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◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七十四話 投稿者:リョウ@管理人  引用する    New!
高町なのは  英国議員であるフィアッセの親父さんより招待を受けたのは、日本ならではの一流ホテルだった。
滞在先とは明言されていないので、来賓用のホテルなのかもしれない。アリサが国賓クラスと言っていた気がするが、あいつは大袈裟だからな。
明治期の創業以来、迎賓館と同様に海外からの要人を迎えつづけている、格式あるホテルであるらしい。

来日した要人を迎えるために建造されたといっても過言ではないとされる程で、信頼と安全に満たされた空間であった。

「大恩を受けたのにもかかわらず、時間を空けてしまってすまなかったね。
本当ならすぐにでも礼をしたかったのだが、安全を確立させるのに思いの外時間がかかってしまった」
「お立場を考えられれば当然でしょう。私への礼など、後回しにして下さってかまいませんでしたが」
「そういう訳にはいかないよ。私だけではなく、フィアッセまで何度も助けてくれたんだ。ずっと君にお礼を言いたいと申し出ていたんだよ」

 国際の場では百戦錬磨の議員が、英国紳士らしい振る舞いで握手を差し出してくる。剣士ではないその手は厚く、年季を感じさせた。
お礼だと言う議員のプリンセスは、頬を染めて手を振ってくる。公私混同という表現は違うかもしれないが、明らかに恩人としてだけの眼差しではなかった。
初対面では厳しい目を向けていた警備チーム長のエリスも、襟を正しているが少し穏やかな雰囲気を見せていた。信頼してくれたというよりも、護衛対象を立ててくれているのだろう。

御用達ホテルの来賓室で改めて顔合わせを行った。

「紹介します。事情ありまして私が養っている娘のディアーチェです」
「お初にお目にかかります。海外で父が世話になったとお聞きして、お目にかかれる日を楽しみにしておりました。
以後、よろしくお願いいたします」

 日本人の俺でもあまり言ったことがない丁寧な自己紹介で、ディアーチェが頭を下げる。十代の男が娘を養っているという事実にも、親父さんは奇異な目を向けなかった。
むしろ何度か会っているくせに、フィアッセが好機な視線を向けている。失礼な様子ではなく、俺の娘という事実が色眼鏡をかけているようだ。どういう心理が働いているんだ、こいつ。
警備のエリスは警戒するよりも、養女という言葉を聞いて複雑な表情を浮かべた。一瞬訝しげに感じたが、すぐに思い立った。

フィアッセの居候先である高町家も、血筋だけでは成り立っていない家庭だ。人間関係を考慮すれば、確かに複雑に感じているかもしれない。

「利発そうなお嬢さんだね。さぞ自慢なのだろう、会えて嬉しいよ」
「もう少し年相応に我儘であってもいいと思うのですが、胸を張りつつも悩ましいところではあります」
「ははは、フィアッセも同様だよ。聞き分けの良い子ではあるのだが、難しい年頃だね」

 えっ、そうか。おたくの娘さん、俺の前では余裕で我儘ぶっこいているぞ。もうちょっと自重してもいいのではないかとさえ思うほどだ。
俺個人としては大いに不満な批評ではあるが、考えてみればフィアッセの悪評は聞いたことがない。
実は護衛を行うにあたって、アリサ達に護衛対象のフィアッセに関する身辺調査をさせていた。結果は全く面白くない白であった。

悪評なんぞどこ吹く風で、ご近所でも評判の良い喫茶翠屋の女性チーフであった。不倫疑惑とか出れば面白かったが。

「後で詳しいお話があるかと思いますが、こちらがシルバーレイ。此度の事件で協力して貰った私の……まあそんな感じです」
「わざわざ言葉を濁す必要あります!? 知り合いとかでもいいじゃないですか!」
「よかった、恋人とかじゃないんだよね」
「貴方は貴方で、ぶっ飛びすぎでしょう!? この場で恋人を連れてくる訳ないじゃないですか!」

 俺の紹介に神経を尖らせ、フィアッセの安堵に仰け反った様子で猛抗議するシルバーレイ。元気な奴である。
オリジナルのフィリスに似た容姿ではあるが、個性が生まれて見た目も変わっている。とはいえクローンである事実は、HGSという情報を通じて伝わっているかもしれない。
秘匿となる情報は自分だけで所有していると自惚れていない。英国の有力議員である彼が何も有していないとは考えにくい。警備会社を代表するエリスもやり手みたいだしな。

だからこそ警戒されないように敢えて、こういった紹介をさせてもらった。俺の意図が伝わっているのか、議員さんも穏やかな顔で頷いている。

「立ち話も何だから、歓待の場を用意させてもらっている。大袈裟に出来なくて申し訳ないが、せめて私達の気持ちを受け取ってほしい」
「ありがたく頂戴いたします」

 お気遣いなくという日本人の謙虚さは、海外では萎縮させるらしい。特にフィアッセの親父さんは政治家、上辺だけの応酬なんてやり尽くしているだろう。
何より大袈裟に出来ないと言った時、親父さんが申し訳無さそうな顔をしたのが本心だろう。アリサや夜の一族も言っていた、本来であれば国際的価値のある行動であると。
事件を解決した立役者とか持て囃されても俺が困るだけだが、それは向こうも理解している。そして爆破事件こそ解決した雰囲気を世間的に見せているが、実際は主犯に逃げられている事も。

俺を持ち上げれば、壇上でマフィアに撃たれてしまう。安全を考慮するためにも、表舞台には出せない苦慮が見え隠れしていた。

「紹介に上がっていませんでしたが、同席なさらずともよいのですか」
「私は剣士さんの護衛を務める者です。よろしくお願いいたします」

 ご同輩ですという顔をしている月村すずかと、明らかに気品ある顔立ちをした少女と並ばれて困った顔をするエリス。ちょっと面白い組み合わせだった。
親父さんは予めフィアッセから話は聞いているのだろうが、変に指摘しないあたり流石である。妹さんって、場によっては扱いに悩む女の子だからな。
実力は申し分ないし、日ぞれキレないほど命を助けられているんだが、あいにくと人間というのはまず外見から判断する生き物である。

フィアッセとアルバート議員、ディアーチェと俺とシルバーレイで向かい合って、テーブルを囲む。

「フィアッセと君の馴れ初めを聞かせてもらえるかな」
「運命の出会いだったの」
「嘘つけ」

 とりあえず歓待の場で、和やかに宴席が始まった。








































<続く>


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2024/04/28(Sun) 20:13:42 [ No.1077 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七十三話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  最悪お礼だけで護衛の契約はそのまま終了になるかと思いきや、英国議員であるフィアッセの親父さんより招待を受けた。
呼び出されたのではなく、招待である。フィアッセが住んでいたマンションの隣室に護衛上の理由でそのまま住んでいたが、招待状が届いたのである。
俺達の所在は事前に知らせていたが、郵便ではなくわざわざ届けてくれたようだ。マフィアやマスコミに悟られないように、あらゆる配慮がされていると見ていい。

俺は今まで誰かの招待を受けられる身分ではなかったので、変に気を使ってしまう。

『すげえぞ、この招待状。宿泊の有無まで確認しているぞ、どういう事なんだ』
『事件が起きたホテル自体は移動しているんでしょうけど、ゲスト扱いね。宿泊費用については負担する旨まで記載されてある』
『泊まり込みで話し合うような事あったか』
『情報交換は勿論あるんでしょうけど、お礼を兼ねた歓待でしょう。
狙われている身だから表立ったお披露目は出来ないにせよ、家族を助けてくれたお礼をしたいんでしょうね』
『フィアッセの奴、大袈裟に武勇伝とか語っていないだろうな』
『爆破テロ事件を解決したんだから、全然大袈裟じゃないし』

 招待状なんぞどう手続きしていいのか分からんので、アリサに解釈も含めて対応してもらった。うちのメイドは呆れた様子で手続きしてくれた。
招待は俺だけではなく、家族も含めてくれている。秘書役も兼ねてアリサを誘ったが、断られた。交渉役を担ってくれているが、表舞台に立ちたくはないらしい。
単純に目立つのが嫌なのではなく、交渉役が女の子だと舐められるからだそうだ。ホスト役が味方だとしても、政治家である以上はきちんとしなければいけない。

電話やネットを通じて大人顔負けの交渉はしてくれているので、招待が秘密だからこそ成り立っているとも言える。見た目が愛らしい女の子というのは必ずしもいい事ばかりではない。

『家族全員誘われているけど、アリサは欠席。ディードは怪我人の上に修行中だしな』
『ディードは行かないのなら、オットーだって不参加でしょう。ディードが頑張っている分、あの子も張り切っているしね。
このマンションもターゲットにされている可能性もあるから、防衛に回ってもらうわ。フィアッセさんの同居人が狙われるかもしれないしね』
『分かった。じゃあディアーチェとシルバーレイを連れて行くか』

 隔離施設を出てフィアッセが不在のマンションに住んでいる理由はフィアッセからの連絡待ち以外に、同居人を守る狙いもある。
俺もまだ正式に挨拶した事はないのだが、フィアッセと同じ歌姫で芸能界でも活躍している人らしい。
結構月日が経過しているのにきちんと挨拶できていないのは主に、フィアッセの友人である点に尽きる。あんな恋愛脳な女と気が合うだけで恐ろしい。

芸能界入りしているだけあって美人らしいが、俺にとっては至極どうでもいい。ディアーチェがえらく可愛がられているらしく、王気質な我が子がタジタジだった。

『ユーリ達には些か申し訳ないが、父の娘として出席させてもらおう。安心してくれ父よ、恥をかかさぬように振る舞うぞ』
『ディアーチェはテーブルマナーとかも完璧なのよね。良介も見習いなさいよ――と言いたいけど、あんたもマナーは叩き込まれているのよね』
『海外でしばらく潜伏活動していた時に、カレン達もうるさく言われたからな』

 世界会議で要人テロ事件がおきた後、会議はしばらく中止となり夜の一族が手配した場所で潜伏生活をしていた。そこへカレン達が乗り込んできて、強引に同居しやがったのだ。
あの時は半ば和解していただけに交流を持っていたが、あの女共はどういう魂胆か、俺にあらゆるマナーを叩き込んできやがったのである。将来必要になるからとか言って。
俺が誰かに笑われるのが何より腹立たしいとかで、どこへ出ても恥ずかしくないようにされてしまった。飴と鞭の使い方が上手いアイツラに乗り気にさせられて、俺は学ばされてしまったのである。

前々からフィアッセやフィリス、シェリーとの文通から教えてもらっていたが、英語とかの言語まで勉強させられた。俺を国際的にしてどうするつもりなんだ、あの女共。

『なんでアタシも一緒にいかないといけないんです。フィアッセとかいう女も、議員の父親とも話したくないですし、何ならどうでもいいんですけど』
『お前が来ないとやばいだろう』
『えっ、どうしてですか』

『爆弾をどうやって解除したのかとか、さざなみ寮の襲撃をどのように回避したのか、説明ができないだろう。
セインの能力やディアーチェの魔法に助けられたとでも言えというのか。

君の超能力で全て解決だ!』

『悪事を押し付けられるのも嫌ですけど、善意を強要されるのはもっと嫌なんですけど!?』

 だって説明できないんだもん。爆弾をどうやって見つけたのか聞かれても、妹さんが"声"を聞いたからなんて言えるはずがない。
多分フィアッセから話を聞いて、親父さんも混乱しているだろう。爆弾を解除したのはセインが地面を潜航して捨ててきたなんて信じるはずがないしな。
だがフィアッセという存在からHGSを知り、超能力の存在は明らかとなっている。ならば能力面での解釈を提示すれば、納得するだろう。

シルバーレイというフィリスのクローン体は、絶好の説得材料となりえる。

『だったらその子達も超能力者で説明すればいいじゃないですか』
『HGSを特定する要素があるとまずいだろう。フィリスの病院だって研究しているらしいからな。
後から科学的分析とか診断で発覚するのはまずいし、ディアーチェ達を調べられたくはない』

 普段何の違和感もなく生活しているので意識していないが、そもそもディアーチェは魔導書から法術で生み出された存在だからな。病院とかも安易には連れていけない。
ディードやオットーも戦闘機人だ、見た目は女の子だが中身は常人と異なる。俺はその点については彼女達を普通の人間として扱っていないし、彼女達もそれで大いに納得している。
人間であることにあまりこだわりはなく、特殊な生まれや環境も含めて彼女達は誇りを持って生きている。変に気を使わず、人間であることを強要するつもりはなかった。

それはシルバーレイも同じである。

『いやーほんと、いい奴が仲間に入ったよな。あらゆる異世界要素も全部、超能力でしたで済むんだしな』
『世の中の不思議体験を全部アタシのせいにしないでくれません!?』
『謝礼とか貰えるかもしれないぞ、良かったな』
『ありがた迷惑という言葉はこの世にはあってですね……』

 シルバーレイはフィリスというオリジナルの存在を当初疎んでいたが、シルバーレイという自己に目覚めてからはあまり気にしなくなった。
HGSや超能力という存在も自分の要素であると受け入れて、彼女はシルバーレイとして成立している。俺はそれを尊重することにした。
クローンは倫理的にも、道徳的にも扱いが難しい存在だ。俺もあまり頭が良いとはいえないので、変に意識してギクシャクするより、彼女達をありのまま扱う事にした。

立派に生きているのだからそれでいいんじゃないかと思う。

『本人がいる場で話が出るかどうかは分からないが――フィアッセ本人が特殊なHGSで、暴走する危険性も話し合うかもしれない』
『HGSってまだ解明されていない面も多いですからね。そういう意味では政府よりマフィアの方が精通しているかもしれません。
道徳とか無視して実戦投入したりして、非人道的な実験もしてますしね』
『お前は見た感じ、平然としているな』
『むしろ良介さんは少し気を使ってほしいくらいなんですけど……アタシは自分で言うのもなんですが完成度の高い超能力者でしたので。
自分のような完成体を増やす必要があるからって、それなりには大事にされていたんですよ。代用がきかないですからね』
『……実際のところ、どうだ。完成体のお前が事故に目覚めて裏切ったんだから、組織も危険視してこれ以上量産するのは控えるとか』
『ありえなくはないですけど……それでも生産するのはやめないと思いますよ。アタシのデータを使って、失敗を生かした兵士を作るでしょうね』

『なるほど、その点も話し合う必要はあるな。個人で対処できない以上、国に動いて貰う必要がある』

 シルバーレイを連れて行くのは思っていた上に有用かもしれない。
お礼の場として用意された席ではあるが、犯人達が逃げていて膠着している現状を打破したいところではある。

事態を動かすには、国に動いてもらわなければならない。








































<続く>


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2024/04/20(Sat) 20:29:42 [ No.1076 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七十二話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  事件のその後については良いニュースと、悪いニュースがあった。
悪いニュースというのは結局、主犯が捕まらなかった事。政府と主要各国の協力による捜査が徹底して行われたが、犯人達は捕まらなかった。
国際指名手配されているだけあって、潜伏するのには長けているようだ。日本という異国でも活動できているのは、やはり潜伏先を幾つも確保していたからだろう。

この点については残念ではあるが、ある程度覚悟はできていた。捕まってくれれば解決だったのだが、そこまで上手く事は運べないだろう。

俺達が知る限りの犯人像は直接ではないにしろ、フィアッセの親父さんを通じて政府側には伝わっている。これまで以上に国際的観点からの締め上げが強くなるに違いない。
代わりと言っては何だが、マフィアに協力支援していた組織連中は軒並み吊るし上げられた。日本の所謂半グレやチンピラ、ヤクザ等で協力していた連中が潰されていった。
腰が重そうな警察がここまで率先して動いた背景を考えると怖いものがあるが、ひとまずチャイニーズマフィアの日本での活動が大幅に制限されてしまったのは明らかだろう。

良いニュースというのがこれに関係しており、マフィア達が表立って活動できなくなり、俺達がひとまず隠れ潜む必要がなくなった。

「明日から病院に戻れることになりました。改めて今回助けてくださってありがとうございました、良介さん」
「残念ながら私はまだアメリカには戻れないけど、当局と連絡が取れるようになったよ。
折角だから日本と交流を結んで活動範囲を広げるようにお達しがあったので、日本レスキュー協会の支部に行くことになったんだ」
「プレッシャーをかけるつもりはないけど、完全に安全となった訳じゃないから気を緩めないようにね。
政府からも人材を派遣してくれる手筈となったから、護衛は付くけどさ」

 リスティを通じて政府や警察から正式に、夜の一族から内々に承認を受けて、俺達は隔離施設を出ることになった。潜伏生活はひとまず終わった事となる。
隔離と聞くと窮屈に聞こえるかもしれないが、実際は施設内の設備類は充実しており、監獄どころかホテル並みの過ごしやすさだった。気を使ってくれたのかもしれないが、やり過ぎとも言える。
マフィアに誘拐されたフィリスやシェリーも心身喪失等の悪影響もなく、家族が襲われて切羽詰まっていたリスティも暗い影一つない。

皆、明るい顔をしている。それはそれでどうかと思うのだが、悲壮感がないのは救いか。

「これでめでたく全員出所だな。もう帰ってこないように」
「その設定でいうなら、君が一番重罪人なんだけど」

 刑務所からの出所であるようにからかうが、リスティが呆れた顔で指摘してきやがった。刑務所(隔離施設)にいるべきなのは俺だといいたいのだろう、生意気な。
隔離施設には出るが、フィリス達の行動はある程度制限される。その点は仕方ないし、本人達も安全を確保の上で職場復帰できるのであれば文句はなかった。
フィリスやシェリーは自分の仕事に誇りを持った職場人間なので、不自由も感じていないようだった。

まあプライベートで遊び歩くような女達ではないし、護衛する側からすればありがたい清貧さだろう。

「リスティの言う通りです、良介さんこそくれぐれも自重してくださいね。警護チームがついているとは伺っていますけど」
「所属さえ明らかにしてくれないんだよね、君のチーム。
プロ意識を考慮すれば当然かも知れないけど、実力もさることながら権限も高いみたいだから恐れ入るよ」

 フィリスは不安そうに、リスティは口こそ悪いが半ば心配そうにこちらを伺ってくれる。
御剣いづみが率いる警護チームは一連の事件による功績を受けて、日本における護衛活動での権限を高められた。夜の一族へのホットラインも結ばれ、各組織との連携も強めているらしい。
人員も追加されて警護だけではなく、諜報活動も行えるようになったと聞いている。

妹さんはニンジャチーム結成だと、何処か嬉しそうに語っていた。日頃読んでいる漫画の影響だろうか。

「だからって何でアタシまで良介さんと一緒に行動しないといけないんですか」
「良介さんと仲良くしないとだめですよ、シルバーレイ」
「お姉さん面はやめてもらえませんか、お人好しな先生。
別に良介さん本人が嫌というわけじゃないんですけど、この人平気でアタシをコキ使うんであんまり一緒に行動したくないんですよ」

 シルバーレイも事情聴取等を終えて、隔離施設から出ることになった。
元々チャイニーズマフィアで製造された超能力者の兵士だったのだが、組織を裏切って俺につき人命救助に協力した事で罪には問われなかった。
組織の情報も何の躊躇もなく全部バラしてくれたので、今回日本で行われた大粛清の主原因とも言える。

功労者だと敢えて言わなかったのは組織からすれば裏切りではあることと、何の躊躇もなく裏切りまくったので政府側さえ思わずドン引きした経緯があるからだ。

「あそこまで裏切りムーブを噛ましておいて、今更何言っているんだ」
「別に裏切ってませんよ、口止めされていなかっただけです。どうせ使い捨ての実験兵器だったんですし、悪びれる必要もありませんしね。
実際あいつら、アタシを置いてとっとと逃げましたし、いざ対面したらむしろこっちが罵ってやりますよ」
「こいつ、性格悪いな……」

 うふふとエゲツなく笑う女に、フィリス達も疲れた顔を見せる。彼女達も短くはあるが一緒に過ごした隔離生活で、すっかり家族意識が芽生えていた。
フィリスなんて自分の妹のように可愛がっていて、シルバー令から嫌な顔をされている。嫌いというより、フィリスという善人が苦手なのかもしれない。
今回の沙汰だって当初フィリスとの同居の話もあり、フィリス本人も大いに乗り気だったが、シルバーレイが絶対嫌だと断ってこっちについたのだ。

裏切ったとは言え自由行動は流石に許されないので、夜の一族からも俺が面倒見るように言われている。

「それにアタシ、知ってるんですよ」
「何が?」
「アタシの面倒を見る見返りとかで、色んなことから生活費を含めた費用や謝礼をガッツリ貰ってるでしょう」

「えっ、何のこと!?」
「えっ、知らなかったんです!?」

 寝耳に水だったので思わず聞き返すと、シルバーレイはしまったとばかりに口を手で覆う。おいコラ、どういうことだ。
犯人は一瞬で分かった。アリサを主導としたカレン達の仕業に違いない。あいつら、きっと厄介事を引き受けた見返りとして権限や支援を受けたに違いない。
俺に直接言わなかったのは面倒臭がるのと、支援を直接受けると俺が勝手な行動をすると高を括ったのだろう。なんて奴らだ。俺をそこまで信用していないのか、ガッデム。

金とか人材とかもらえるなら、俺だって剣士を揃えた現代版新選組とか作ってたのに! そうはさせじと勝手に判断しやがったな、アイツラ。

「こういう暇とか金があると余計なことしかしない奴だけど、しっかり面倒見てあげてくれ。シルバーレイは面倒見もいいし頼むよ」
「えー、アタシも面倒くさいんですけど……そもそも何するんですか、この人。前科とかあるんです?」

「木の棒振り回して道場破りとかしたよ、こいつ」
「鎖骨が折れているのに病院脱走するんですよ、困った人です」
「海外でマフィアと戦ったんだよね、君」

「ちょっと何してるんですか、良介さん!? ドン引きなんですけど!」
「全部バラすな!?」


 ――彼女達の家族であるフィアッセから後日、連絡を受けた。








































<続く>


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2024/04/13(Sat) 19:20:59 [ No.1075 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七十一話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは フィアッセとはその後連絡はなかった。爆破テロ事件なんて起きたのだから、気軽に外部と連絡なんて取れないだろうけどな。
別に恋愛脳なあいつと話せなくてもいいのだが、一応護衛としていた手前今後どうするかくらい聞いておきたかったが仕方ない。
全く状況が分からないかといえばそうでもなく、英国議員の親父さんはむしろメディアを飾っていると言っていい。

日本の田舎町で起きた国際テロ事件なだけに、連日報道が踊っている。

「こんなに派手に紙面を飾っていて大丈夫なのか」
「警備上の都合もあるでしょう。常に隠れて怯えるだけが警備じゃないわ。
特に今回はテロ事件、無闇に怯えた顔を見せているとテロに屈していると思われる。

堂々とした態度でメディアに顔を出す事で逆に襲撃させる機会を減らし、堂々とした姿勢を貫くことで逆にテロを萎縮させるのよ」

 テロ発生後、マンションで情報収集に勤しんでいるアリサが開設してくれた。元幽霊のくせに世情に詳しすぎる。
テロ事件の被害者という立場を最大限に活用する、英国議員としての矜持。その仕事ぶりはテロの恐怖を一払してしまう程に清々しい。
温厚や有情であるだけでは政治家は務まらないということか。被害者とは決して弱い立場というだけではないのだと思い知らされる気分だった。

優良にして優良である証なだけに、優秀であるがゆえに狙われるという皮肉さもあった。

「このままお役御免になってくれればある意味楽ではあるが」
「絶対そうはならないでしょう。大々的に喧伝こそされなくても、日本の"サムライ"に救われたののは事実なんだから。
事が落ち着いてくれば、向こうからコンタクトを取ってくれるわよ。

報酬も必ず発生するだろうから、その時は交渉してあげるわ」
「えっ、でもフィアッセとそんな約束はしていないぞ」
「お姫様ゴッコでは済まされないことを、あんたがしたの。
こういう時は普通ごっこ遊びを大人から諌められるものだけど、あんたは本気で助けてしまったから報酬が発生する仕事になったのよ。

拒否するのはあんたの勝手だけど、フィアッセさんの護衛を継続するのは難しくなるわ」

 護衛であればまだしも、ごっこ遊びを続けられるのは困るということである。
テロ事件を解決するほどの成果を、ごっこ遊びで出せる道理はない。本当に解決したのであれば、それは仕事となる。
本人達がどう思うが関係ない。仕事として成立させなければ、責任が生じなくなってしまう。

遊びで済まされる範囲を超えてしまえば、責任問題が必ず発生するからである。

「フィアッセの護衛を続けるには仕事として成り立たせなければならない。つまり、親からの承諾が必要ということか」
「そういう意味でも潮時と言えるかもしれないわね。脅迫では済まなくなっているんだから」

 クリステラが企画するチャリティーコンサートの注意を要求し、フィアッセに脅迫状が送られた事が発端だった。
この時点ではマフィアの関与が疑われていたが、実効性までは疑問の余地はあった。犯人像だって明白ではなかったのだ。
だからフィアッセの護衛そのものよりも、フィアッセの心中を察してケアする事が主目的とも言えた。実際あいつ、俺が引き受けてからは能天気だったしな。

だが実際にテロが発生し、フィリス達まで誘拐されたのであればもはや遊びでは済まされない。

「結局、あんたはどうするつもりなの?」
「フィアッセとご両親次第だが、俺やフィリス達も狙われているからな。
各方面にも協力を呼びかけて、今後に向けて対策を練っているところだ。

スッキリしないのは事実だからなんとかしたいところではあるんだが」
「言葉を濁しているのは、どうしたって支援頼みになるからよね。
ユーリ達を呼び寄せれば話は早いけど、そういう訳にもいかないしね」

 自分達の戦力を無理に動かせないのであれば、どうしたって夜の一族などの支援頼みとなる。俺一人ではごっこ遊びになるだけだからな。
しかしクロノ達とも話したが、支援頼みで行動してしまうと梯子を外された時が厄介だった。夜の一族はフィアッセ達への関与に反対しているからな。

こうしてアリサと話しているのは、彼女達の動向を確認するためだった。

「カーミラ様はかなりややこしい状況になってる」
「ややこしい?」
「今まではカーミラ様達の先進的な動きを見咎められてたでしょう。ところがここ最近日本で起きている事件の数々が、世界にまで波及して情勢が変わりつつあるの。
勢力図を拡大すべきという先進派と、勢力図を維持するべきという保守派に分かれているらしいわ」
「それって先代の連中が派閥争いしているということだよな。切り崩しできているんじゃないのか」
「確かに先代連中の中でカーミラ様達を指示する動きが出ているわ。だけど派閥争いになったせいで、先代と今代の戦いじゃ済まなくなっているの。
論議が論議を呼んで、世界会議を再び開催するべきなんて言われているらしいわね」
「げっ、俺はもう絶対行かないぞ……」

 ピンチはチャンスという言葉もあるが、チャンスではあるが時間がかかってしまうという難儀な問題が起きているらしい。
独裁主義的なカーミラはイライラしていて先代を切り捨てたいようだが、次の長としての立場から渋々采配を振るっているようだ。
 
無視していたら俺にも波及するかもしれないから、鬱陶しそうに今収めるべく出ていってくれているとの事だった。

「ディアーナ様とクリスチーナ様。ロシアン・マフィアは、チャイニーズマフィアと連携する動きを片っ端から潰していっているわ。
日本でおきた事件でチャイニーズマフィアも立場をなくしつつあるから、追い込みをかけているみたいね。

これを機にアジア圏にまで貿易路を拡大できるかもしれないそうよ」
「裏社会で通商契約が結ばれそうだな……」

 俺が何もしなくても、その内マフィアの連中も勝手に潰されるのではないだろうか。
こちらが事件解決に動いたからこそ連動したのだろうが、この動きからして俺の行動を逐一把握しているのは間違いない。
爆破テロなんてセインがいなければ解決できなかったのだが、何で俺が解決できるとふんで動けたのだろうか。

あのロシアンマフィアの姉妹、恐ろしすぎる。 

「カレン様は日本と連動して動かれているわよ。アメリカで誘拐されたセルフィさんの事を契機に、日本も対岸の火事では済まされなくなった。
アメリカと日本、要人誘拐に爆破テロ。どちらも犯人は同じなんだから、今後密接に連携していくでしょうね」
「なるほど、そういう意味では夜の一族も他人事では済まなくなってきている訳か」
「こちらにとっても都合が良い状況ではあるのよ。フィアッセさん達の事は反対していたけれど、一族の事情と連動しつつあるからね。
風向きが変わってきているんだから、この際協力させちゃいましょう」
「させちゃうってまさか……?」

「もうとっくに動いているわよ、当たり前でしょう。あたしはあんたのメイドなんだから」

 そう言って、アリサは鼻歌交じりに話を切り上げた。
こいつが一番恐ろしいかもしれない。








































<続く>


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2024/04/06(Sat) 18:58:18 [ No.1074 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第七十話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは クロノ執務官との連携を取り付けた後、リンディ提督達とも話し合う機会を得られた。
左遷されてから月日が経過しているだけあって、彼らの拠点もマンションの一室から事務所へと移転していた。
宇宙戦艦の超科学には到底及ばないが、事務所のシステムは最新設備を揃えていた。エイミィがコンピューター類に詳しいのか、海鳴の片田舎には似つかわしくない機器類が揃えられている。

宇宙という空を管理する空局と、ミッドチルダの地上を管理する地上本部。本局務めのエリート達は管理外世界へ左遷されても元気だった。

「クロノやアリサさんから話は聞いたわ。すぐにでも相談してくれればよかったのに」
「そうよ。あなたは本当に立派な人間だけど、この国では未成年の子供ででしょう。大人を頼ってくれていいのよ」
「そもそもテロ事件なんて起きているなんて、一大事じゃない。役所に頼りづらいのであれば、私達にまず相談しなさい」

 宇宙戦艦アースラを指揮する艦長リンディに、地上本部所属の捜査官であるナカジマとアルピーノ。エリート女史達に揃って詰め寄られてしまった。
警察に相談できないのであれば管理局に相談するべきという意見そのものは至極もっともで、反論する余地は一切なかった。
爆弾の解除も技能からセインを呼び寄せたが、案外リンディ達に頼れば解除する術はあったかもしれない。

爆弾解除の技術はなくても補える魔導文化と、ミッドチルダの超科学がある。一刻の猶予もない状況ではあったが、相談するくらいは出来た可能性は否定できない。

「裏社会で震撼されているマフィアと、国際手配されているテロリスト達。
それほど物騒な人達に狙われているのであれば、法的対応が必要よ。要人を一民間人が護衛する状況は到底許容されないわ。

これは決して貴方が頼りないと言っているのではないのよ」
「言いたいことが分からないほど、俺も子供ではないつもりだよ」

チャイニーズマフィアに命を脅かされている状況で、民間人が要人の家族を護衛する状態は望ましくない。クイントの指摘は適切だった。
シルバーレイの襲撃に始まる一連の事件がこれまで事無きを得たのは、夜の一族からの支援があってこそだった。
ミッドチルダ側からの支援要請も可能ではあるが、地球側の影響を考えると適切とはいえない。セイン一人呼ぶのに大騒ぎとなったしな。

支援ありきで護衛を続けていると、支援がなくなった瞬間孤立無援になってしまう。カレン達の厚意に甘えてばかりの状態もまずい。

「私達が積極的に力となってあげたいけれど……いけませんか?」

「――彼には多大な恩があるし、捜査協力も行ってくれている。力になってやりたいとは思う。
だが管理外世界へ派遣されている現状況で、管理局員としてテロ事件に介入するのは問題だ。

少なくとも地上本部への申請のみならず、空局への根回しも必要だろう」
「本部はともかくとして、空局へ貸しを作るのは、レジアス中将が許さないでしょうね……」

 クイントは恐る恐るといった様子で支援を訴えるが、同席していたゼスト隊長とアルピーノ捜査官は難色を示した。
クロノやリンディ達は空局に所属しているので根回し自体は出来るようだが、地上本部と空局との関係はあまり良好とはいえないようだ。
見返りなどあれば別だが、少なくとも管理外世界の民間人への支援という理由では、到底納得されないだろう。

大人の世界だと昔の俺なら嫌な顔をしただろうが、この一年余裕で浸かりまくったので最早共感すら覚えてしまう。

「くっ……こうなれば愛する息子の為、辞表覚悟で戦うしかないか」
「俺が同席している横で、そんな悲壮な覚悟されても困る」
「そうよ、クイント。我が子のためであれば、バレないようにきちんと返送して」
「ルーテシアになろうとするのはやめろ、ややこしいから」

 捜査官としては優秀な二人だが、大人としては駄目な二人だった。二人共まだ若いキャリアウーマンなので、母となるのは早い気もするが。
世界会議の時には舞台まで派遣してくれたが、あの事件はスカリエッティやクローン技術が関わっていたので捜査の一環で成立していた。
今回の場合はHGS患者などの特殊な要件こそあるが、時空管理局が操作する領域か問われると怪しい。

国際的テロ事件ではあるが、管理局から見れば管理外世界で起きている事件でしかないからな。

「皆さん、落ち着いてください。管理局員としての立場で考えるのではなく、あくまで地球の友人の為と考えて行動すればいいのです。
良介さんもきっと立場をわきまえた上で、こうして私達に相談しに来てくれたのでしょう」
「先日おきた爆破テロと、要人の襲撃事件。どちらも収まって、政府や警察もテロ殲滅に動いている。
状況としては一旦落ち着いているが、マフィアがこのまま諦めるとは思えない。下手をすると俺個人ではなく、この町の住民を標的に拡大する可能性も考えられる。

そうなった場合に備えて、今のうちに連携できればと思ったんだ」

 今回俺やフィアッセだけではなく、さざなみ寮そのものを襲った。主目的はリスティだが、寮の住民も平気で巻き込んでいただろう。
ディアーチェが前線で防衛してくれたので被害は出なかったが、そもそもディアーチェ本人は言わば異世界の魔導師だ。
日本に住んでいる一民間人では対応できなかった襲撃事件。個人がテロ組織に対抗するには、枠組みを超えて協力を求めなければならない。

その上で地球と異世界とのボーダーラインを死守しなければならず、こうして話し合う必要があった。

「管理外世界であっても、民間人に被害が出るような事は許容できない。まして君の友人知人であれば尚更だ。
この町に派遣されている以上、我々も他人事ではない。パトロールの強化や対テロ対策も含め、積極的に行うことは約束しよう」
「高町さんにはスバルやギンガ達もお世話になっているもの。私も力になるわ」
「良介の人間関係はある程度把握できているし、私も目を光らせておくわね」

「では私やクロノ、エイミィは情報収集を行いましょうか」

 捜査ではなく拠点の防衛やパトロールであれば、所属部署からの苦情も出ない。実際警備しているだけなので文句の言いようがないからだ。
個人としての協力だけではなく、プロの局員として出来る限りの行動に出てくれるのはありがたかった。
ゼスト隊長は言うまでもなく、クイントやアルピーノも一流の実力者だ。マフィアが相手でも負けないだろう、頼もしかった。

こうして地盤を固めた上で、肝心の要人たちの出方を伺うこととなった。






































<続く>


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2024/03/30(Sat) 20:31:55 [ No.1073 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十九話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 均衡というものに悩んでいる。
極端な話、手段を選ばなければフィアッセ達を守るべく過激な方法だって取れる。異世界という要素を取り入れれば決して不可能ではない。
同時に地球という惑星に異世界という要素を取り込んでしまうと、いわゆる均衡が崩れてしまう。他人なんぞ知ったことではないが、影響力が拡大すると身内まで巻き込んでしまう。

その辺の境目が気になったので、俺は日本に滞在している異世界連中とコンタクトを取った。

「先日起きた事件に関する報告は既に受け取っている。危険だと忠告したはずだが深入りしているようだな」
「えっ、何で知っているんだ」
「入国管理局を通じて、聖王教会と連携を取っているんだ。君が干渉すれば自動的にこちらへと伝わる。
緊急だったとはいえ、僕達を飛び越えて直接要望を出すのは控えてくれ。何事かと、こちらに問い合わせが来たんだぞ」
「あ、そうか……入国管理局は現地のお前らが管理しているんだな」

 ジュエルシード事件よりお世話になっている時空管理局、空局に所属しているクロノ執務官より苦情が入った。
俺は聖地へ直接申し出てセインを派遣してもらったが、緊急事態だと告げたせいで"聖王"の危機だと教会がパニックになったらしい。
本来であれば現地で調整を行っているクロノ達から連絡が来るはずなのに、俺が直接要望したせいで現場は何をしているのだと文句を言われたようだ。

教会の混乱は至極当然だったので、ひたすら頭を下げるしかない。

「君から直接確認を取ってもよかったのだが、アリサがすぐ知らせてくれた。あの子は本当に気が利いて助かる」
「それで事態を把握しているのか……あいつ、おれが後回しにしているからと気を回しやがったな」
「まあこうして直接会いに来てくれただけでも進歩というべきか。とりあえず、話を聞こう」

 かつて戦艦を指揮していたクロノ達は現在、最高評議会によって地球へ左遷されている。
ジュエルシード事件を発端とする一連の出来事。時空管理局の暗部にまで切り込んだことによって、彼らは管理外世界へ左遷されてしまった。
本来であれば何もできなくなるところだが、俺が聖地へ乗り込んで聖王教会と強い繋がりが出来た事で、現地と聖地との橋渡しとして重要な立場が確立されたのである。

最高評議会もこればかりは予想外だっただろうし、俺もまさかこういう関係にまでなるとは思わなかった。

「要人を狙った爆破テロに、超能力者を狙った武装テロか。ニ面作戦を展開したのは状況判断による決断と、状況把握による結果だろうな」
「状況判断は分かるけど、状況の把握? 状況を把握していた、というか把握できていると思いこんで行動に出たんだろう」
「確かに見通しは立てていたのだろうが、それでも未知数だったのには違いない。マフィアからすれば作戦の数々が失敗に終わっているのだからな。
思い切った行動に出ることで、こちら側の戦力や状況を把握するのも狙いだったのだろう」
「ニ面作戦まで展開しておいて、失敗も見越していたと?」

「主犯格は作戦の遂行を優先せず撤退したのだろう。君の存在を確認した上で、事件への関与も見られた。
一連の流れから君自身の意志や行動、そして君の背景にある戦力や組織力、そして政治的関与も把握している。

少なくとも僕が敵側の立場になって考えれば、この程度の分析はできる」

 ぐっ、俺が関与したことで事件は未然に防げたが、同時に事件へ関与したことで把握された事実もあるということか。
ディードと戦った剣士は明確に俺をサムライだと認識していたし、マフィア側も俺を捕まえる事こそ出来なくても存在や行動は確認できている。
下手に動かず隔離施設に隠れていれば手を拱いていたかもしれないが、事件を阻止することは出来なかったので難しいところだ。

マフィアはクリステラ親子だけではなく、俺自身もターゲットにしているからな。

「教会からは聖地への帰還を希望されている。天の国が危ういのであれば、聖地で保護する姿勢も見せてくれているぞ」
「マフィアも異世界まで乗り込めないから、これ以上無い安全策なんだろうけどな」

 それこそエルトリアまで逃げれば、絶対追ってこれないだろう。チャイニーズマフィアといえど、宇宙戦艦まで所有していない。
海外の凶悪なマフィアに狙われているという映画も真っ青な状況でありながら、俺が精神的に落ち着いていられるのは逃げ場があるからだ。
いざとなれば打つ手はある、頼みの綱がある。それだけで十分救われるし、落ち着いて対処できる。

問題なのはフィアッセが今落ち着いているのは、俺がその頼みの綱だからなんだよな。

「話した通り、俺の知人とその両親が狙われているからな。放置する訳にはいかないんだ」
「それもこの状況で変化するだろう」
「? どういうことだ」

「どういう事も何も、テロまで起きたのだぞ。民間人であろうとも、マフィアに狙われたのであれば政府は保護するだろう。
ましてお前の話では対象は高名な議員とそのご家族と言うじゃないか。テロまで起きたのであれば、それこそ国家が守る。

少なくとも民間人の君が出る幕ではなくなるだろうな」

 クロノの指摘は的を得ているし、俺自身自覚していることでもあった。
フィアッセは引き続き俺が護衛することを強く望んでいるだろうが、親父さんが認めるかどうかは別問題だ。
そもそも親父さんは海外の警備会社にまで依頼して警護させているし、エリスや警護チームも腕利きに見えた。

一年前まで山で木を拾って振り回していたチャンバラ男なんてお呼びではないだろう。

「今後の展開次第だが、逆のやり方も望める」
「逆……?」
「聖地で君の友人を保護することだ」
「えっ、でも異世界ミッドチルダに管理外世界の人間を連れて行くのはまずいんだろう」
「無論幾つかの手続きや承認、申請が必要だが……君に限っていればそもそも今更だ。
初めて聖地へ乗り込んだ時も、君の友人知人を連れて行ったじゃないか。あれだって本来は相当問題だったんだぞ」
「うっ、言われてみればそうだ」

 俺個人の事情しか頭になかったが、フィアッセを異世界へ逃がすという手段もあり得るのか。
どうしても異世界事情を考えてしまいがちになるので、俺個人としては思いもよらない発想だった。
安全に保護するという点で見れば、異世界ほど安全な場所はない。

絶対追ってこれないし、居場所さえ特定することも不可能だった。

「この一年の付き合いを通じて、君も自重することを覚えてくれたからな。
なのはは信頼していたが、正直最初の破天荒ぶりをみれば、管理局を含めた異世界事情が管理外世界に漏れる危険性も憂慮していた」
「おい、ジュエルシード事件が解決した時は俺を信頼するとか何とか言ってたじゃないか」
「君個人は信頼しているが、それはそれとして迂闊な行動や突拍子もない決断をすることだって多々あっただろう」
「い、いや、それはだな……」

 個人の人間性を信頼していても、個人の行動には目を尖らせるというある種の矛盾は人間であれば成立してしまう。
俺もクロノ達のことは信じているが、管理曲そのものは正義の組織だとは思っていない。
実際最高評議会なんて連中もいるわけだし、どんな人間でも組織でも裏表はあるということだ。

話を終えて、クロノは頷く。

「とにかく話は分かった。管理外世界とはいえ、僕達はこの地で赴任している以上守るべき責任と義務がある。
まして友人が危機に陥っているのであれば、尚の事手を貸さない理由はない。お互い連携して対応していこう」
「お前らが力を貸してくれるのはありがたい。
「今のところ状況は硬直しているようだが、僕達はひとまず犯人達の追跡と調査を行おう。
君は出来る限り動くべきではないが……出来ることはある」
「俺に出来ること?」

「被害者によりそう事だ。君とは接点が深いのだろう、今後どう動くのか伺ってみたほうがいい」

 フィアッセと親父さん、クリステラ親子が今後どう動くのか。
此度の事件を受けてどのような判断を下すのか。

場合によってはお役御免となるが……確認しておかなければいけないだろう。






































<続く>


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2024/03/23(Sat) 21:19:46 [ No.1072 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十八話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  夜の一族は各国で幅を利かせているが、日本の一族は世界会議後は半ば神聖視されている。
夜の王女こと月村すずかの存在が非常に大きく、新世代の長が決まった後でも彼女の存在は偶像化されていた。
調整役兼連絡役となった綺堂さくらも忙しくしており、綺堂家は月村家と並んで家柄の格も上がっている。年頃であるだけに縁談の話も多いらしい。

そつなくこなすキャリアウーマンの彼女だが、再会するなり疲れた顔を見せる。

「色々言いたいことがあるけれど……
まず後見人として言わせてもらえば、すずかが年に数回しか帰ってこないのはやめてもらえるかしら」
「そ、そうだった……すっかり家族同然で住まわせてしまっていた」

 妹さんが当たり前のように護衛として同居していたので気付かなかったが、月村すずかは他所様の子供である。
始祖のクローンとして製造された妹さんは月村忍の妹として引き取り、世界会議による主権を得て正式に日本の一族預かりとなった。
後見人は綺堂さくらとなっているので、保護責任も生じている。彼女から信頼を得て預かっているとはいえ、保護者を蔑ろにしていい理由にはならない。

平謝りしながら、妹さんの近況を報告する。ちなみに本人は、久しぶりに再開した家族と向き合っている。

「すずか、侍君の女性関係になにか進展とか変化はない?」
「プライバシーの侵害だよ、お姉ちゃん」
「侍君に侵害されるようなプライバシーなんて無いも当然でしょう」
「うーん」

「妹さんが悩んでる!?」

 あるよ!? 俺にだってプライバシーとかあるよ!? 誰も考慮しないけどさ!
フィアッセの護衛という立場であることをさておいても、日頃から誰かと行動しているせいでプライベートな時間なんて無いと言っていい。
子供を持つ親であれば当然かも知れないが、十代の健全な男としては悩ましきところだった。少年時代、誰にだって一人の時間を求める事がある。

俺はもう半ば諦めつつあるが、それでも確固として主張しておきたいところだった。

「日本に帰ってきていたのは知っていたけれど、それでも帰宅どころか義務的な提示連絡のみだから」
「うーん、うちの妹さんはハードボイルドだね……」
「流石に悪かった。きちんとした連絡は俺からもするように心がける」

 ちなみに同居している間に発生する妹さんの生活費等は、うちから出している。請求等は一切していない。
綺堂さくらは勿論として夜の一族から申し出はあったが、あくまで妹さんは護衛として雇っているので賃金で自立できているのだ。
見た目こそ子供ではあるが、妹さんにはこの一年数え切れないほど救われている。この子がいなければ、あらゆる局面で乗り越えられなかっただろう。

本当ならボーナスとかも出したいところだが、妹さん本人に固辞されている。労働条件の交渉はアリサに任せているが、難航しているようだ。

「大変な事件に遭遇していると聞いたよ。ファリンとか呼んだらわたしの出番だとすっ飛んでくるんじゃないの」
「出動要請はしない方向で」
「あの子なら、いつでも出撃できるのに」

 そんな妹さんを補佐する立場なのが、自動人形のオプションことファリン。特撮映画のヒーローに憧れるメイド少女である。属性が多すぎる。
オプションとはいえ自動人形なので戦闘能力は高いが、ヒーロー映画で目覚めた自我は厄介で、正義ゆえの暴走に走りやすい。
だからこうして要請という形で制御しており、日頃は待機させているのである。行動力はなかなかのものだが、デリケートなテロ事件には向いていない。

そんな彼女の姉役である女性メイド、ノエルはその点弁えているが――

「忍は何とか学業を修められそうだから、卒業したらノエルも貴方の元へ行くことになりそうね」
「ぐっ、ノエルは歓迎なのだが……ちなみに留年の危機とかは」
「残念ながら卒業は確定よ」
「残念だとハッキリ言ってるよね、さくら!?」
「良介が忍の雇い主となるので、立場は上になるのよ」
「しまった、そうなるんだ!?」

 綺堂の遠慮なき発言に忍が物申すが、社会的立場と階級を告げられて忍はギョッとした顔をする。 
すったもんだあったが、結局月村忍は就職の道を選んだ。綺堂さくらより大学進学の道も進められたが、学業の必要はないと説得したらしい。
別に庇い立てする気はないが、この一年も休学とか繰り返していたので、学校へ通う意味はなくなっていたのかもしれない。

世間的にあまり喜ばしいことではないかもしれないが、本人が持つ知識と技術力は一応社会に通じるので、路頭に迷うことはない。

「シュテルがいるから大丈夫だと思うけど、二人は元気にしているの?」
「エルトリアの開拓に貢献してくれているよ。
なんかCW社の技術開発部と連携して、本人達のメンテナンスがてら改造とかしているみたいなんだが」
「お、そろそろ実用化の段階か。早く卒業して私も合流しないと」
「うちの会社で何しているんだ、お前ら!?」

 ノエルとファリンはエルトリア組で、今も惑星の発展に尽力してくれている。
悪辣な環境でも労働可能な彼女達は自らのスペックを高めつつ、開拓に励んでくれている。
あくまで本人たちの希望であることを大前提として、エルトリアの環境を利用した改造実験を行っているようだ。

自動人形はロストテクノロジーで製造された代物で高い技術はあるが、それでも古い。ミッドチルダやエルトリアの技術を取り込んで今、彼女達は生まれ変わろうとしている。


「とりあえず侍君達が元気なのは分かって安心したところで、忍ちゃんからお願いがあるの」
「お前は来なくていいからな」
「卒業式まで絶対良介と行動してはダメよ」
「ちょっと、予防線を張らないでくれるかな!?」

 魂胆見え見えである。さくらと互いに頷き合って、きっちり牽制しておいた。
物見遊山で来られても迷惑だし、だからといって真剣に来られてもやってもらうことは限られている。ファリンとノエルという従者もいないしな。
今回の事件で、こいつが持っている技術を活かせる場面は少ない。コンピューター技術は活かせるかもしれないが、現状特には必要としていない。

忍は唇を尖らせつつ、申し出る。

「合流はとりあえず諦めるとして、お願い事はちゃんとあるよ」

 忍はそう言って、ニヤリと笑う。
この時点で嫌な予感がした。






































<続く>


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2024/03/16(Sat) 15:47:00 [ No.1071 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十七話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 協力者で思い浮かぶのは神咲那美と久遠だが、あいにくとあいつらは今回被害者側だったりする。
襲撃こそディアーチェやディード達が阻止したが、さざなみ寮がマフィア達に襲われたという事実そのものは覆せない。
リスティ・槇原が寮の管理人さんを通じて今、寮の住民のカンフルケアに励んでいるらしい。癒やしの力を持つ那美も協力してくれているようだ。

退魔師としては半人前でも、あいつは聖地へ同行して白旗を立ち上げた協力者でもある。戦乱を駆け抜けた経験値は伊達ではない。

「寮の住民にもツテはあるらしく、警備を強化するそうです。関連各所への根回しも進めているとのことですね」
「何者なんだ、あの住民達は……」

 御剣いづみも気を使い、寮の様子を確認してくれたようだ。本人達のコネもあるようであれば、こちらが変に干渉する必要もなさそうだ。
HGS患者が引き続き狙われるのは間違いないが、リスティ本人が強力な超能力者なので護身は行える。その分、今さざなみ寮が一致団結して警護面を強めているのだろう。
ということで那美達は自分達のことで精一杯なので、協力は見込めない。こちらも巻き込むのは気が引けるので、連絡を取って安全確認する程度に留めておくのが良さそうだ。

高町家への説明は済んだので――次の関係者に当たる。


「おかえり良介。いきなり会いたいと連絡してきたからびっくりしたわ」
「ふふ、驚かせてやろうと思ったのだ。家族らしいだろう」
「忍さんに会いたくなかったんやろ」
「ちっ、バレたか」

 以前高町の家を出た時に世話になった、八神はやてを尋ねる。八神家へ直接行けば早かったかもしれないが、今回待ち合わせをした。
以前世話になっていた八神の家は色々あって、住めなくなってしまっていた。当時彼女達は、月村家にお世話になっていたのだ。あいつの家はムダに広いからな。
その縁で月村家と八神家は親しくなり、交流を深めていった。俺もエルトリアに出向いてしばらく留守にしていたから、はやて達がどうなったのか落ち着いて聞けなかった。

そういった事もあり、忍と繋がっているこいつとは家には出向けず、外で待ち合わせするしかなかった。

「……すげえな。一度立ち上がれるようになると、回復も著しいな」
「あはは、わたしとしてはまだまだやけどな。ヴィータやザフィーラに付き添ってもろてようやくや」

 外で待ち合わせしたのは俺の事情もあるが、はやてからの希望でもあった。彼女は車椅子ではなく、自分の足で立っている。
完全に回復したのではなく、はやては杖をついていた。松葉杖と言った大袈裟なものではないが、歩行を補佐する役割を持った立派な杖だ。
本人の話では、デバイスの一種であるらしい。はやては魔導の才能はあるが、熱心ではない。ただ夜天の主として、魔導の道具は使えるようだ。

本人曰くあくまで日常生活を補強するために活用しているようだ。

「おっす、話には聞いてたがシグナムとシャマルは帰って来てねえんだな」
「こちらは何事もなく平穏に過ごしている。主も見ての通り、健やかに営んでいる」

 ヴィータとザフィーラ、少女と小狼の姿をした騎士達は元気そうだった。守護騎士達は現在別行動中である。
聖地の戦争ではヴィータとザフィーラが、エルトリアの開拓ではシグナムとシャマルに力を貸してもらった。
俺はフィアッセの脅迫の件もあって海鳴へ帰ることになったため、エルトリアの事はシグナム達に引き続き頼んでいる。

おかげで今戦力不足ではあるが、さりとてシグナム達を呼び戻すと過剰戦力になる。こういうのは判断が難しい。

「帰ってくるのは全然ええんやけど、急に顔を出したのは事情がありそうやね。まあ昨日の今日やから何となく理由はわかるけど」
「相変わらず妙に敏いやつだな、勘ぐられていたか」
「平和な街で爆弾騒ぎなんて起きれば、良介の関与を疑ってしまうよ」
「何でだよ、俺だって民間人だぞ!?」

 どういう関与を疑っているんだ、こいつ。確かに事件に関わってはいるが、テロと個人を結び付けられるのは多いに心外だった。
八神家の主であるだけではなく、俺が昔やっていた何でも屋の仕事を公認してくれただけあって、こいつは最近社会人じみている。
料理が上手な子供と言うだけではなく、老人介護まで引き受けられる幅を広げていると、社会へも目を向けられるようになったらしい。

夜天の主ともあると、指揮官的な特性もあるのかもしれない。こいつには豚に真珠でしかないだろうけど。

「どこかで腰を下ろして、と思ったけど、せっかくだし歩きながら話すか」
「そやね。事件後に不謹慎かもしれんけど、人通りも少ないから静かに歩けるしね」

 はやては俺の事情に精通しているので、変にごまかさずすべての事情を打ち明けられる。忍とも関係を深めているので、夜の一族の事情も少しは聞き及んでいる。
HGSに関してモフィアッセ達個人の事情を除けば、ある程度はきちんと説明もできる。超能力なんて、魔導のことまで知るこいつらからすれば決して未知なる分野ではない。
とはいえ日常とは程遠いキナ臭さではあるので、心を傷めないように気を使って話す必要はある。

俺は歩きながら、はやて達に説明をした。出会った当初は、はやてと並んで歩くなんて想像もできなかった。

「なるほど、これまた大変なことになってるんやね……わたしらに出来ることがあれば力になるよ」
「助かる。とはいえ今すぐに何かしてほしい訳じゃない」
「ふんふん、何か起きた時のための心積もりやね。声をかけられたら動けるようにしておけばええんか」
「くそっ、何か妙に察しが良くなったな」
「何でちょっと不満そうなんよ。これでも良介の家族やからね、色々考えられるようになっておかんとあかんやろ」

 八神はやては家族を得て、俺との生活を通じて成長していた。高町なのはのような健やかさではなく、少し背伸びをした少女として。
急に指揮官のような振る舞いができるようになったのではない。ただ少なくとも、自分の限界を受け止められている。
だからこそこの一年、海鳴でボランティア活動などを行って、少しでも早く大人になろうと努力したのだろう。

背を伸ばせないのであれば、せめて背伸びをして大きくなろうとしているのだ。

「合流してやりてえが、はやても言った通りアタシらが押しかけても急に何かが出来るわけじゃねえからな。
ただヤバくなったら、遠慮せずすぐにアタシに言え。

お前に手を出すことがどういう結果を招くのか、叩き込んでやるからよ」
「防衛であれば望むところではあるが、お前の支援者や協力者が対策を練っているのであれば、むしろ邪魔となろう。
その分気を張って、この街の見回りに当たるとしよう。お前の身内に手出しできないように守ってみせる」
「お前らなら安心して任せられる。いざとなれば頼んだぞ」

 海鳴に居を構えている以上、この街ははやて達にとってもある種縄張りでもある。
今までは事情も不明で自分達に塁が及ばないのであれば関わらなかったが、話を通しておけば別である。
マフィア達が俺たちへの牽制も兼ねて街を襲おうとすれば、ヴィータ達が防衛してくれる。この点だけでも十分ありがたかった。

力になってくれる存在がいるだけでも心強い。

「爆破テロ事件が起きて、街の人達も不安に思っているからね。パニックにならんように、ご近所さんにもわたしから話しておくわ。
だから街のことは安心して任せてくれればええけど」
「けど?」

「忍さんの事、あんまり除けもんにしてると自分から行動するかもしれんよ。連絡くらいしてあげたほうがええよ」
「えー、面倒くさいな……」

 心底嫌でそう言うと、はやては苦笑いしていた。俺の複雑な感情も、今のこいつなら理解できるらしい。
あの女も空気くらいは読めるので過干渉はしてこないだろうけど、無干渉で居続けると確かに押しかけてくるかもしれない。

厄介な女だった。






































<続く>


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2024/03/09(Sat) 14:34:20 [ No.1070 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十六話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは 相変わらず他人優先のお人好し一家に説明を終えた跡、俺は恭也と美由希だけ呼んで耳打ちしておく。
犯人達の狙いはクリステラ一家ではあるが、フィアッセの身内である高町家も無縁とは言い切れない。
幸いにも俺が海外で武装テロから救出した要人たちが恩義を感じてくれており、この家も警護してくれるようになった。

桃子達に話すと不安に思うかもしれないので、お前達にのみ話しておく――こんな感じで、夜の一族からの関与を言付けしておいた。

「お前の縁で俺達を警護してくださっているのか、それはありがたいな……」
「直接お礼を言いたいけれど難しいよね。伝言みたいで申し訳ないけど、良介から感謝を伝えておいてくれるかな」
「ああ、分かった。桃子達に不審に思われるような警護はしないだろうけど、お前達も警護がいるという点は頭に入れておいてくれ。
不審人物かどうかの区別は一見付きづらいかもしれないが、気になったら俺に連絡してくれ」

 恭也と美由希なら不審者かどうかの区別くらいつくだろうが、一応念の為連絡先は伝えておいた。
あまり他人と繋がるような連絡手段は持ちたくないのだが、最早この期に及んでそうも言ってられなかった。
一人旅とか出られない身の上になってしまって複雑だが、まあ全ては落ち着いたらそういった機会もあるかもしれないしな。

アリサと二人でのんびり放浪するのもいいかもしれない、妹さんも護衛で来るだろうけど。

「ただ本人から聞いているかもしれないが、多分しばらくはフィアッセと連絡を取るのは難しくなると思う。
代わりと言っては何だが、俺から様子を聞くくらいは出来るから言ってくれ」
「……お前には本当に世話になっているな。この恩は決して忘れないし、俺達に出来ることがあるなら言ってくれ」
「感謝を感じてくれているのなら、ディードを鍛えてやってくれ」
「任せて、良介よりも強くしてあげるからね」
「洒落にならんからやめろ」

 恭也は恐縮してばかりだが、美由希はむしろ俺に冗談まで言えるようになっている。去年和解してから、こいつの距離感も妙に近い。
美由希は昨年起きた家族問題を経て恭也と結ばれたので、恋愛感情なんぞ沸く余地はない。そういう意味では、男女の友情は恋愛を超えて成立したと言える。
恭也と正式に結ばれて、美由希も精神的な余裕と充実を得ている。義兄妹だからこその関係と言えるが、お互いを支え合っているようだ。

こういう状況だからこそ、二人に安定感があるのは頼もしかった。うちの子を預けるのだから、どっしり構えてほしいしな。

「良介さん、俺に出来ることはありませんか。何でもしますよ!」
「なんではしゃいどんのや、この猿。不謹慎やろ」
「う、うるせえな……俺は助手として良介さんの力になりたいのであって」

 城島晶が熱心に俺に訴えかけてくる。高町家の一員だから事情を説明する必要があっただけで、こいつを巻き込むつもりはない。
以前俺の事情でこいつを巻き込んでしまったので仕方なくある程度関わらせたのだが、その後も何だか懐かれてしまっているようだ。
城島晶は男勝りだが、あくまでも少女。空手を学んでいるとはいえ、道場レベルであって実戦経験は積んでいない。

俺もあまり偉そうなことはいえない。実戦経験はあるけれど、マフィア相手では晶とあまり大差はない。

「そうだな、レンと一緒に行動するというのはどうだ」
「やめてや、クロノさんに迷惑かけるやろ」
「クロノと一緒に行動しているんだな、今も」
「あっ」

 俺が何気なく指摘すると、レンは顔を真赤にして俺を睨んだ。別に誘導尋問した訳じゃないぞ。
レンはクロノから事情を聞かされているので、晶を窘めている。マフィア達相手に遊び半分で挑んではいけない。
クロノと一緒に行動しているのだって、別にレンが戦えるからではない。町の事情に精通しており、現地協力者として弁えているからだ。

現地協力者――そうか、こういう考え方もあるな。

「分かった、じゃあ晶にも協力してもらおうか」
「ちょっと良介、晶を事件に関わらせるのは」
「分かってるよ――晶、この道場で世話になるディードには双子の姉妹がいる。
そいつはこの町に詳しくないから、現地案内して手助けしてやってくれ」

 爆破テロ事件が起きた後で今事態は硬直化しており、なのは達に説明もしたがマフィア達は一時的に撤退している。
ディードも剣の修行に励むとあって、オットーも自分にできることを行うべく試行錯誤している。
オットーの能力はレイストームと呼ばれ、広域攻撃や結界能力といった能力全般を行使できる。射撃に秀でているが、結界の側面もある便利な能力だ。

この町における俺の関係者各位の防衛力を高めるべく、町中を探索すると言っていた。その手伝いを行ってもらおう。


「オットーは専門家だから、指示には必ず従うように。ただ年頃の女の子でもあるから親しくしてやってくれ」
「そういう事なら任せてください。一緒に協力して事件解決に貢献します!」

 性格こそぜんぜん違うが、人見知りしない城島晶の活発な一面ならオットーとも上手くやれるかもしれない。
俺の手伝いをしてくれるのはありがたいが、ディードやオットーはまだまだ生まれたばかりの子供だからな。
あまり血なまぐさい事ばかりに付き合わせてばかりなのもどうかと思うので、こうやって少しでも他者とも交流を深めて欲しい。

……肝心の俺がそういう事を進んでやっていないのだが、その点は棚上げしておく。

「このまま犯人が捕まって解決してくれたら一番ええんやけど、高望みなんかな」
「分からんとか言いようがない。ただ俺としてはあまり悲観的には見ていない。
事態は決して悪化している訳じゃないし、皆それぞれ無理せず出来ることをやっているからな。

最悪が起きないように立ち回っていくんだ」
「ふーん……以前とは違うポジティブさやな」
「以前は何だったんだ」
「何の根拠もなかったやん」
「ぐっ……」

 自分が強いということに何の疑問も抱いていなかった。だからこそ現実との乖離に苦しまされ、多くの被害が出てしまった。
レンも過去プレシア二誘拐された経緯もあって関わっていたからこそ、こうして苦言を述べている。責めているわけではないのだとは分かっている。
こいつとの関係も今では腐れ縁的な繋がりとなっているが、軽口が叩けているだけでも少しは進展していると言うべきか。

まだ恋愛とまでは言わないが、クロノとも親しく出来ているようだし、上手くいってほしいとは思っている。


「おにーちゃん、準備できました。行きましょう」
「行きましょうって……お前、一緒に来るのか」
「はい。フィアッセさんの事も気になりますし、なのはも関わってますから」

 桃子がよく許可したものだと思ったが、そういえば無理はしないようにすると先程約束したばかりだ。
案外お目付け役として高町家から抜擢されたのかもしれない。なのはが一緒なら、俺も無茶はしないだろうと。

その考え方は的を得ているので、何だかムカついた。家族というだけあって見透かされている。

「分かった。いざとなったらお前に砲撃魔法でもしてもらうか」
「ええっ、人に向けて撃つのはちょっと……」
「砲撃の意味がねえ!?」

 何のために魔法を学んだんだ、こいつ。
とりあえず高町の家にディードを預けて、俺は次の行動に出る。

協力をお願いできるアテはある。






































<続く>


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2024/03/03(Sun) 00:16:31 [ No.1069 ]

◆ 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第六十五話 投稿者:リョウ@管理人  引用する 
高町なのは  いつも悩むのはこの瞬間――他人に事情を説明しなければならない時である。
俺が全ての事情を知っているが、相手側はそうではない。それぞれの環境や立場、考え方や価値観をふまえて考慮する必要がある。
例えば高町家の連中に異世界の事を話しても埒が明かないし、ミッドチルダの連中に地球について説明するのは日が暮れる。他人に理解できるように説明するのは難しい。

今回の場合だとフィアッセ達HGS患者の事、超能力の事、チャイニーズマフィアの事、うちの子達魔導師や戦闘機人の事を、彼らに説明するのは困難だった。

「まず予め言っておくと、個人的な事情や政治的背景があって、お前たちでも話せない事がある。申し訳ないが、そこは分かって欲しい」
「まさかあんたの口から政治とか個人とかの配慮や言葉を聞くことになるとは思わんかったわ」

 お茶やお茶菓子を用意しながらレンは茶化してくるが、批判ではなく肯定の意味合いで場を和ませてくれたのだ。
彼女はジュエルシード事件でプレシアに誘拐された経緯があって、異世界事情はある程度知っている。だから俺の言いたいことは察してくれている。
実際この事件でもシルバーレイの暗躍を、現場で見知って支援してくれた。まだ学生の身分だが、大人の事情を感じてくれてはいるのだ。

晶は再び俺に関われそうだと分かって興奮気味に頷き、恭也達も理解を示してくれた。

「そのうえでおまえ達だからこそ話せることもある。今から話すことは絶対に他言しないでほしい」
「分かったわ、約束する。私達のことを信じてくれてありがとう」

 この中で唯一大人と言い切れる女性の桃子が代表して、嬉しそうに承諾してくれた。俺が心を開いてくれたのだと思っているらしい。
そんなつもりは別にないのだが、考えてみれば高町家相手に家族だからこそ言えるような話はあまりしてこなかった気がする。
別に避けていた訳ではないのだが、殊更になって打ち明けるのも気恥ずかしい気がして言えなかったのだ。

あるいは家族だからこそ、敢えて言えなかったという不思議な気持ちがあったのかもしれない。

「ではまずお前らが一番気がかりなことから話すと、フィアッセは無事だ。父親に保護されていて、事件による精神的なショックもさほどない。
今何が起きているのかについて、俺が海鳴に帰ってきてからの経緯を話そう」

 HGSや超能力についてはフィアッセ個人の事情なので、俺から打ち明けるのは違うので黙っておく。誘拐や爆破テロについては、フィアッセのご両親の事情で説明できる。
その上で何が起きていたのかについては、ある程度正確に話した。この辺は俺の人間関係なので、別に隠し立てするほどではない。どうせバレるだろうし、ある程度は説明しておく。
なにしろディアーチェやディード達は自分から俺の子供だと胸を張ってるし、俺のような民間人が何の背景もなく事件に関わってるのだとすると桃子達も心配するだろう。

だから俺の事情を説明することでフィアッセの素性への関心を逸らし、この先も事件に関わっていくことへの免罪符とした。

「以前からある程度は聞かされてはいたが……その子は本当に、お前の子供なのか」
「俺の遺伝子より製造されたクローンだ。特殊な育ち故に、特殊な力を持っている。
今回の事件でもこの子達の能力を活かし、テロ事件を未然に防ぎ、フィアッセ達への支援を行っている」
「爆弾の解除に、マフィア達の襲撃阻止……またドエライことに巻き込まれてるな」

 恭也達はともかく、レンはクロノからある程度聞かされているはずだが、この場で聞いた事にして感想を口にしている。
桃子は俺の留守中ナカジマ家の子供達の面倒を見てもらっているので、家族方面の事情は分かっている。
ディードがクローンとして創り出されたと聞いても、誰も眉を顰める素振りもない。肝の座った連中だと思う。

まあ、そういう奴らだと分かっているからこそ話しているが。

「では先日起きた爆破テロ事件はやっぱりフィアッセやご家族が狙われていて、それを良介が守ってくれたんだね」
「守ったというか、爆弾の解除に協力しただけだ。警備をしてくれたのはあくまで親父さんが雇った連中だよ」
「エリス・マクガーレンか……彼女がフィアッセを守ってくれているのか」

 感謝の意味を込めて事情を確認する美由希に大袈裟だと俺は手を振る傍らで、恭也はむしろフィアッセの護衛について考える様子を見せる。
少し聞いてみると、共通の幼馴染らしい。どう見ても外国人だった筈だが、フィアッセを通じて関係がある様子だった。
他人の人間関係なんぞ踏み込む気はないのだが、複雑な事情でもあるのか恭也は難しい顔を崩さない。

エリスも美人だったし、こいつ堅物に見えて女関係が広いな……羨ましいとは全く思わないけど。

「フィアッセさんが無事なのは安心ですけど、話を聞いた限りまだ帰ってこれないんですよね」
「犯人達はあくまで追っ払っただけで、捕まった訳じゃないからな。
ニュースでは解決したみたいな口ぶりだけど、諸外国とも協力してテロ撲滅に動き出すところだ」
「おにーちゃん、逃げた犯人さん達はまだこの町にいるんでしょうか……」
「少なくとも現場からは流石に撤退したはずだ。警察連中も鬼のように追跡しているだろうし、身を潜めるか距離を置くはずだぞ」

 マフィア相手に常識を語るのも馬鹿らしいが、作戦自体は失敗の連続なのでこれ以上無理な行動には少なくとも今は出ないだろう。
警察や国の話をしているが、実際は夜の一族の連中も動いてくれている。彼女達にとっても敵組織が敗走している今がチャンスとも言えるからだ。
世界中から追われる身となっているが、チャイニーズマフィアという立場からすれば同情する余地なんぞ無いし、そもそも最初から肯定される存在でもない。

心配そうな晶やなのはに、俺は安心材料を口にした。

「と、ここまで口にしておいて何だが、この子に剣を教えてやって欲しい」
「……一つ聞くが、剣を学びたいのは犯人への報復の為か」
「その気持ちがないと言えば嘘になります。ですが私にとって一番の気持ちは、あくまでもお父様です。
お父様の娘として、私は剣を育てていきたい。

凶賊を逃したことへの責任は、自分の剣を見つめ直す形で取りたいのです」

 そう言ってディードは深々と頭を下げる。長い黒髪を揺らし、声を震わせて嘆願した。
敗北を屈辱に思わないはずがない。初めての挫折に甘んじる真似は絶対にできない。
次こそ勝つという気持ちは犯人への復讐心は確かにあるだろうが、それ以上に自分の襟を今一度正したいのだ。

真っ直ぐな姿勢に恭也は感嘆の声を漏らし、美由希は少しだけ苦味のある微笑みを見せる。

「いやはや、こんな良い子がと思ってたけど……やっぱり良介の子供だね。負けっぱなしでは終われないか」
「どういう意味だ。お前だって似たようなものだろう」
「あはは、まあね。たとえ女だって、剣で負けたくないもん。すごく気持ちが分かる、一緒に頑張ろうね」

 妹弟子が出来て嬉しいのか、なんだか美由希のほうが嬉しそうだった。桃子も笑って、家で面倒を見るとまで言ってくれた。
昔俺が居候していた部屋も、ディードに貸出してくれるらしい。しばらく表立って動けないので、俺と一緒に行動する必要もないしな。

ある程度話が一段落したことで、恭也が最後に確認をした。

「良介、フィアッセ達を狙った爆弾犯について何か知っていることはないか」
「何だ、急に。最初に言ったがまだ確定事項じゃないし、直接顔を見ていないのもあるから断言して話せないぞ」
「そうか……いや、少し気になってな。
お前にもいずれ――いや、お前だからこそ話したいことがある。

母さんとも話し合った上で心を整理して、伝えたい。後日改めて話せないか」
「? ああ、分かった……」

 爆弾犯についてはコードネームとそれに纏わる逸話しか聞いてないので、恭也達には知らせなかった。
犯人の凶悪さなんて伝えても怖がらせるだけし、そんな奴に狙われるフィアッセのことが心配になるだろうしな。

ただ、彼らの暗い顔が少し気になった。






































<続く>


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2024/02/24(Sat) 16:57:39 [ No.1068 ]

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