても器物損壊になるだけだ。
いや、マクガーレンセキュリティ会社が優秀だからこそ乗車時は狙えなかったのかもしれない。車だって、親父さんが乗る際は当然チェックするはずだからな。

いずれにしてもホテルの駐車場で爆破なんてどうかしている。

「まだテレビとか見てないんだが、けが人とかは出ているのか」
『ううん、駐車場にはその時誰もいなかったみたいだよ。今は警察とかで大騒ぎに鳴っているけど』
「分かった、とりあえず護衛のエリスの指示に従え。不安なのは分かるが、迂闊に動くなよ」
『分かった。リョウスケは何時頃来れそう?』
「は……?」

『ごめんね、こんな夜遅くに。でもリョウスケが来てくれるなら安心だね』

 何いってんだ、このアマ。犯人は事件現場に戻るという鉄の掟を知らんのか、こいつ。
不安になる気持ちは大いに分かるが、マフィアの目が光っているかもしれないのに、第一ターゲットの俺が飛び込んだから網に引っかかってしまう。

あ、むしろそれが狙いなのか。騒ぎを起こして俺を呼び寄せる罠だったりするのか。フィアッセの家族ではなく俺をターゲットにした作戦の可能性がある。

「民間人の俺がホテルに行ったとして、この状況で議員の親父さんがいる部屋に行けるはずがないだろう」
『大丈夫だよ、私が話を通すから!』
「お前のところの護衛がシャットアウトするぞ、きっと」
『うっ……』

 子供が友達の家に遊びに行く感覚ではない。平時でも気軽に会えないのに、今は有事なのだ。ノコノコ顔を出したら門前払いされるに決まっている。
エリスの判断は冷たく見えるが、実際は温情である。爆破騒ぎが起きているのだ、民間人を巻き込んではいけないという正義感がある。
俺だってそのくらい分かるから、フィアッセが不安であることを考慮してもそう言うしかない。さぞ心配だろうが、俺が出向いて事件が解決するわけではないのだ。

それこそプロに任せるべきだろう。

「心配なのはよく分かる。ホテルの状況が一旦落ち着いたら連絡を――というか今、話していて大丈夫なのか」
『う、うん、今エリスが現場に行って警察に協力を――きゃっ!』
「どうした、フィアッセ!?

『――』

 電話が切れた。おい、意味深に電話が切れるなよ、不安になるだろうが!
電話を置いて考える、ホテルに行くべきか。いや、こうして場を荒らして俺を誘き出すことが狙いかもしれない。
現場は警察がいて、エリス達セキュリティサービスも協力している。民間人が出向いても、現場への立会いも許されないだろう。

だったらディアーチェ達に偵察を――


「父よ、緊急事態だ!」
「うおっ、何だいきなり」

「父の懸念通りとなったぞ。悪党共の狙いとしていたさざなみ寮、父の知人がいる場所が襲われている。
ディードとオットーが先行して現場へ急行しており、戦闘を行っている」
「なんだと!?」

 二面作戦!? そんな余力がまだあるのか!
いきなり目まぐるしい展開となり、目覚めたばかりの頭が大パニックだった。

俺という人間は一人なんだぞ、どっちに向かえばいいんだ!?
































<続く>


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2023/11/03(Fri) 18:19:29 [ No.1053 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十九話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは フィリスやシェリーの救出作戦が完了し、ディアーチェ達と正式に合流した。
フィアッセも親父さんとしばらく一緒に行動することとなったので、マンションで護衛体制を取る必要はなくなったのだ。
同居人のアイリーンとかいう女もフィアッセが家族と一緒との連絡を受けて安心したのか、仕事へ行ったようだ。人目に付く所にいればひとまず安心だろう。

被害者のフィリス達が事情聴取を受けることになったので、その間に隔離施設へ集まることとなった。久しぶりの家族会議である。

「あんたのアホな作戦でも人命救助は出来たようね」
「何だと、失礼なやつだな。結果として無事に被害者を救出することが出来ただろう」
「その過程でだいぶみんな助けられたでしょう。オットーが居なかったら、怪我人が出てたかもしれないし」

 合流したアリサは早速チクリと言ってくる。傍に居たすずかが照れ隠しと心配の裏返しだとフォローしている、ほんとかよ。
フィリス達を救う囮作戦は身内にまでブーイングを食らった作戦だったが、結果として成功したのだから良しと思いたい。
思いっきり夜の一族を筆頭にしたコネ頼みではあったが、その点は勘弁していただきたい。俺なりに必死だったのだ。

一通り指摘した後で、アリサはちらりと見やる。

「それでその子があんたを手引きしてくれた組織側の人間ね」
「どうも、シルバーレイです。良介さんに誑かされて組織を裏切った悲劇の女です」
「アタシはアリサ。こいつの趣味でメイドにされた女よ」

「お前ら、ひどすぎる」

 シルバーレイはチャイニーズ・マフィアより製造されたクローン体であり、HGSによる超能力者。取り扱いが非常に厳密であった。
司法局へ大人しく引き渡せる存在ではなく、夜の一族の働きかけもあって一旦俺預かりとなっている。
勿論どこぞとしれぬ一個人に預けられる存在ではないので、本人希望と夜の一族による後見があって何とか成立していた。

御神美沙都が演じる”サムライ”という俺のネームバリューも効いたようだ。殲滅しまくっているからな、あの人。

「シルバーレイという名前に、お父様成分を感じます」
「貴女こそ、良介さんの遺伝子が伝わってきますよ」

「何なの、お前らの感覚」

 ディードとシルバーレイが何やら睨み合っている。どういう感覚を感じているんだ、こいつら。
別に嫌っている訳ではないようだが、犬が互いに吠えているような警戒を感じる。
ディードは救出作戦で積極的に剣を振るって活躍したようだ。殺人はしていないようだが、複雑な心境である。

自分の遺伝子を継いだ子がマフィア相手に戦っている。子供が一度は夢想するシーンであるので、本当に実現しているのが少し羨ましく思う。

「オットーもありがとうな、今回の作戦では随分助けられた」
「ボクも自分の能力が家族の為に役立てたのが嬉しいよ」

 オットーはディードと違って情熱的な子ではないが、感情がないのではない。
必要とする情緒が大人並みに少なく、日頃は表に出さないだけだ。双子のディードを立てているとも言える。
だからこそ今まであまり能力を使用する機会もなかったのだが、今回の作戦ではこの子の固有武装や能力が非常に適していて助けられた。

オットーも貢献できたとあって、子供ながらに嬉しそうだった。

「父よ。そのシルバーレイという人間を我らに紹介したのは、こちら側の事情に今度関わらせる為か」
「アタシもあんまり友達とか欲しくないんですけど、良介さんがどうしても紹介するというんで来たんです」
「正直今度どうするか悩んだんだけど、こいつはフィリスとは違って社会に貢献するタイプじゃなさそうだったからな」
「あんた、本人の前でズケズケ言うわね……」

「超能力で救急車飛ばす女だぞ」
「ごめん、社会不適合者だったわ」

「嫌な主従関係ですね、あんた達!?」

 シルバー例の今後については正直様々な意見が出た。
オリジナルのフィリスは家族のように思っているのか、保護を名乗り出て同居を望んだ。シェリーも超能力者でも生きられる社会復帰を提示してくれた。
チャイニーズマフィアの組織がまだ活動している以上、裏切り者は表には出られない。だからこそ組織の兵隊として生み出された彼女の扱いはさまざまだった。

その本人は俺を手伝うことを望んでいたので、各方面とも調整した結果俺の所へ来たのだ。

「良介さんの事情ってなにかあるんですか。まあこの場にいる人達、子供ばかりですけど只者ではなさそうですね」
「そうだな。例えばこのディードとオットー、正確には少し違うがお前に似た過程で製造された」
「! 良介さんを父と呼んでいるということは、もしかして良介さんの遺伝子を?」

「お前を信用して全てではないが、事情を打ち明けよう」

 社会復帰が厳しければ、保護という名の隔離が予想される。HGSはあくまで病気であり、医療のカテゴリーだからだ。
夜の一族がバックアップしてくれているからこうして何とか立場が保証されているが、最悪超能力者の成功例として政府機関に引き渡される危険性もあった。
人権にうるさい社会だが、言い換えるとマフィアという犯罪組織に関わった反社的立場には厳しい。

超能力を持った犯罪者は危険として、立場が保証されなくなる事もありえる。俺預かりとなったのであればこれ幸いと、彼女でも生きられる世界に誘った方がいい。

「戦闘機人に、魔導師……そんな人種がこの世にはいたんですか」
「地球には本来居ないけどな」
「自分が超能力者だからとイキってたのが、なんだか馬鹿らしくなってきましたよ……」
「俺もここ一年での話だから、全て受け入れられた訳じゃないぞ!?」

 この中では最初に出会ったアリサも元幽霊だからな。俺の仲間で普通の人間があんまり居ないのが悲しい。
なのは達は地球の人間なんだけど、あいつらはあいつらで一般人とは厳密には異なる事情があるからな。
そう考えるとフィリスのようなお人好しだってHGSだった訳だし、何の背景もない人間が全然いないな。

孤児である俺が霞んで見える。少なくとも胸を張れるほどの異端ではなくなっている。

「ということでこれからは協力してもらうことにした、頼んだぞ」
「はいはい、一応約束していた身元保証はしてくださったんですし、少しくらい手伝ってあげますよ」
「おう、マフィアの件が片付いたら惑星の開拓事業もあるからな」
「またなんか出てきた!? えっ、宇宙にも行っているんですか!?
ちょっ、どういう人生送っているんですかあなた」

 どういう人生送っているんだろう、俺……
他人から指摘されて、初めて愕然となってしまった。

また一人仲間が増えたけど、こいつも一般人じゃないしな。かなしい。
































<続く>


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2023/10/21(Sat) 21:04:52 [ No.1052 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十八話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  運転手さんは夜の一族が手配した人間とあって、何事にも口を挟まずに俺達を無事隔離施設へ運転してくれた。
尾行していた車を捕まえられたからといって安心せず、安全なルートを選んで車を走らせる。緊急事態を想定して、運転ルートは何通りも事前に用意しているらしい。
妹さんも警備チームと連携して安全確認をしてくれたが、その後新たに尾行がつく様子はなかった。おかげで何事もなく施設へ戻ることが出来た。

お疲れ様でした、と妹さんは護衛の立場で一礼する。

「剣士さん、フィアッセさんへの報告はどうしますか」
「うーん」

 フィアッセを親父さんに預けてホテルへ出た俺達の車に、尾行がついてきた。まず偶然ではないだろう、あり得ない。
フィアッセの親父さんが滞在するホテルに、マフィアが網を張っている。俺はその網にかかって尾行がついてしまったのだ。
この事からマフィアが親父さんを狙っているのは間違いなく、居場所まで突き止められている。少なくとも良い状況ではないのは確かだ。

ただ脅迫状の一件から既にクリステラ一家が狙われているのは明らかであり、だからこそ親父さんはセキュリティ会社に依頼してプロの護衛をつけている。

「情報共有はしておくべきだとは思うが、フィアッセが心配しそうだからな」
「別れを告げてホテルを出た途端尾行がついたからですね」
「俺の身が危ないとかいって、やっぱり一緒にいるとか言いそうだから怖い」

 親父さんの滞在先は極秘のはずだが、日本への来日自体はニュースにもなっていたからな。ホテルが突き止められていることは親父さんも分かっているだろう。
だからエリスというプロの護衛がついていた。彼女一人で遠い日本へ来るとは思えないので、個人ではなくセキュリティ会社として警備についているはずだ。
あいつが一緒だからといって別に事態が好転するわけでもなんでもないのだが、誘拐事件が起きた後なだけに俺が尾行されていることを知れば心配にもなるだろう。

少し考えて、妹さんに言付ける。

「ホテルにマフィアが網が張っていることを伝えてくれ。その情報だけでも親父さんやエリスには事情が伝わるだろう」
「なるほど、承知いたしました」

 フィアッセは言葉のまんま受け取るだろうけど、親父さん達は俺がホテルを出た直後の報告だから裏を読み解けるはずだ。
多分もう対策済みだとは思うが、連中の動きをお互いに把握して共有するのは悪いことではない。
知っているだろうから伝えないではなく、知っているだろうけど伝えていくという姿勢が大事だ。そういうところからも人間関係の進展を図れる。

他人との交流を進んでやりたい心情ではないが、事件性がある以上協力関係を築いておくに越したことはない。

「警備チームを通じて連絡されるように手配できました。それと報告が」
「うん……?」
「捕まえた運転手を尋問しましたが、何も知りませんでした。尾行するように金を掴ませたようです。
運転手は日本人でしたので、現地で雇われたのだと推測されます」

 車を捕まえるように言ったのは駄目元だったのだが、棚からぼた餅とまではいかなかったようだ。これで組織の尻尾を捕まえれば儲けものだったのだが。
案外、マフィア側も尾行は駄目元だったのかもしれない。足取りを追えるとは最初から思っておらず、思いがけず俺を見つけて追わせてみた。
尾行の手段は慣れた感じだったので組織の一員かもしれないと若干の期待はあったのだが、あっさり捕まった事からも実力者ではなかったようだ。

警備チームは引き続き尋問は行うようだが、拷問などは出来ない為、何か掴むのは難しいとのことだった。残念である。

「しかし尾行までされるとあれば、まだ当分人前においそれと顔は出せないな」
「剣士さんの日常は私達が守りますのでご心配なくお過ごしください」

 通常裏社会では有名なマフィアを怒らせたとあれば、気が気でない状況の筈だがこうして平然と過ごせている。
夜の一族や妹さん達がカバーしてくれているからであって、平和に見えた戦場なのである。たまに忘れそうになるが。
そして現在俺一人ではなく、フィアッセ達HGS患者が狙われている。マフィアの戦力図は確実に削られてはいるが、まだ俺達は脅かされている。

俺はいざとなればどうとでもなるが、フィアッセ達はなんとかしなければならない。

「おかえりなさい、良介さん。リスティは良介さんのおかげで安心したのか、さざなみ寮へ帰りました」
「そうか。こっちもフィアッセはしばらく親父さんの所へ帰ることになった」

 隔離施設へ戻ると、フィリスが出迎えてくれた。何故かいつもの白衣姿に着替えている。
シェリーは事情聴取と、夜の一族からの配慮でニューヨーク消防局や市警への連絡や手続きを行っているとのことだった。
社会的立場があると行方不明のままではいられない。その点立場のないシルバーレイはのんきなもので、今はクローン体の検査を受けているとのことだった。

フィリスと二人きりになるのは久しぶりだが、特に意識するようなことではない。

「本国への帰郷ではなさそうですね」
「それは何故かあいつが嫌がるから、俺が妥協案を出した」
「ふふふ、フィアッセも良介さんが相手だとわがままを言うんですね。
良介さんはおわかりかと思いますが、フィアッセは常に他人を立てる優しい女性で、高町桃子さんからも頼られる喫茶店のチーフなんです。

そんな彼女が良介さんには甘えられるというのは、こういう状況では本当に心強いと思います」

 すっかり恋愛ボケしているが、フィアッセは本来他人を気遣える人間だというのは分かっている。
考えてみれば出会った当初、高町家へ居候することになって初めて知り合ったが、浮浪者同然の俺にもあいつは優しく声をかけてくれた。
今にして思うと身元不明の怪しい男でしかないはずだが、あいつは桃子の好意に誘われて家に居座っていた俺に一度も不審な目を向けたりはしなかった。

お世辞にも愛想の良い人間ではなかった俺にも、色々気遣ってくれたんだとは思う。同年代の男が家にいるなんて嫌なはずなのに。

「組織がHGS患者を狙っているのであれば、これからもまだ脅かされるでしょう。良介さんには申し訳ないですが、どうかフィアッセの事を守ってあげて下さい」
「相変わらず他人――他人ではないにしろ、人のことを優先するんだな。HGS患者となればお前だって狙われる側だぞ」
「私は良介さんに助けていただいたので大丈夫です、ありがとうございました」

 何が大丈夫なのかさっぱり分からないが、フィリスは嬉しそうに俺を見て微笑んでいる。まだ狙われている最中だってのに。
しかし正直なところ気になってはいたのだが、マフィアに誘拐されたと言うのに、フィリスに不安や恐怖の影はない。
年頃の娘が身の危険にあったとあれば相当なショックだっただろうに、今のところフィリスは元気そうだった。空元気にも見えず、表情は穏やかだった。

杞憂に終わったのは何よりだが、それでも気になる。特に――

「そういえばお前、自分自身のクローンが造られた事も受け入れられているようだな」
「あの子の事を知った時は本当に驚きましたし、私自身の境遇と比較して心も痛めました。
良介さんにも怒られましたけど、あの子の事が心配でマフィアに攫われてしまったのは事実です」
「その点は本当にどうかと思うぞ」
「あはは、すいません。でも今のあの子、シルバーレイを見て素直に受け入れられました。
良介さんと知り合って個性を持ったあの子はもう私のクローンではなく、私の妹のような存在です。

クローンという事実はあれど、一個人として生きている。良介さんもそう思うでしょう」

 俺が唆したとはいえ、組織を裏切ると決めてからやりたい放題だったからなあいつ。何考えて生きてんだ。
これからも俺を手伝ってくれるそうだが、俺の支援とかなくても好きに生きていけるような気がする。個性が強すぎる。
案外シルバーレイの存在があって、フィリスも気を奮い立たせることが出来たのかもしれない。

組織の側だったとはいえ、自分のクローンに身近なものを感じられた。そういう存在こそが家族なのだろうか。

「それに落ち込んでなんていられません。私には良介さんを支える義務がありますから!」
「えっ、俺を支える……?」
「そうです。私達を守ってくれた良介さんに負担をかけてばかりではいられません。
私も良介さんの心に寄り添いたいと思っています」

 妙に目をキラキラさせて、フィリスは俺の手をギュッと握りしめる。握力なんぞないが、何故か力強く感じられた。
俺は色々な人達に支え守られているから、特に負担には感じていないが、カウンセラーであるフィリスの見方は違うらしい。

俺を献身的に支えるのだという意欲が、小柄な彼女から強い熱として感じられた。

「助けていただいた恩は一生をかけて返しますね、良介さん」
「うん……うん?」

 何故だろう。
医者として正しいことを言っているのに、なんか根本的な所で間違えている気がする。

優しい彼女の微笑みがちょっとだけ怖かった。

































<続く>


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2023/10/15(Sun) 02:18:32 [ No.1051 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十七話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 結局その後食事にまで誘われて、高級ホテルのルームサービスでご馳走となった。ルームサービスとはいえ、目ん玉飛び出る金額と食事内容だった。
食事の場でも英国議員である親父さんに、丁寧なお礼をされてしまった。謝礼と護衛による報酬を支払うとの申し出もあったが、丁重にお断りした。
学歴・学歴なしの俺では何年かかっても稼げない金額を提示されるのは目に見えているし、お金は大好きだけど恩返しという名目を失ってしまうので残念だが辞退した。

セキュリティサービスのエリスは俺が無報酬である事に良い顔はしなかった。それがプロとしての責任感なのだろう、俺は彼女の流儀を否定するつもりはなかった。

「迎えの車が来るので、私はそろそろお暇いたします。私が言うのも変な話ですが、お嬢さんの事をよろしくお願いいたします」
「これまで本当にありがとう、宮本君。いずれ事態が落ち着いたら。またゆっくり話をさせてくれ」
「うんうん、将来の事とか話さないとね」
「親父の前で何いってんだ、こいつ」

「ははは、エリス君彼を送ってあげてくれ。私はしばらく娘と話をする」
「承知いたしました」

 フィアッセも色々浮かれたことを行っているが、実際のところマフィアから脅迫を受けて不安だったと思う。ましてフィリスとシェリー、家族とも言える二人まで攫われたのだ。
成人した大人でもこれほどの苦境に立たされたら神経が参るだろう。だからこそ俺を頼ったのだし、ディアーチェ達の存在は救いとなった。
そして父親が迎えに来てくれたのだ。口では帰郷することを反対していたが、親父さんが来てくれた事自体は本当に嬉しかったに違いない。

だからこそ口ではあれこれ言いながらも、素直にホテルに残った。当初はどうなることかと思ったが、結果を見ればこれで良かった筈だ。

「――職務中で恐縮ですが」
「うん?」
「フィアッセの事、ありがとうございました」

 エレベーターのボタンを押しながら、俺を見ずにエリスは礼を述べる。俺は失礼だとは思わなかった。
プロである以上、護衛対象の娘の話題はするべきではない。けれどどうしても一言伝えたかったのだろう、その生真面目さが態度に出ている。
一瞬悩んだが、返答はしなかった。彼女自身望んでいないだろうし、気持ちは口にしなくてもお互いに伝わる。

やがてエレベーターが来て、俺達は乗り込んだ。立ち位置も自然と、俺が危害を加えられないようにしてくれている。

「フィアッセはアルバード議員と共に我々でお護りしますのでご安心下さい」
「お願いします」
「私はこのまま議員と共に行動するべきだと考えています」
「そうでしょうね」
「あくまで護衛としての立場からの意見ですが、議員にも進言するつもりです。
フィアッセも――きっと分かってくれるはずです。貴方との関係が途切れる訳でもないのですから」
「そもそもあいつの言っていることがおかしい」

 真面目な会話だったのにフィアッセのことになると一瞬口籠るエリスがちょっと可愛かった。あんなのが友達だなんて気の毒に。
フィアッセも恋愛ボケするほど頭の悪い奴ではないのだが、多分フィリスとシェリーが救出された事でテンションの浮き沈みが起きているのだろう。
あいつの中では何故か俺が救出したことになっているので、余計に美化されているに違いない。俺自身全く戦っていないのに。

対して物事を客観的に見れるエリスは、この救出劇が俺のヒーロー劇であるとは考えていない。

「誘拐事件の件は後日正式に聴取がされる筈です。その際ご協力をお願いする事になりますがご容赦を」
「ええ、事件解決に繋がるのであれば」
「ありがとうございます。貴方も身辺にはご注意を」

 エリスは最後少しだけ微笑んで、俺を車へと送ってくれた。迎えを段取りしてくれていた妹さんと一緒に車へと乗り込む。
エリス・マクガーレンか、女のボディガード。政治の世界に関わったことがあるので、プロの護衛は何人も見てきたが、俺と同世代っぽい彼女は決して見劣りしなかった。
生真面目な感じは苦労人を思わせず、若さによる意欲で満たされている。有名な英国議員である親父さんから信頼を受けているのも実力の証だろう。

彼女に任せればフィアッセ達は安全だというのは、俺も同感である。案外このまま任せれば、フィアッセの事は解決するかもしれない。

「剣士さん」
「どうした、妹さん」
「この車が尾けられています」

 ――後部座席から後ろを振り返る。車が確かにあるが一台ではなく、何台も後から続いている。
今走っているのは国道であり、平日の今は車だって混雑している。俺が乗る車の後ろに何台も続いているのは別に変な話ではない。

視認するのは無理だと判断した俺は、隣に座る妹さんを見やった。

「どの車だ」
「申し訳ありません、一台の車としか分かりません。距離を取り、感覚も一定ではありませんが追尾しています。
ホテルから追いかけてきているので間違いありません」

 なるほど、万物の声を聞ける妹さんの能力は見知らぬ人間を特定できない。
運転手の”声”は聞けても、完全な赤の他人であれば誰かまでは分からない。
少なくとも分かるのはホテルから俺達の車の後ろをついてきている点だ。ホテルからここまで直線ではない以上、偶然はありえない。

アジトを壊滅させたばかりなのに、もうマフィアたちは動き出しているようだ。

「このタイミングからすると、親父さんの方を探っていたのか」
「滞在先を把握していたのでしょう」

 探るような俺の台詞に、妹さんは一つ頷いた。舌打ちする、俺が迂闊にもフィアッセをホテルへ連れて行ってしまった。
隔離施設からホテルへ向かうに当たって尾行には気をつけていたが、肝心のホテルで張り込みされていたら打つ手はなかった。
こうなるくらいであればパソコンとか電話で話をすればよかったのだが、後の祭りである。とりあえずこのまま追われるのはまずい。

相手が車だと、返り討ちにしようがない。下手をすると交通事故になるので、騒ぎになってしまう。

「尾行を巻くのは難しいか」
「可能ですが、時間はかかります」

 カーレースによる持久戦になると妹さんは予測する。俺も同意見だった。
尾行されているのであればこのまま隔離施設へ帰るのはまずい。フィリスやシェリーをまた危険な目に合わせてしまう。
シルバーレイもあの施設にいるのだから、裏切りが確定になってしまう。組織が今シルバーレイの存在をどう見ているのか分からないが、俺達と一緒のところを見られるのはまずい。

カーレースは嫌いじゃないけど、車に乗ったままたらい回しになるのは嫌だな――よし。

「いっその事捕まえよう。妹さんは車の位置を特定出来ているんだよね」
「はい」

「警備チームに頼んで車の補足を行い、運転手を捕まえることはできるか」
「お任せ下さい、剣士さん」
「えっ」

 自分で言っておいてなんで驚いたのかというと、思いっきり駄目元で聞いたからである。
アクション映画じゃあるまいし、尾行する車を逆尾行して捕まえるなんて芸当は無理だと高を括っていた。
まず最初に無理なお願いを言ってから対策を練る流れで行くつもりだった。なのに、妹さんは大真面目に頷いている。

俺が唖然としている間に妹さんは運転手へ取り次ぎ、そのままどこぞへ連絡する――


「剣士さん」
「あ、ああ」
「車を確保したそうです。運転手も捕縛いたしました」
「えっ、今電話していたよね!?」
「はい、見事な判断でした剣士さん。即時即決で警備チームも動きやすかったと言っていました」
「俺の判断で捕まえたことになってる!?」

 俺は尾行を巻きたかっただけで、マフィアの手先まで捕まえろとまでは言っていないはずだ。そうだよね!?
むしろ俺の警備チームって尾行してくる車を確保することまでできるのか。警備チームの長である御剣って忍者だったよね、確か。

夜の一族は一体どんなスキルを持った奴らを雇ってくれたのだろうか、恐ろしくなった。
































<続く>


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2023/10/07(Sat) 19:25:57 [ No.1049 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十六話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  ――フィアッセの恋人問題の話題は続く。

「ご両親に認められるかどうかはともかく、本人に気に入られているのなら玉の輿に乗れるんじゃないですか」
「女ってそういう話が好きそうだな」

 シルバーレイは煎餅を齧りながら、俺にそう言ってくる。その煎餅、ひょっとして俺が買ってきたやつじゃないのか。
初恋の恭也にフラレてすぐ乗り換える女ではないことは知っている。
あの時は激しく落ち込んでいたし、もう恋なんてしないとまではいわないにしろ、恋愛には消極的になっていた。

それが今ではウキウキで俺を持ち上げてきている。

「まああいつの場合、養ってくれそうな包容力はあるな」
「日本だとヒモっていうんですよね」
「何でそんな事知っているんだ、クローンのくせに」
「あ、差別。女性蔑視ですよ、良介さん」
「男女差別とはまた違う気がするんだが」

 本人は怒った素振りを見せているが、顔は笑っている。
出会った当初はクローンであることに過敏な反応を見せていたが、今ではこのとおりである。
フィリス譲りの髪をバッサリ切ってからは、シルバーレイとしてのびのびとマイペースに生きている。

何故か世俗を意外とよく知っており、こうしてからかってくる。

「でもああいう女に衣食住を養ってもらうのって、怖くないか」
「あー、分かる。依存が強まりそうなタイプですね」
「自分がこの人を支えているのだという自負って、男からするとなんだか怖い」
「ちなみにアタシだと全然そんな事ないですよ。セフレとか余裕ですから」
「ビッチ感を出せばいいってもんじゃいぞ」

 恋愛問題は奥が深い。














<終>



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2023/09/30(Sat) 20:18:25 [ No.1048 ]
◇ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十六話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  フィリスとシェリーの誘拐事件が解決したのはつい先日の事だ。マスメディアにも公表されておらず、表沙汰にもなっていない。
各方面への調整は夜の一族が行ってくれているが、彼らはまず日本で起きた救出劇の後始末と俺達被害者の保護を行ってくれている。
被害者の関係者ならともかく、フィアッセのご両親という立ち位置ならば連絡がまだ届いていないのは無理もない。

フィアッセが何故か自慢げに胸を張っているので、俺は渋々事情を説明するしかなかった。俺から言うのはあまり良くないと思うので、後で夜の一族にも報告しておこう。

「――話を要約すると君が囮となって犯人達のアジトを特定。囚われていた彼女達は救出されて、君と共に安全な場所で保護されている。
フィアッセも君の要請により専門の警護チームによって現在護られているという認識でいいかね」
「信じられない……何故貴方のような民間人に、そんな危険な真似をさせたのか」

 長い話を聞いた親父さんは難しい顔をして腕を組み、護衛のエリスは拳を震わせて怒っている。ほれ見ろフィアッセ、普通はこういう顔をするんだよ。
映画とかなら見所あるアクションシーンかもしれないが、あんなのはフィクションである。脚本がある訳じゃあるまいし、現実は何が起こるか分からない。
素人が口出しして誘拐事件に関わって、いい顔なんてする筈がない。上手くいったから良いのではない、大人であれば上手くいかなかったらどうするんだと怒るものである。

潜入作戦だって基本的に俺の味方や支援をしてくれる夜の一族の姫君達だって、大反対していたのだ。俺が無理強いしたから、カレン達は渋々作戦を練った上で支援してくれたのだ。

「フィリスとシェリーの誘拐はこちらでも把握していました。
この時点で早急に貴方のお嬢さんの安全を確かめた上で、セキュリティ万全なマンションへ避難させました。

ご報告が遅くなり申し訳ありませんでしたが、状況が把握できていなかった以上迂闊な連絡ができませんでした」
「いや、仕方がない。君から我々に連絡を取る手段がなかったんだ。
フィアッセからであれば直接連絡できるが、取り乱している状態では余計な混乱を招くだけだっただろう。謝る必要はない」

「一つ確認させて下さい。先程貴方の説明にあった専門の警護チームというのに、その時点でガードを要請されていたのですね」
「ええ、その点は間違いありません。フィアッセにもマンションから出ないように言及し、彼女の同居人にも傍にいて貰いました」

「なるほど、適切な判断ですが――」
「何か?」

「貴方がご自分が素人だと言っていましたし、私も貴方が民間人という認識を持っています。
ただそれにしては現場の判断は出来ており、失礼ですが場馴れしている印象を受けました」

 マクガーレンセキュリティ会社のプロが首を傾げている。そりゃそうだろうね、こんな修羅場がここ一年何回もあったんだから。
修羅場を潜ったからプロになったというような過信はない。仲間や家族に助けられたから命を拾っただけで、物語の主人公でもない人間が簡単に強くなったりはしない。
ただ場馴れという意味では確かに、こういった事態にはもういい加減慣れている。失敗や挫折も数え切れないほどしたんだから、さすがに判断くらいは落ち着いて出来る。

強さや才能とはあんまり関係ない話なのだが、フィアッセは俺が称賛されたと思ったのか喜んでいる。アホだった。

「いずれにしても、二人が無事なのは良かった。フィアッセにとって何より大切な人達なんだ。
大事な娘の為に尽力を尽くしてくれた君には改めて礼を言わせてほしい」
「い、いえ、まあ私にとっても他人ではないので。それに囮を買って出ただけです」
「褒められたことではないですが、礼を受けるに値することですよ。金品も絡んでいない口約束を、貴方はフィアッセとの契約として果たしたのです。
口約束であれば、お礼という形で報酬を受け取るのは至極当然の事です。貴方も警護する側であれば、義務として受け取って下さい」
「……分かりました。では礼には及びませんとだけ」

 俺とは近い年代なのに、エリスはプロ意識の高い人間として忠言してくれる。説教じみているが、自分と同じ立場として扱ってくれているからこそだった。
プロだとは今でも思われていない。ただ素人だからと見下されてもいない。立ち位置と経験を正確に定めているからこその意見だった。
今まで随分多くの大人から叱られたり、怒られたりしたし、時には見下されたりもしたが、彼女からの言葉は素直に受け止められた。

それこそいい大人達に巡り会えたからこその経験なのだろう。エリスの言葉を説教だと憤慨せず、受け入れられた。

「なるほど、事情は理解できた。状況がこうまで変わっているのであれば、少し考え直さないといけないね」
「私とリョウスケの関係を認めてくれたの、パパ!?」

「……あの、フィアッセはいつからこんな感じに?」
「残念ですが、脅迫を受けているからではありません。
ここ最近こやつは日和っておりまして、俺がいれば安全と高を括っているんです」
「なるほど、せめて日々脅かされて精神が参っているのであってほしかったのですが」

 仮にも友人であるエリスにえらいことを言われているな、こいつ。俺も同じ感想を持っているから、溜息まで出ているけど。
親父さんもよく笑って流せていられるな。俺が親だったらこんな色ボケ娘、ビンタしているぞ。

苦労人であるフィアッセの親父さんが、自分なりの見解を述べる。

「安全のためにフィアッセを本国へ連れ帰るつもりだったが、二人が救出されて犯人達が追い詰められているのであれば話は別だ。
迂闊に本国へ送ろうとすれば、その動きを察知して狙ってくるかもしれない」
「フィアッセも二人が救出されたとはいえ、現状を顧みると余談を許さない状況なのは違いないでしょう。
このまま日本へ居て状況と情報を把握する時間がほしいところです」

「でしたら――しばらくフィアッセは、貴方とご一緒に行動されるというのはいかがでしょうか」
「えっ、リョウスケは一緒じゃないの!?」

「お前が日本に残りたいと言うから折衷案を出したんだろう! 
親父さんだって日本にしばらく滞在してくれているんだ、家族水入らずで思いやってやれ。

嫌なら本国へ帰ってもいいぞ、俺は喜んで送り出してやる」
「うう、はーい……」

 渋々といった感じではあるが、フィアッセも自分が無理を言っているのはよくわかっているのだろう。承諾してくれた。
親父さんも娘と一緒ということで快く応じてくれたし、感謝までされた。俺は厄介払いしただけなので礼はいらないです。
可哀想なのはエリスで、俺が心からの笑顔でフィアッセに手を振っている様子を見て困惑していた。どういう関係なのか、分かりかねているのだろう。

残念ながら俺はヒロイン的な立場の女であろうとも、容赦なく切り捨てられる男である。


これでうるさい奴がいなくなったし、しばらくはのんびり出来る――そう思っていた、この時までは。
2023/10/08(Sun) 20:22:21 [ No.1050 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十五話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  エリス・マクガーレンとの初対面を終えて、俺達はクリステラ議員に勧められるままに椅子に座って向き直った。
本人が自己紹介した通り、エリスはクリステラ議員の背後に直立している。護衛の立場を弁えており、同じ席に並べる真似はしない。
そういう意味ではフィアッセの護衛役を務めている俺は平然と座っていてどうかと思うが、肝心のエリスを含めて咎める者はいなかった。

当然というべきか、素人だと思われているのだろう。俺自身プロを自覚してはいないので、別段腹を立てたりはしなかった。

「改めてリョウスケ君、フィアッセの傍にいてくれてありがとう。
脅迫状で脅かされて心を痛めている娘に君が寄り添ってくれたおかげで、こうして元気に過ごせている」
「彼女や議員にはお世話になっているので、お力になれたのであれば良かったです」

 そんなつもりはないと謙遜するのは簡単だったが、自分の仕事を否定することになるので本心を飲み込んで語る。
フィアッセや親父さんがお礼を述べているのだから、自分の仕事に胸を張るべきだろう。謙遜も過ぎれば嫌味になる。
しかしながら親父さん、どれほどの事情を知っているのだろうか。この様子からすると、フィアッセから話は伝わっていそうではある。

まあ考えてみれば自分の娘を異国に放置したままにはしないだろう。議員という立場上母国を離れられない分、ヤキモキしたに違いない。

「フィアッセから出自も含めて、事情を聞かされているようだね」
「ええ、脅迫状の件や――」
「――彼女は大丈夫だ。今は私の護衛だが、今回の一件ではクリステラソングスクールの警備を担当してくれている。
フィアッセの事情についても精通しているので、この場は口を噤む必要はない」

 一瞬エリスに視線を向けて言葉を飲み込む俺を見て、親父さんは朗らかに話してくれる。エリスの姿勢は不動だった。
話は分かったが、首を捻った。護衛の立場は分かるが、警備という役割が気になったのだ。
護衛と警備は同じに見えるが、意味は全く違う。例えば俺の護衛は妹さんだが、警備は御剣 いづみという忍者が率いる警備チームがいる。

両方を兼任するのは個人では不可能なはずだ。俺の疑問は声に出さずとも伝わったのだろう、エリスが口添えをしてくれた。

「私はマクガーレンセキュリティ会社の人間だ。うちの会社がクリステラソングスクールの警備を担当している」
「"マクガーレン"セキュリティ?」
「エリス・マクガーレンは、若くしてマクガーレンセキュリティ会社を継いだ立派な人間だよ。私も安心して任せている」
「恐縮です」

 マジかよ、警備会社をこんな若い女性が継いでいるのか。流石は海外、終身雇用なんぞより実力や才能を優先している。
俺も一応異世界では部隊を率いているけど、俺には超優秀な女副隊長のオルティア・イーグレットに全部任せているからあまり自慢にならない。
そういえばオルティアも確かイーグレット警備会社の人間だったな。副官のあいつはたまに連絡を取っているけど、自分が全て切り盛りするので隊長は目の前の事件に集中してくださいと言ってくれている。

青い髪の麗人が頭に浮かんで、心の中で苦笑する。才能ある女性の進出は、男の俺にはやや肩身が狭い。

「脅迫状はフィアッセ本人にも届いたそうだね。本当ならこの時点で迎えに行くつもりだったんだけど」
「リョウスケが帰ってきてくれて、私を守ってくれていたの。だから大丈夫だったんだよ」
「お前が止めていたのかよ!?」

 娘に脅迫状が届いているのに、ご両親からリアクションがないので妙だと思っていたのだが、被害者本人が止めていてひっくり返りそうになった。
俺を無条件で信頼し過ぎだろう、こいつ。実際マフィア達からすれば俺本人ではなく、俺の背後にいる夜の一族に脅威を感じていたんだろうしな。
フィアッセもどんな風に伝えて両親を説得していたのかどうか知らないが、フィアッセ本人の意志を尊重してくれていたようだ。

結果論でしかないのだが、本人が無事だったからこその今なのだろう。

「脅迫状の文面は拝見いたしました。
『チャリティーコンサートを中止しろ。さもなくば、フィアッセ・クリステラの命を奪う』

立ち入ったことをきく形で申し訳ないのですが、お聞かせください。
娘さんの命で脅迫されていますが、実際のところチャリティーコンサートはどうするつもりなのですか」

 この話、フィアッセに聞いても俺が守ってくれるので大丈夫とか何とか言って埒が明かないので、両親に聞いてみたかった。
夜の一族の見解ではこのチャリティーコンサートは重大な意味と価値を持ち、マフィアたちにとっては不都合な状況になるとの事だった。
"クリステラ"の冠を掲げたチャリティー活動。クリステラソングスクール校長と英国の有力議員による活動であれば、開発途上国の教育機関そのものに鋭いメスが入れられる。

途上国を取り込んでいたマフィアの研究機関にも表立った活動はできなくなり、政治的な追求がされる危険性すらあり得るのだと。

「……込み入った事情もあるのであまり話せないのだが、相手が君となれば話は別だろう」
「よろしいのですか、議員。彼がご家族と親しいのであれば、尚の事巻き込むのは得策ではありません」
「あくまでも彼次第だ。
少なくとも個人的な事情を興味本位で突きこむ人間ではないよ。

リョウスケ君――私は妻の意思を尊重するつもりだ」

 ――つまり、少なくとも今は開催する意志があるということか。
開催しないのであれば、この場で理由を告げずにただ中止だと言えばいい。公式の場でも発表すればマフィア達にも伝わるだろう。
脅迫に屈した形にはなるが、家族の命には変えられないのも確かだ。テロに屈するべきではないというのは国際的常識だが、個人的感情となれば話は違ってくる。

しかし親父さんの返答は、お袋さんの意思を尊重するとのことだった。遠回しな言い方なのは深い事情があってこそ、他人に話せないのだろう。

「まだ確定ではないにしろ、脅迫者を刺激するのは間違いない。フィアッセ、無理強いはしたくはないが私達にとって君は宝だ。
何物にも代えがたいからこそ、失いたくないという気持ちが大きいのだと理解してほしい」
「……私にも大切な人がいるから、パパやママの気持ちは分かるつもりだよ。でも」
「こういう言い方はしたくないが、このままではリョウスケ君も危険に晒すことになるのだよ。それでもいいのかい?」
「……っ、それは、そうだけど……」

 フィアッセは父親本人の意見は尊重しながらも、若干納得いっていない様子だった。
護衛の俺が危険に晒されるのは不本意なのは重々承知しつつも、同時に俺ならなんとかなるのだという信頼もあるのだろう。
そういう気持ちそのものは嬉しいのだが、そもそも俺が無事なのは夜の一族が守ってくれているからであって、独力とは言い難い。

ディアーチェ達もいるので安心ではあるのだが、あいにくと地球人にあいつらの戦力を正しく伝えるのは難しかった。

「リョウスケ君はどう思うかね」
「ご両親の元へ帰ったほうがいいと思います」

「誤解しないでね、パパ。良介って天邪鬼だからこういう言い方しかできないの」
「別にこじらせた言い方ではなかったように思えるのだけれど……」

 フィアッセのあんまりないい草に、護衛のエリスが困った顔で首を傾げている。いいぞ、もっとこの恋愛バカに言ってやれ。
確かに俺はひねくれものだが、今のは直球ズバリストレートな言い方だったはずだ。どういう曲解をしろというのか。
エリスは比較的俺には厳しい立ち位置なのだが、フィアッセの方が酷いので逆説的に俺に同情的になっている。

なんだか今までにないくらい、面白い立ち位置になってしまったエリスだった。

「そもそも何故今になって君を迎えに来たのか理由はわかるはずだよ、フィアッセ」
「理由……?」
「セルフィ・アルバレット。ニューヨークにて消防特殊救助の業務についている彼女が行方不明になった」

 俺とフィアッセが顔を見合わせた。

「フィアッセ、マクガーレンセキュリティはこの件でチャイニーズ・マフィアの動きを独自で追っている。
日本での活動も把握しているんだ。フィリス・矢沢医師も行方不明になったようだね」
「エリス、あのね……」
「こうなってしまった以上、到底君をこのままには出来ない。勿論彼女達の行方は全力で捜索している。
心配する君の気持は痛いほど分かるが、この件は私達に任せて君は――」

「二人はリョウスケが救出してくれたよ」
「「……は?」」

 こら、俺が救出した訳じゃないだろう!? 俺も一緒に救出されたんだぞ!
深刻な表情をして説明するエリスと親父さんに、フィアッセは我が意を得たりと言わんばかりに胸を張って伝える。

俺は心の底から頭を抱えた。
































<続く>


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2023/09/23(Sat) 21:41:59 [ No.1047 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第四十四話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  フィアッセ・クリステラの両親とは一度海外で会っている。夜の一族の世界会議による覇権争いに関わった際、ドイツの地で話す機会があった。
母親はティオレ・クリステラ、歌手の養成学校であるクリステラ・ソングスクールの校長をしている。御年配の女性で、柔和な雰囲気のある人間で話しやすい印象だった。
父親はアルバート・クリステラ、イギリス上院議員で政界の著名人。この人に支援をお願いして、俺は覇権争いを何とか凌ぐことが出来た。

そういう意味ではフィアッセの縁によって救われた形となるので、少々複雑である。

『スラド前英首相ら来日、人権問題など対中政策で国際議連。

本、米国、欧州、オーストラリアなどの議員らで構成する列国議会連盟は、会合を開かれる。
英国のスラド前首相、オーストラリアのノリソ前首相らを招く。自治区の人権問題や台湾情勢を巡り意見を交わし、有志国で協調する姿勢を示された』

「この来日ニュースに乗っかって、クリステラの親父さんも日本へ来たのか」
「うん、会合には欧州議会や英国の議員も参加していたの。パパも議員で忙しいから、家族優先で行動するのはなかなか難しいから。
それでもきちんと段取りを付けて、私に会いに来てくれると連絡があった」

 英国の一議員が来日しても国際ニュースが大騒ぎすることは基本的にないのだが、アルバート・クリステラ上院議員は影響力のある人間なので世間が黙っていない。
娘可愛さで極秘に来日してもいいのだが、万が一にでも発覚すると人の目が厳しくなる。自分の影響力で家族を傷つけてしまう結果になりかねない。
ならば政務に合わせて、日本の私用を済ませればいい。家族が日本にいるのは事実なのだから、後ろめたいことはなにもないのだ。

その点を心得ている親父さんの基本姿勢には、素直に感心させられる。俺は自分勝手に動いてしまい、アリサ達に怒られるからな。

「今晩、海鳴のホテルでパパと会う約束があるの」
「へえ、家族水入らずで楽しんでね」
「絶対そういうと思ったけど、リョウスケも来てね」
「何でだよ、お前の問題なんだから家族で話し合ってこいよ。一応言っておくけど、俺のスタンスは親父さん寄りだからな」

 マフィアに脅迫されているフィアッセを助けたい気持ちはあるが、それが別に俺である必要性はない。
これまで夜の一族という権力者に頼れなかったのは、アイツラがフィアッセを見捨てるべきと主張したためだ。協力はしてもらっているが、あくまで俺への支援である。
だがアルバート・クリステラ議員は、フィアッセを守るべくわざわざ日本にまで繰り出している。娘思いの家族に対して、あんたの娘は俺が守るから帰れなんて言えるはずがなかった。

自分の恋人とか婚約者なら話は違ったかもしれないが、フィアッセは俺にとってあくまで居候先の身内である。赤の他人とは言わないが、自分の手で何もかも守りたいという気持ちはない。

「リョウスケ、甘いよ。私、こう見えて失恋して強くなったんだからね」
「ほほう、例えばどのような?」
「今から私がホテルまで行くでしょう」
「うむ」

「今のリョウスケは私の護衛だからついてくる必要があるんだよ!」
「そうか……そうかな?」

 い、いやまあ、フィアッセの言うことは正論――なのか? なんか根本的な所でおかしい気がするんだけど。
マフィアに狙われているのに出歩くなと注意しても、クリステラ議員の下であれば安全という理論は確かに成り立つ。
そもそも親元のほうが安全だから帰れと俺が言っているんだから、その安全性を否定する事はできない。親父さんのところは安全だから行く必要がないというのも、護衛として無責任である。

フィアッセの理論は確かにその通りなのだが、俺は感情的に納得できなくて首を傾げる。

「ほらほら、行くよ。迎えの車まで用意してくれているから」
「お前、この避難場所を親父さんに教えたのか」
「ううん、アリサが協力してくれたの。送迎ルートをお膳立てしてくれているから、ここの安全は確保されているよ」

 こいつ、生意気にもアリサに相談しやがったのか。あいつなら夜の一族とも協力して、フィアッセと避難場所の安全を確保してくれるだろう。
スケジューリングが完璧すぎたので、渋々俺も同行する。俺達は今も夜の一族が用意してくれた避難場所で生活しているので、車をルートに沿って乗り換えてホテルへ向かう形だ。
車の助手席に妹さんも乗車してくれているので、マフィア達の不意打ちも万全。オットーは潜入捜査の長丁場で休憩しているので、ディアーチェが飛空魔法で警戒してくれている。

程なくしてホテルへたどり着き、フロントから案内されて一室へと押される。

「フィアッセ、無事で良かった」
「心配かけてごめんなさい、パパ」

 アメリカンスタイルよろしく、父と子は抱きしめあった。なんだかんだどちらもお互いを思い、案じていたのがよく分かる。
ホテルは最高級スイートとまではいかないにしろ、英国議員が滞在するのに十分な気品を持っている。庶民が気軽に泊まれる部屋ではなかった。
国際化が進む海鳴に建築された、高級ホテル。単なる成金ではなく、セキュリティ面も含めて著名人が滞在するのに相応しい質を維持していた。

そうして親子の再会劇などという他人が見て面白いものではない光景から目をそらしていると――

「……」

 ホテルの部屋に、一人の女性がいた。
フィアッセと同年代に見える凛々しい女性、立ち振舞に隙がなく他者への距離感を適切に保っている。スーツ姿の身なりも見事に成立していた。
随分と若いが、腕が立つのは見て取れる。もしかするとクリステラ議員の護衛なのだろうか。権力ある政治家が雇うには若すぎる気がするが、それほどまでに信頼と実績があるのだろうか。

その女性は俺とは違い、再会劇を目の当たりにして目元を柔らかくしていたが――俺の視線に気付き、鋭い目を向ける。

「リョウスケ君も久しぶりだね。フィアッセの傍に付いていてくれて、ありがとう。君には随分と世話になったと、娘から聞いているよ」
「こちらこそ、ドイツではお世話になりました。色々ありましたが、クリステラ議員のお陰で解決して日本へ無事帰国出来ました」
「君の尽力あってこそだろう。それに娘がお世話になっているんだ、お互い様だよ」

 俺の返答にクリステラ議員は少し驚いた顔をして、笑いかけてくれた。一瞬眉をひそめたが、すぐに納得した。
彼に出会ったのは半年以上前の話、異国の地では何とか支援をもらおうと随分悪戦苦闘していた。
今でも十分とはいえないが、当時は礼儀知らずな人間だったので、失礼な態度をしてしまったかもしれない。

考えてみると半年前と言えばまだユーリ達がいなかったのだ、あれから子供が出来たと言ったらこの人はどんな顔をするのだろうか。

「"エリス"がパパの傍についてくれているんだね。久しぶりにあえて嬉しいよ」
「私も――と言いたいが、フィアッセは変わらないね。日本でいうお転婆のままだ」
「酷い、私だってもう大人になったんだよ――と、紹介するね。
エリス。話はパパから聞いているかもしれないけど、この人がリョウスケ。日本で出会った私の大切な人で、護衛をしてくれているの」

「この人が、貴女の……?」

 一瞬目を細めてクリステラ議員のご映画俺を睨む――が。
すぐに困惑した表情になる。

「あの、初対面で失礼だけど」
「ええ」
「ひょっとして――フィアッセと同じというか、その」

「――素人っぽい、と?」
「まあ、その、なんというか、本当に失礼で申し訳ないけど、職務経歴は」
「プロか、アマチュアかと言われれば――後者ですね、ええ」

 エリスと呼ばれる女性は、頭痛がするように額を押さえる。な、何か、すいません……
一応職務経験はあるんだけど、ミッドチルダで部隊を率いていたとか、惑星の開拓チームを指揮しているとか、主権をかけて政治家相手に議論したとか――

地球人に言えない経歴ばかりである。我ながらどうかと思う。


エリス・マクガーレン――彼女との初対面は印象が悪かったというか、むしろあまりの素人ぶりに頭を抱えられてしまった。
































<続く>


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2023/09/16(Sat) 13:38:08 [ No.1046 ]

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